第9部:予想外-6
本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。
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「……ねえ、あれって……」
シキが一番に口を開いた。「鉄砲じゃないよ、ね……?」
「違うって、思いたい……」
ポンは開いた口が塞がらない様子だった。
丁度三人がいる所からは見えて、カズヤたちの所からだと死角になっている場所に、テルヒは立っていた。その手に彼女は重たそうな黒い塊を構え、真っ直ぐ日向に向かって発砲したのだ。
「あいつ、狂ってるぞ!正気じゃない!
っつーか、こいつら何なんだ……?」
サキは呟いた。
「ったく、ナミたちは何やってんだよ。殺されちゃうじゃないか!」
ポンが殺されると心配しているのは、自分たちではなくカズヤたちのことだった。
「また構えた!あの人、動けないよ。ったく、カズヤは何やってんだよ。あの人が殺されちゃうじゃないか!」
もう堪えきれず、シキもポンも立ち上がり身を乗り出した。
「―――っ!」
「え?何処だよ、サキ?」
耳に馴染みの深い名前をサキが呼び、その持ち主の居場所をポンが問い正した時には、もうサキの姿はなかった。
「ありゃ、使っちゃったよヮ!」
サキは、無意識のうちに瞬間移動をし、日向の所に飛んでいた。
いつも細く伏せられている目をカッと見開き、飛んできた弾丸を見据えた。
「―――っ!」
日向は小さく声を上げた。
サキから青白い空気が生まれ、日向をも包んでいる。
彼は右手で日向を支え、左手を飛んできた弾丸に向かって伸ばした。彼はその弾丸を掴んだのだ。
「気を付けろっ!女が狙ってんだよ、陰から!」
サキは叫んだ。
「サキ!どうしてここに?」
「お前は馬鹿か!次の標的はお前だよ、カズヤ!」
しかしサキの心配は、ポンとシキが解消していた。何とかしなければと思っていた二人は、サキが消えるとすぐに、テルヒを抑え込みに走ったのだ。
「どうして……?」
「……」
サキは日向に小さく呟き、日向は黙ったままだった。
「日向!大丈夫っ?」
信吾が走り寄ってきた。
サキはいつもの伏し目に戻し、信吾を見た。
「あ……」
信吾は小さな声を上げた。
サキも同じ声を上げた。
「あなた、どっかでお会いしたこと、ありましたか?」
「……?ないと思うけど……」
信吾の問いを一度は否定したものの、サキは首を傾げた。が、今はそれどころではない。すぐもう一度日向に向き直った。
「お前はどうしてこんなことをするんだ。させるなってあんな伝言頼んでおいて、どうしてカズヤにこんなことをさせるんだッ!」
「何で初対面の人間に、わけの解らないことを言われなきゃならないかなぁ。ま、救けてくれてありがとう」
「おい、しらばっくれるな!」
サキは日向の胸倉を掴んだ。
「誰かと人違いしてるよ、あんた。オレ、あんたとは初めて会う顔だもん。それにオレは一度会った顔は忘れない」
日向は困ったように言った。
「サキ!どうしてここサいんのヮ?」
カズヤが的外れなことを言いながら、走って近付いて来た所為で、目の前の黒髪の男とのやりとりはお預けだ。
「お前はバカか!」
サキは再会を喜ぶ前に、いきなりカズヤの頬を打った。
「何だよ、痛ぇなャ」
「話は後だ。お前だけこの状況でノホホンとすんじゃねぇよっ!」
「あっ、そっか」
サキは相変わらずのカズヤを前に大きなため息をつき、ポンとシキに目配せをすると、彼の流れるような技を披露し始めた。二人もそれに倣ってを攻め、一度乱れた《反日教》の統制が、彼らのお陰で戻ってきた。
もともと、《日向四天王》さえいなければ烏合の衆のようなものだ。事態はすぐに片付く。
テルヒはポンに気絶させられ、シキはその手に握られていた拳銃を取り上げた。他の《日向四天王》もサキや、カズヤと信吾に気絶させられ、勝利は《反日教》のものなのは明らかだった。
そのような状態になった時になって、ようやくパトカーのサイレンが聞こえてきたのだ。
「遅いよ、まったくもう」
日向の応急処置をしていたシキが、安心したような声を上げた。
しかし安心したのは部外者だけで、当事者たちは逃げ出そうと慌てだした。
当然だ。こんな所で大乱闘などしていたら、補導されて当然だし、しかもわけ判らないうちに発砲騒ぎまで起こしているのだ。
まるで蜂の巣を突いたような騒ぎを鎮めたのは日向だった。
「逃げないでいい!ここにいる人間は逃げないでいいんだ」
日向は逃げようとする彼らに、優しい声を投げた。
パトカーの中から下りてきた一人の私服警官は、先ずテルヒを見付けた。気絶している彼女を部下らしき制服たちに任せると、彼は真直ぐ日向を目指してやって来た。
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