第7部:インターバル-1
本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。
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7;インターバル
先日の、《夏青葉》とカズヤが無関係であることを強調する為の行動は、彼が同一人物であることを知っている者、つまりはいつも集まる中心メンバーの五人には知らされていた。そしてそれが最善であったと、五人は納得していた。
しかし全てが思い通りになっていたわけではない。水面下で問題が燻っていた。
他の《反日教》のメンバーは、《夏青葉》が誰だか知らないのだから、カズヤたちのその意図を理解できるわけないのだ。
「ねえ、大変よ」
「なぁに、絵美ちゃん?宿題やってないの?見せてあげてもいいわ」
教室に駆け込んできた絵美に、信吾はのんびりと訊ねた。学校での普段の彼は、策士の彼とあまりに違う。
「違うわよ、もう」と軽く信吾の頭を小突き、絵美は眉間に皺を寄せ、信吾の耳元で囁いた。
「この間のアレ、失敗よ。詳しくは後で話すけど」
アレで通じることといえば、《夏青葉》とカズヤの関係のことだ。
その絵美の表情に、梅津が気付かないわけがない。
「バレたのかよ?」
「判らないわ。覚悟しときましょ」
もう自分が《反日教》に属していることを隠す必要がなくなった梅津は、不安気な表情を顕に信吾に問いかけ、信吾は表情を崩さずに答えた。
信吾は怒りや不快の表情は露骨に表すくせに、不安を隠すような笑顔や、不安を増長させるような暗い顔をすることはしない。本当に困ったり焦ったりしている時は、顔の筋肉を動かすことを忘れたかのように、表情が動かなくなる。
それを知っている梅津や、遠巻きに見ていたカズヤは、ただならぬ事態を察した。
先日の《日向》との直接対決に、当然絵美をはじめとする女子は、参加していなかった。だから詳しい事情は知らずにいた。
放課後、例によって茂木接骨院の二階に、信吾たち中心メンバーは集まっていた。
「一体何なのさ?」
待ちきれないように、加賀見は絵美に問い正した。
「落ち着いて聞いてね」
前置きをされると、かえって不安が募る。
「《反日教》の三年の十三人、全員抜けるって言うの。かすみちゃんには言いにくいからって、あたしのとこに来たのよ、今日」
「えっ?」と梅津は声を上げ、「何でだよ!」と加賀見は激しく息巻いた。「どうして……?」と、聡は呆然としている。信吾は身じろぎ一つせずにいた。
「そのうちの一人に訊いたのよ。引き止めはしないからって」
「それは賢明ね。あたし、意志のない人間をその気にさせるなんて、無理強いできないもの」
ようやく信吾が、いつもの皮肉を言った。
「もう、かすみちゃんってば。今、そんな嫌味は聞きたくないわ。とにかく最後まで聞いてよね。まったく、らしくないんだから」
絵美はいたって真面目で、そんな皮肉たっぷりの信吾に、露骨に不愉快な顔を向けた。
「どういう経緯があったかは知らないけど、彼らはね、警察に通報したのが《夏青葉》だと思ってるの。
それだけなら未だいいわ。自分だけ警察に通報して、捕まりそうになる前に逃げたと思ってるのよ。それで、裏切られた気分なんでしょう、すっかりやる気なくしたみたい。
一応事情は知らされていても、あたしは現場にいなかったから、どういう状況か知らないし、だから説明も何もできなかったわ。あたしが知ってるのは、カズヤくんが《夏青葉》じゃないって印象付ける為に、そうすることが最善だったってことだけで、それはみんなに言えないじゃない」
絵美の判断は正しい。
しかし一同は黙るしかなかった。
よく考えれば、真実を何も知らされていない人間には、確かに《夏青葉》の行動は、その場から逃げたように映ってしまうだろう。
バレないようにするということに固執しすぎた結果が、この事態を生んでしまったのだ。
「未だあるのよ。《夏青葉》が信頼を失う原因は。
《SIN》のことなんだけど、あたしはよく判らないんだけどね、《SIN》は《日向》に寝返らなかったんでしょ」
確かにその通りだ。
《夏青葉》が事前に話した内容は、悉く覆されている。
「つまり、《夏青葉》は最初っから躓いちゃったわけね。仕方ないわねぇ……」
「待てよ、かすみちゃん!《SIN》はあの状況を見て、それで臨機応変に態度を変えたんだろ。連中の思惑なんか、予定通りにいくわけないじゃないか。
いや、《SIN》だけじゃない、誰だって思い通りに他人を動かすことはできないだろ!」
加賀美が立ち上がって大声を上げた。
それも正しい。だけど、そんな悠長なことを言っていられる状況にない。
「信吾に言ったって、しょうがないじゃないか、加賀見。そんなこと、素人に判るわけないだろ」
自分でも意外なほど、カズヤは落ち着いて加賀見を諭した。
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