第9部:予想外-4
本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。
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「何でさらさらストレートヘアのあれがカズヤなのよ。天然のくせっ毛よ、あいつは」
その場を遠巻きに見ていたコメチが、サキに抗議した。
「判ってるさ」
サキは見守るように、シンを見ていた。
「ふははははっ!」
ヘルメットからシンの素顔が覗いた。黒髪はヘルメットにくっついたままで、出てきた頭は銀髪でハリネズミのような髪型だった。
「シンじゃねーんだな、オレは。《反日向・反教師同盟》盟主、鈴木和哉なんだよ!」
それは、《日向四天王》にとっては大どんでん返しだった。
鈴木和哉は真面目で、中立の立場を貫いている男だと思っていたのだから。それに何だかんだ言っても、《反日教》の盟主は信吾だと思っていたのだ。
大どんでん返しをくらったのは《日向四天王》だけではなかった。
「カズヤ!何てことを……」
サキはそれ以上、何も言えなくなっていた。外見も原因ではあるが、よりによって盟主とは……。
それは他の四人も同じだった。
カズヤを迎えに行く手間は省けたが、この状況では連れて行くどころの話ではない。
五人が五人、あんぐりと口を開けたままの同じ表情をしている。
動じていないのは、事前に何があっても驚くなと言われていた、《反日教》だけだった。
「面白いねぇ、《日向》の分裂。オレらにとっちゃ、どっちがどうなったっていいぜ」
いつしかカズヤの傍らには、信吾が寄り添っていた。
「さあ、どうしたの?さっさとおやりなさいな、あんたたちの総長を!きちんと見届けてあげるから」
信吾は《日向四天王》を煽った。
「あんたみたいなオカマに命令されたくないわ!」
テルヒはそう怒鳴り返すと、四人の輪の中心にいる日向に向き直った。
「なあ、テルヒ。結局かすみちゃんに命令されて動いてるように見えるぞ〜」
日向は欠伸をしながら言った。
「だ、黙れ!」
困惑を隠しきれず、テルヒは日向に蹴りを見舞った。それを契機に、《日向四天王》は日向に手を挙げ始めた。これはいわゆる集団リンチ状態だ。
「お前らの方が、やっぱり立場悪いと思うな、オレ」
《日向四天王》の攻撃が一段落して、日向は防御の体勢を解くと、蚊に刺されたくらいにしか感じていない様子だった。
思わず《日向四天王》は一歩下がった。
「もう、終わり?」
日向は一歩詰め寄った。
「……な、何もシンを相手にしてるわけじゃねぇんだ。避けるだけしか能がないんじゃ、先は見えてるよな」
川上は戸惑いを隠すかのように言った。
「そうだな、シンだったらどうなってることやら。あいつはヘルメット被ってないと、手加減できないらしいからな、お前らが直接対決したくない相手、ナンバーワンってとこだろ」
日向はにこにこしながら《日向四天王》との間を、また縮めた。
「この野郎!」
再び《日向四天王》のリンチが始まったが、今度は素直に攻撃を受けようとはしなかった。
日向は軽々と四人を飛び越えて、岩城の背後を取った。
「残念だったねぇ。オレ、お前らが格好いいとこ見せられるようにと思ってさ、喧嘩できないふりをしてただけなんだよね」
背後を取っておきながら、日向は岩城に手を出したりはしなかった。
打ち合せ通りの行動だ。
カズヤは信吾と目配せを交わし、日向と背中合わせに立って、カズヤは野口と、信吾は川上と向かい合った。
「四対一は卑怯だと思うんだな」
「き、貴様ら……」
それ以上、四人は何も言わなかった。あとは行動あるのみだ。
「おーっと、ちょっと待った」
日向がふざけた声で、待ったをかけた。
「ざけんな!今更怖気づいたの」
「そんなわけねぇだろ。シンにも助けっ人頼もうと思ってさ」
日向の余裕の一言に、《日向四天王》は辺りを見回してシンを捜した。
日向はそんな四人を笑いながら、おもむろに脱色した茶髪に手をかけた。
現れたのは漆黒のストレートヘア。
「―――!」
今度こそ、四人の顔から血の気が引いた。
「ヘルメットでも被るか」
日向は少し声色を変え、シンを演じた。「大丈夫、本気出さないようにするからさ」
「な……何なの?」
テルヒはようやく、それだけ言った。
「後で説明してやるよ。今はオレとお前のどっちが、《日向》の人間に慕われているかを教えてやる」
《日向》はそういうと、カズヤと信吾を従えて高台に登り、大声を上げた。
「さあ、《日向》の者たちよ、オレ、日向がたとえどんな人間であっても従ってくれるなら、今から《反日教》と《SIN》の方につけ!どんなことがあっても、悪いようにはしない。オレを信じられる者だけでいい!」
これには、心の準備をしてきた《反日教》も、場慣れしている《日向》も、戸惑いを顕にした。
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