第3部:反日向・反教師同盟-1
本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。
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3;反日向・反教師同盟
怪我させられた翌日、それでもカズヤはしっかり学校へ向かった。
お見事と褒めてやりたいくらいにポッキリと、脛の外側の骨が折れられて、骨がくっつくまでに一ヶ月ものギプス固定を要する程の怪我なのにだ。
登校するというその決意を聞かされた時、当然のように両親も信吾も止めた。
しかし他人には理解できない意地を張り、足首から膝の上までしっかりギプスで固められた足で、慣れない松葉杖をひょこひょこついて、カズヤはいつもの三倍の時間をかけて登校してやった。到着する頃には腋の下が痛くて堪らない。
両親や学校には、乗った側溝の蓋が外れて落ちて骨折したと言い訳しているが、真実は違う。
まさか担任たちによる暴行による怪我だなどとは、口が裂けても言えない。それは進学の為に彼らを怖れて言えないのではなく、言っても意味がないからだ。どうせ学校が何かをしてくれるわけがない。
大体、側溝の蓋が突然外れたとしても、カズヤは自分が骨折するようなことはないだろうと思っている。ただ彼としては適当な理由がそれしか思いつかなかっただけの話なのだ。
カズヤ自身に、別に褒められた根性があるわけではない。
実のところ、カズヤは登校した時のピーチの顔が見たかっただけだ。その為には、たとえ昨日の今日だから休みなさいと言われても、何が何でも今日に行かなくてはならない。
今日じゃなくては意味がない。
転校して僅かな時間しか付き合いがないが、天然のカズヤでも、あのピーチが申し訳なさそうな顔をするわけがないだろうと確信できる。
だとしたら、その代わりに彼はどんな嫌らしい笑みを浮かべるのだろう。自分はそれを見て、彼らに対する怒りを持続しなくてはいけないのだ。
そして直接手を出した日向四天王の連中はどういう反応を見せるのだろう。
どうせいやらしい笑みをニヤニヤと浮かべて、教室の定位置からこちらを見ているだけだろう。それも腹が立つ。
大して怒りが持続しない自分の性格を知っているカズヤは、そう思っていた。
でも、まさか両親にそういう思惑だとは言えるわけがない。だから他人には理解できない意地なのだ。
そもそも、何の為に怒りを持続させなくてはならないかも解っていないし、自分の為に怒りを持続させるなど愚かなことだとも解っていない。
ただ、何となくそう思うだけで意地を見せようっていうのだから、おかしな話だ。
《反日教》の件に関しては、信吾にきちんと返事をしなかった。ピーチの顔を見てから決めようと思っているのだが、実際は、本当にその気があったらすぐに返事をしているのではないかとも思っていた。
要するに、未だ決心しかねている自分がそこにいる。そして自分をそこに留めているのは『打算』という弱さ。
そしてカズヤは自分の打算がそこに働いているということまでは気付いていない。
誰だって、負けると知って喧嘩を売るのは嫌なものだ。信念があるならいざ知らず。その信念をカズヤはまだ決意できていない。
だから決意の理由をピーチに委ねているのだ。
しかし必死になって登校したというのに、ピーチの顔を見ても、カズヤは結局決心をつけることができなかった。
理由は簡単だ。
登校すると、クラス中が集まって、理由を訊いたり案じたり、それはもう一大イベントのような騒ぎになった。
当然、カズヤは嘘の理由を言う。
そしてそこに現れたピーチは「ドジなんじゃないか。気をつけろよ」と、あまりにも予想通りの薄っぺらい笑いを浮かべ、カズヤに一瞥くれただけだったのだ。
ここまで予想通りだと、正直なところ、怒りも何もあったものではない。いや、あまりにいけしゃあしゃあとした態度に、開いた口が塞がらなかったという方が正しい。
そして例によってあの四人は、学校に現れもしない。
結局どのような条件があったとしても、カズヤ自身が未だその気になっていないのだ。
ようやく午後になって、そのことにカズヤは自分で気が付いた。
午前中は怒りの湧かない自分に対して首を捻っていたカズヤだが、その気になっていない自分に気づいた今、今度は何を迷っているのか首を捻って考える。
今までのように考えてくれる人がいない今、彼は自分の迷いの元の『何』が何であるのか、自分で考えなくてはならなかった。
大して役に立たない授業中、カズヤは彼なりに一生懸命考えていたのだが、そもそも一生懸命物事を考える習慣がない彼だ、途中で考えが霧散してしまってまとまらない。
―――数学の証明をまとめる方が楽だ……
授業中に遠慮なく天井を見上げ、幾度となくため息をつくばかり。彼なりの真面目な思い込みで、時間を無駄に過ごしていることに気付いていない。
湧き上がらない感情の理由など考えることくらい、意味のないことはないというのに。
ただ、返事を待っている人間が一人はいた。
カズヤがその気になるのをひたすら待っている信吾は、彼がすぐにでもその気になってくれるとばかり思っていただけに、カズヤ以上に無駄な一日を過ごすはめになっていた。
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