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第4部:日向・《日向》-5

本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。

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 考えれば考えるほど、日向は謎の多い人間だった。人間性はある程度理解できても、彼の過去は謎のままだ。

 近所の私立小学校の出身らしいが、素行が悪くて復学できないともっぱらの噂だ。その彼の自宅を知っている者はいないらしい。彼と連絡を取る手段は携帯電話だけで、それもあまり繋がらないと評判だ。

 この二年間も、親の転勤について行ったことは知られているが、何処どこに行っていたのかは知られていない。


「よう、お前が最新の転入生か」

 二日目、カズヤに日向はニコニコしながら話しかけてきた。

 どう接したらよいのだろうかと、カズヤは咄嗟とっさに考えた。本当の、物事をはっきり言えない性格の自分だったら、愛想笑いをしてお茶を濁すのだが、そうもいかない。

「……その、ニューモデルの車みたいな言い方、何とかなんないかな」

 わざと調子抜けをするようなことを言おうと思ったのだが、本気で調子が抜けるようなことを言ってしまった自分に、カズヤは少しその場で後悔をした。


 ひゃっ、ひゃっ、ひゃっ


 確かに日向はこう笑ったのだ。

「ニューモデルの車か。確かにそんな感じだよな、いや、悪い悪い」

 ひゃっひゃっひゃっ、は、当分止みそうもない。カズヤだけではなく、教室にいた全員が、口をポカンと開け、日向を見ていた。

「で、何?」

 カズヤは止みそうもない笑いにいい加減うんざりし、笑いを無視して用件を訊いた。

「お、おう」

 意外にも、日向の笑いはすぐに止まった。

「そう、そう、鈴木和哉くん、きみのことを、我が《日向》に、オレの側近として迎えたいと思ってさ〜」

「はぁ?何故?」

 さすがにカズヤは驚いて、すぐに断ることを忘れてしまった。それから次に、相手の考えていることをのぞいてみようと気が付いた。

 あまりに突拍子もない話だ、何か彼にも思惑があるに違いないと、最近冴えてきたカズヤは思えるようになっていた。


「いや、単純にきみが気に入ったからだけなんだけどね〜」

 日向の返事は、実にあっさりとしていた。

「きみの、例え気に入らないことでも、はっきりと言わずに遠回しにきつい言葉を使わずに意思表示をする、その長所が気に入ったんだよね〜」

 カズヤは返事ができなかった。たった二日、それもただ同じ教室にいただけの関係の人間が、どうして親や長い付き合いの親友が指摘してきたカズヤの長所を、的確に言い抜いたのだろう。

 それを短期間で見抜くだけの眼力を持った人間だからこそ、《日向》の総長としてやってこられたのだろうと考えたとしても、もし、本当にそれだけの人間だったら、どうして《日向四天王》などをはべらせているのだろうかという、解決しそうもない疑問が生じてくる。


 カズヤは結局、そこの疑問が解決しないことには、日向を信用しないことにして、彼と接することに決めた。

 かと言って、知りもしない人間を毛嫌いする態度を取るわけにはいかない。カズヤは《日向》とも《反日教》とも一線を画す立場でなくてはならないのだ。

 そこでカズヤはニッコリと微笑みを作り、「褒めてくれてありがとう。でも、オレはあんたの侍らせているクズ四つと一緒は嫌だね」と言った。

「そりゃ、当然あいつらとは違う扱いをするって」

「でも、それって屁理屈じゃ……。口では何とでも言えるだろ」

 カズヤは半分呆れていた。

「そりゃ、そうだなぁ。でも、オレは益々きみが気に入っちゃったんだよな〜。

 オレさあ、オレに反対する者でも、ここまで穏やかに拒絶されたのは初めてだねぇ」

 日向は意に介することなく、依然ニコニコとしている。

 自分のことを鈍感と呼んできた連中の気持ちが、カズヤは少しだけ解るような気がして来た。

「あ、そう。気に入ってくれて、ありがと」

 そう答えたものの、カズヤの頭の中は、ハテナマークで埋め尽くされていた。

 正直、およそ総長とは思えない間延びした口調に、どう対応したらいいのか戸惑う。

「ま、いっか。仕方ないよな〜。本人にその気がまるでなさそうだし」

 日向はカズヤの机に頬杖をつき、その目をしっかり見据えて言った。

「後は、きみが《反日教》なぞに入らないことを願うだけだな、オレとしては」

 日向はそう言って、カズヤの前から、その教室から去ろうとした。


 その日向の背中に冷たい声が投げつけられた。

「ご心配なく!あんたに気に入られた人間を、自分たちの仲間にするほど、こっちは落ちぶれちゃいないわ。ただのクラスメイトで充分よ」

 ずっと渋い顔をしていた信吾が、日向の背中に息巻いた。その姿は、まるで怒った猫のようだ。

「それを聞いて安心したよ、かすみちゃん。オレらの間に、初めて中立の立場の人間ができたわけだ〜」

「ええ、そのようね」

 日向の口調は軽い。それはきっとかくみのだ。だまされちゃいけない。

 日向は振り返りもせずに言い、信吾も日向に背を向けて言った。




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