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第4部:日向・《日向》-4

本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。

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「で、一体今の状態はどうなってるんだ?」

 日向は学校の空き教室に《日向》本部を置いて、《日向四天王》や他のメンバーを集め、その中心に座っていた。

「先ずはこの地図をご覧下さい。既にこの印の付いている中学、高校が、我々の傘下さんかにあります。数にすれば百校を軽く超えています」

 テルヒは拡げた地図を前に、得意気に報告をした。

 しかし日向はそのようなテルヒを無視し、欠伸あくびをしながらこう言った。

「なんだ〜。未だそんなもんか。オレがいない間に、お前らだったら、東京二十三区と隣の県のはじっこくらいはひろげてると思ってたんだけどなぁ。テルヒの力ならできるだろって思ってたんだけどさ〜」

 一瞬紅潮させたテルヒの顔が、日向の最後の一言でさっと引いた。

「すぐにでも、川の向こうは手に入れて見せましょう」

「ん」

 日向はニヤッと笑った。


 この場では日向の方が役者が一枚上手のようだ。テルヒのことを、単純で、適当におだてておけば使える人間と思って、チェスの駒くらいにしか考えていないかのようだった。

「うーん、そうだな、ちょっと待て。先ず手始めに、オレが戻ってきたと騒ぎ立ててみろよ。できるだけ大袈裟に。無駄な労力を使わないでも、ちょっと脅すだけで手に入るかもしれないぞ」

「そ、そんな……」

 既に行動を起こそうと、扉の方に向かって歩き始めていた《日向四天王》は、拍子抜けしたような顔をした。

「お前たちも、余計な運動をしないでいいだろう。喧嘩に勝つことが傘下に治めることじゃない。本当の意味で従ってもらって、初めて我々の仲間となるんだ。

 それに《日向》の名が悪い意味で使われるのは、あまり嬉しくないんだよな〜。だってオレの名前じゃん。結構この親が付けた名前気に入ってるし〜」

 日向はいけしゃあしゃあと言った。それは暗に彼らのやり方での弊害を知っているぞと言っているようなものだ。

「あんたはその場にいないから、そんなことにこだわるんだ。オレらの苦労の少しくらい、考えて見てほしいよ」

 川上が思わずぼやいた。すると、日向は乱暴な音を立てて椅子から立ち上がった。

「川上、総長は誰だ?」

「……あんただよ」

「そのオレの命令だ」

「解ったよ……」

 腕組みをしている日向の鋭い視線は、ふてぶてしい川上に反論を許さなかった。それだけ鬼気迫るものがあった。


「ったく、なんだってんだ!ちっとくらいデキがいいからってイキがってよ、あの軟弱者がっ!」

 日向の前を辞し、目的地に向かう途中で、とうとう川上は八つ当りを始めた。

「まあ、落ち着けよ、川上」

「お前は腹が立たないのかよ、野口は」

 川上は、仲間の野口にまで喰ってかかりそうな勢いだ。

「黙れ、川上。ちょっとうるさいわよ、あんた」

「テルヒまで」

 川上は電柱を殴った。やり場のないこの苛立いらだちは、ここにぶつける以外なかった。

「今は大人しくしてればいいんだよ。《日向》の名前を借りて、とにかくうちらはシマを拡げるんだよ、うちらの手でね」

 テルヒは含み笑いをした。それだけで、他の三人は彼女が何を考えているのかを理解したようだ。

「そうね、湾岸の方にやって。隣の県に行くわよ」

 テルヒは高校生の一人の、電飾ド派手な羽付きビッグスクーターの後ろにまたがった。

「はい」

 彼はテルヒに素直に従い、爆音を立てて走り出した。自分たちを打ち負かした《日向四天王》は、年下であろうと絶対だった。それがここの実力社会だ。

 その実力社会の頂点にいる日向本人は、更に頂点を目指して《日向四天王》を使う。


「あぁあ、疲れんの」

 誰もいなくなった教室で、頭脳でしか認めてもらえないのを嘆いているのか、日向は窓の外を見て、大きなため息をついた。

 眼差し以外は、これといって他人を圧倒させるようなものを何も持っていないのに、何故か日向を誰もが怖れている。

 この華奢きゃしゃな少年を誰もが怖れるのは、彼こそが《日向》の中心で、《日向四天王》を使う人間だからだ。

 もし《日向》が日向一人だったり《日向四天王》だけだったら、何処どこの中学生も高校生も、《日向》などという新興の小学生グループに負かされることはなかっただろう。

 この二年間、《日向四天王》は日向の部下であるという肩書きがあって、初めてやってこられたのだ。

 しかし、日向自身は縄張り争いの暴力沙汰には直接参加せず、《日向四天王》の参謀的な役割をしているだけで、軟弱者の烙印を捺されている。それなのに、日向は怖れられているのだ。

「オレってそんなにおっかないのかなぁ。こんなカワイイ顔なのにさ。喧嘩だってしないのに。ちゃんとケガさせない作戦考えてるのにな〜

 ったく、どっかの誰かさんたちが暴れちゃうから、怖いイメージついちゃったじゃないか。

 ま、全部自分が好きでやってんだけどさ」

 日向は誰もいないのをいいことに、一人ごちた。




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