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第6部:第一ラウンド-7

本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。

http://ncode.syosetu.com/n9537d/

「どうしたのさ?」

 カズヤは争いにまぎれて信吾にたずねた。

「これ以上待ってたら、《日向》が動くわ。《日向》が動いてから《SIN》が寝返ったりしたら、それこそ大変よ。だったら今のうちでしょ」

「ああ、そっか」

 この争いの中、二人は争いに慣れていない仲間を救けるために、本気の勝負を避けて走っていた。結局これでは敵の戦力の低下には、全く繋がっていない。


 テルヒはその《反日教》の動きを見逃しはしなかった。騒ぎに紛れて仲間の一人を逃がし、新たな戦力を呼びに行かせようとしていた。

「撤収するか。合図を」

 シンは神宮司に言った。

「あいつ、追わないのか?」

 神宮司は、逃がした《日向》の一人を顎で示した。

「そういうことは、《反日教》に任せろ」

 シンの言う通りだった。


「なっちゃん、追ってちょうだい!」

 信吾はカズヤに向かって怒鳴っていた。カズヤはそこに意図するものを、瞬時に読み取らなくてはならない。

「おう!」

 呼びにくいとはいえ、《夏青葉》だから『なっちゃん』とは、いくらなんでも芸がなさすぎるとは思ったが、今はそれどころではない。カズヤは出て行った《日向》の一人を追って、自分も外に出て行った。


「神宮、先が見えただろ。春と夏だけなら勝てたかもしれないけど、これじゃ無理だ」

「?」

 神宮司は、シンの言葉に耳を疑った。

「二人の統制ミスさ。あの二人は仲間を信じていないから、仲間がやられる前に救けようとしてた。もし信じてたら、仲間を捨ててでも目的を達成するために動くはずさ。

 ってことで、今日の喧嘩は終わり。素人集団がぼこぼこにされる前に、警察呼んでやろうぜ。で、《反日教》だけ警察から救ってやろうかな。オレらの敵は、一応《日向》だからな」

 神宮司は納得し、退却の合図を出した。


 一方のカズヤは、シンと神宮司の間でそのような会話がされていることなど知るわけもなく、抜け出した者を追いかけた。しかし、彼の思惑は捕まえることではなく、わざと見失ったふりをして物陰に隠れると、瞬間移動をしてカズヤの姿に戻り、再び公園に戻って無関係を演じることだった。

 シナリオとしては、一度帰ったカズヤが信吾を心配して戻ってきた、というもののはずだった。勿論すぐに《夏青葉》に戻ることも忘れてはいない。


 ところが、戻ってみると雰囲気ががらりと変わっている。パトカーのサイレンが近付き、現場は蜘蛛くもの子を散らした騒ぎになっていた。

―――まさか、さっきのやつが、警察にたれ込んだんじゃ……。《日向》に限ってなぁ。《SIN》か!

 よく見ると、逃げているのは日向の連中ばかりで、《反日教》や《SIN》の連中は一人もいない。

 そうこうするうちに、警察がなだれ込んできた。

―――ヤベッ、逃げなきゃ……

 カズヤは隠れていた木陰から、不自然に思われないようにゆっくりと離れ、そして走り出した。すると運が悪いことに、一台のパトカーに正面から行き合ってしまった。

―――最悪。野次馬のふりでもしてりゃ良かったよヮ。今更オレは無関係なんですっつっても信じてくれないだろうし……

 頭を掻きながらそんなことを考えていると、地面を走っていたはずの足が宙に浮いた。


「?」

「バカじゃねぇの。何、のこのこ部外者がのぞきに来てんだよ。代わりに捕まりに来たのかよ」

 すれ違いざまカズヤを抱き上げたのは、神宮司の運転するバイクの後に乗っているシンだった。

「ったく、全員逃がし切れたか確認に来たら、この兄ちゃんだ。噂には聞いてるよ、あんたのことは。ガキどもの間の中立の人間、鈴木和哉ってんだろ」

 カズヤは頷いた。

「喧嘩が珍しいのも、かすみちゃんが気になるのも解るけどよ、止めとけよ、覗きは」

 シンはそう言うと、カズヤを大通りに出る少し前で降ろした。

「せっかくお近付きになれたから、一つ頼まれてくれないか」

 シンはヘルメットを取ろうとせず、シールドを持ち挙げることもせずに、降ろしたカズヤに声をかけた。

 その声は少年のようだった。

「何を?」

「日向本人と、かすみちゃんに伝えてほしい。

《SIN》はどっちの味方でもないが、話はいつでも聞くってな」

 カズヤは首をかしげたが、それ以上考えはしなかった。そういうことは信吾の仕事だ。

「解った。それだけでいいんだな」

「充分だ。勝手知ったる仲みたいなもんだ。どう受け取るかは連中次第ってことで」

「それでいいなら」

 カズヤは応じた。

 今のカズヤにとって大事なことは、自分がどういう存在であるかを察知されてはいけない、ということだけだ。

 バレてはいない。《夏青葉》がカズヤだということは、少なくともシンにはバレていない。

 それはカズヤに、少しだけ自信を与えた。




次回から第7部;インターバル〜を始めます。




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