第6部:第一ラウンド-6
本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。
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その様子を遠くから見ていた者がいた。
《SIN》だ。これから《反日教》に加勢する予定の彼らは、当初の予定通り、形勢を見極めようとしていた。
「《反日教》は、味方を隠してるな。あの五人が疲れた頃に、残りを投入してくるつもりだろう」
「え?」
神宮司はシンの呟きに驚いた。
遠くからでは何も見えないというのにだ。
「ちょっと考えれば判ることだよ。あんな素人集団が、たった五人で挑むなんてこと、できるわけないだろ。今まで一人じゃ何もできないような連中だったんだぜ」
「あ、そっか」
神宮司はすぐに思考を切り替えた。
「じゃ、取り敢えずは《反日教》に味方して、味方が参戦してきたら《日向》に寝返るか」
「どうしようかな。今日は《日向》を手伝わなくてもいいかもしれないぞ」
シンと神宮司を中心に十人くらいが、今日の《SIN》の精鋭として集まっていた。
「ま、行くか。五人で三十人は可哀相だ」
シンは司令を出し、エンジンを噴かして公園に乱入した。
「《SIN》!」
その場にいた全員は、その想いは様々だったが同じ言葉を口にした。
「ケガはさせんなよ!《SIN》の恥だ!」
「了解!」
状況は一転し、《日向》は窮地に追いやられた。かといって、《反日教》が何かしたわけではなく、それは《SIN》のお陰で、《反日教》の五人は手抜きをしたくらいだ。《日向》が窮地に陥れば陥るほど、《SIN》が寝返るのが早くなる。
シンその人は、神宮司の後部座席から降りて、ただ一人高みの見物をしている。誰もが怖れて手を出さないのを知った上での、大胆不敵な行動だ。
信吾もカズヤも、《SIN》の出方を待っていた。
これだけ《日向》が不利になれば、そろそろ彼らは動くはずだ。それなのに、《SIN》は動く気配がない。
シンは争いの中心を見つめていた。そこでは信吾と岩城、川上が争っていた。
カズヤも陰から同じ所を見ていた。変わりそうもない状況の中で、いつ隠し部隊を参戦させるか、信吾を見て決めようと思っていた。
《日向四天王》は必死だった。《反日教》は潰せても、を潰せるだけの準備はしてきていない。
カズヤはずっと信吾を見つめていた。彼のどんな些細な合図でも、それを見逃してはいけない。信吾は必ず合図をしてくるはずだ。
苦しい状況の中、一瞬《SIN》と目を合わせた信吾は、何を思ったのか、突然目で合図をしてきた。
理由を考えている間はない。カズヤはホイッスルを鳴らし、争いの中に加わって行った。これ以上遅れては、それこそ入るタイミングを失してしまいかねない。
「誰だ!今度は?」
「さっきのブリーチした男です!」
「しまった!仲間だったか!」
テルヒも争いに加わっている。金属棒で《SIN》の男一人を殴り倒すと、他の《日向四天王》の周りに集結した。
「彼が《夏青葉》よ。アキラちゃんの右腕」
「じゃあ、相当腕のたつ男ってわけだ。面白い」
《SIN》ばかりでなく《反日教》の不意打ちに、いささか動揺を見せた《日向》だったが、すぐに統制を取り戻し、反撃を続けた。
《SIN》は寝返らない。
《日向》は不敗神話を守るために必死。
《反日教》は《SIN》を信じずに、寝返りを待っている。
「やけに《反日教》がまとまってると思わないか?」
神宮司は、見物しているシンに声をかけた。
「《夏青葉》の所為さ」
「え?ナツアオバ?」
「そう。噂には聞いてたが、《反日教》の首長の桂小路 晃の右腕となるべき者の呼び名だ。あの脱色野郎がそうらしいけど、ありゃ、偽者だな」
「え、何で判るのさ?」
またシンは断言した。外から見ていると、それだけ言い切れる材料など、見当たらないのにだ。
「簡単なことさ。あいつは桂小路の強さを越えていない。右腕だったら、せいぜい同じくらい強くないと」
「ああ、そっか」
神宮司はシンの解説に納得をした。
「ってことは、あのオカマのかすみちゃんは、心理戦を張ってるわけだ。偽者を立てて、そうして仲間の士気を高めようってんだから、大した者だよ」
「そう、あいつも桂小路の左腕の《春霧霞》を名乗るだけある。自分の仲間がどうしたら動くかを、しっかり知ってるんだから」
「それにしても、この状況で、どうして今まで伏兵を使わずにいたんだろな」
「神宮、かすみちゃんと《夏青葉》は知ってんだよ。オレらがどっちつかずだってこと。
いつオレらが《日向》に寝返るかを、二人はじっと待ってたのさ。で、待ちきれなくなったんだろ。それは正解さ。ほら、もう少しで《日向四天王》が動く。オレらは《日向》に加勢をしないぞ」
「え?作戦じゃ……」
「予定は未定さ。《日向四天王》が動いたら、オレらは退く。後始末はガキどもに任せりゃいいのさ。そう、みんなに伝えてこい」
シンはそう神宮司に命令すると、また黙って状況を観察し続けた。
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