表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/77

第7部:インターバル-1

本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。

http://ncode.syosetu.com/n9537d/

7;インターバル


 先日の、《夏青葉なつあおば》とカズヤが無関係であることを強調する為の行動は、彼が同一人物であることを知っている者、つまりはいつも集まる中心メンバーの五人には知らされていた。そしてそれが最善であったと、五人は納得していた。

 しかし全てが思い通りになっていたわけではない。水面下で問題がくすぶっていた。

 他の《反日教はんにちきょう》のメンバーは、《夏青葉》が誰だか知らないのだから、カズヤたちのその意図いとを理解できるわけないのだ。


「ねえ、大変よ」

「なぁに、絵美ちゃん?宿題やってないの?見せてあげてもいいわ」

 教室に駆け込んできた絵美に、信吾はのんびりとたずねた。学校での普段の彼は、策士の彼とあまりに違う。

 「違うわよ、もう」と軽く信吾の頭を小突き、絵美は眉間にしわを寄せ、信吾の耳元でささやいた。

「この間のアレ、失敗よ。詳しくは後で話すけど」

 アレで通じることといえば、《夏青葉》とカズヤの関係のことだ。

 その絵美の表情に、梅津が気付かないわけがない。

「バレたのかよ?」

「判らないわ。覚悟しときましょ」

 もう自分が《反日教》に属していることを隠す必要がなくなった梅津は、不安気な表情をあらわに信吾に問いかけ、信吾は表情を崩さずに答えた。

 信吾は怒りや不快の表情は露骨に表すくせに、不安を隠すような笑顔や、不安を増長させるような暗い顔をすることはしない。本当に困ったりあせったりしている時は、顔の筋肉を動かすことを忘れたかのように、表情が動かなくなる。

 それを知っている梅津や、遠巻きに見ていたカズヤは、ただならぬ事態を察した。

 先日の《日向》との直接対決に、当然絵美をはじめとする女子は、参加していなかった。だから詳しい事情は知らずにいた。


 放課後、例によって茂木接骨院の二階に、信吾たち中心メンバーは集まっていた。

「一体何なのさ?」

 待ちきれないように、加賀見は絵美に問い正した。

「落ち着いて聞いてね」

 前置きをされると、かえって不安がつのる。

「《反日教》の三年の十三人、全員抜けるって言うの。かすみちゃんには言いにくいからって、あたしのとこに来たのよ、今日」

 「えっ?」と梅津は声を上げ、「何でだよ!」と加賀見は激しく息巻いた。「どうして……?」と、聡は呆然としている。信吾は身じろぎ一つせずにいた。


「そのうちの一人にいたのよ。引き止めはしないからって」

「それは賢明ね。あたし、意志のない人間をその気にさせるなんて、無理いできないもの」

 ようやく信吾が、いつもの皮肉を言った。

「もう、かすみちゃんってば。今、そんな嫌味は聞きたくないわ。とにかく最後まで聞いてよね。まったく、らしくないんだから」

 絵美はいたって真面目で、そんな皮肉たっぷりの信吾に、露骨に不愉快な顔を向けた。


「どういう経緯いきさつがあったかは知らないけど、彼らはね、警察に通報したのが《夏青葉》だと思ってるの。

 それだけなら未だいいわ。自分だけ警察に通報して、捕まりそうになる前に逃げたと思ってるのよ。それで、裏切られた気分なんでしょう、すっかりやる気なくしたみたい。

 一応事情は知らされていても、あたしは現場にいなかったから、どういう状況か知らないし、だから説明も何もできなかったわ。あたしが知ってるのは、カズヤくんが《夏青葉》じゃないって印象付ける為に、そうすることが最善だったってことだけで、それはみんなに言えないじゃない」

 絵美の判断は正しい。

 しかし一同は黙るしかなかった。


 よく考えれば、真実を何も知らされていない人間には、確かに《夏青葉》の行動は、その場から逃げたように映ってしまうだろう。

 バレないようにするということに固執しすぎた結果が、この事態を生んでしまったのだ。


「未だあるのよ。《夏青葉》が信頼を失う原因は。

 《SIN》のことなんだけど、あたしはよく判らないんだけどね、《SIN》は《日向》に寝返らなかったんでしょ」

 確かにその通りだ。

 《夏青葉》が事前に話した内容は、ことごとくつがえされている。

「つまり、《夏青葉》は最初っからつまづいちゃったわけね。仕方ないわねぇ……」

「待てよ、かすみちゃん!《SIN》はあの状況を見て、それで臨機応変に態度を変えたんだろ。連中の思惑なんか、予定通りにいくわけないじゃないか。

 いや、《SIN》だけじゃない、誰だって思い通りに他人を動かすことはできないだろ!」

 加賀美が立ち上がって大声を上げた。

 それも正しい。だけど、そんな悠長なことを言っていられる状況にない。

「信吾に言ったって、しょうがないじゃないか、加賀見。そんなこと、素人に判るわけないだろ」

 自分でも意外なほど、カズヤは落ち着いて加賀見をさとした。




↓↓↓先行記事&物語の世界観解説を連載している作者のブログです。是非おいで下さい。

http://blogs.yahoo.co.jp/alfraia


また、日本ブログ村とアルファポリスに参加しております。

お手数ですがバナーの1クリックをお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ