商談
よろしくお願い申し上げます。
「や、やっと着いたな。もう夕方かよ。」
「やっととは何ですかぁ!私の歴史の教え方が悪かったっていうんですか?」
「いや、そういうわけじゃなくてだな。でもテストまで……」
「ひ、必要です!弥太郎さんの理解度を知る必要がありますから!」
馬車を降りてすでにぐったりした様子の弥太郎に厳しくテキパキと指導していくアウレリア。
「さてと。まずは俺がこの前に来た時りんごを買ったおばちゃんのとこ行ってみるか。」
「そ、そうですね。……あの、ひとつ聞いてもいいですか?」
「どうしたの?」
「いや、その首に巻いてある長い布は変えてるんですか?色が変わったような気がしまして。」
「あぁ。よく気付いてくれたね。今日は勝負の赤ネクタイなんだよ!似合ってるだろ?共和党みたいで!」
「きょ、きょうわ?は何か分かりませんがよくお似合いですよ。」
そういうとアウレリアは口角をあげてニコッと笑いおばちゃんの青果店へと先導していった。
「よ、おばちゃん!ご無沙汰!最近、野菜は売れてる?」
「うーん。最近仕入れ値が上がっててねぇ。なかなか利益は出ないよ。まぁここもそんなに食べ物が他にないから売れるには売れてるけどねぇ。さ、お兄ちゃん!恋人さんと2人で今夜は鍋でもやりな。買った買った!」
「こ、恋人じゃないですから!!」
弥太郎がまだ一度しか会っていないおばちゃんと軽妙な会話を交わしていると、おばちゃんの冗談に本気でアウレリアがツッコミをいれていた。
「お、おいアウレリア。冗談だからおばちゃんのジョークだからそんなムキにならなくてもいいだろ?
それよりおばちゃん、ちょっと相談なんだけど、ここのりんご550円でしょ?高いと思わないか?」
「そうだねぇ。もうちょっと昔ではこんな高くなかったんだけどねぇ。……まぁ産地のベネになんかあったのかね。この価格なら儲かってるだろうね。うちらは仕方ないさ。」
おばちゃんはどこか懐かしむような目で夕焼けの空を見上げつつ目を細めた。
「それは違います!!ベネは、ベネの農家の人たちは凄く安い単価で買い占められて、買い占められて苦しんでるんですっ!」
「待て、アウレリア!この人は悪くない。商売は悪くないんだ…。悪いのは利ざやを跳ねて、今だけ、自分だけ儲ければいいと、商売を勘違いしてる、あの商人のせいだよ。」
おばちゃんの言葉に熱くなってしまったアウレリアを制しつつ言葉を訂正していく。
「実はな、おばちゃん。、いま僕は馬車を買い込んで、りんごの出荷と配送を担おうと思ってるんだ。いまの状況じゃ生産者も販売者も消費者も損してるんだ。だから僕はそれを直そうと思ってる。
僕の持ってくるりんごを店に置いてくれないか?これが販売の価格だから。」
「こ、こんな安いのかい?これが本当ならこっちからお願いしたいよ。」
おばちゃんは弥太郎の熱意と事前に2人で作った価格表を見て目を丸くしながらやっと理解して反応する。
「本当です。川崎さんはもう私財を投資して、通常時の倍の価格で買い取ってるんですから。」
「すまなかったね。さっきは変なこといってベネの人には悪いことしたね。……わかった。ウチはあんたに乗るよ!その代わりちゃんとりんごを届けなさいよ。」
おばちゃんは腕を腰に当ててまっすぐアウレリアの目を見つめ約束した。
「ありがとう。おばちゃん!一か月後、今年の新しいりんごが出来るから必ずちゃんと届けるから、いっぱい売ってくれよな!」
「さぁ。アウレリア!1件目の商談成立だ!」
「はいっ!!おばさん、熱くなってすいませんでした。本当にありがとうございます!」
夕焼けは3人を照らしながらゆっくりと姿を消しつつ、3人にしばしの別れを告げていた。
「今日は幸先いいですねっ!弥太郎さん!あっ、この森エノキのソテー美味しいですよ!」
「おっ、いいねそれ!俺も食お。確かにおばちゃんが喜んでくれてよかったな。でもまだ始まったばっかだからな。おばちゃんの話だと大手の店舗は10店あるらしいから、明日からはそこを手分けして回ろうな。」
「はい。なんか、私やる気出てます!」
「はっはっ!やる気出すのはいいけど、多分このまま全て上手くいくとは思ってないほうがいいぞ。」
「さっきおばちゃんが言ってた悪徳商人が王国へ多大な寄付をしてるってやつですか?」
「あぁ。それもあるけど、商いは大抵上手くいきそうな時に限って落とし穴が隠れてるもんさ。」
「へぇ。弥太郎さんって商売に慣れてるんですね。あっ、それとさっき弥太郎さん、「商人が儲けようとしてるのが悪いって言ってませんでした?儲けようとするのが商売でしょ?」
「まぁ自分で考えて商売するなんてのは初めてだけどな。今までは言われたことを、それもあの商人みたいに儲かればいいと思ってやってたのさ。
ダメなんだよ。自分が儲かるだけじゃ、誰かが儲かって誰かが損をする。それじゃ社会は成り立たない。成り立っちゃいけないんだよ。三方良し出なきゃね。」
「……自分が儲かるだけじゃなんです?すいまんちょっと周りがうるさくて聞こえなくて……。」
「……2回はいえない。。」
「なんか、すいませんでした。」
2人が入った居酒屋は魔族軍との前線で戦ってきた戦士たちで溢れており大変な賑わいを見せていた。
そんな中でちょっと過去を交えて語った弥太郎はそれを聞き逃されたことと言ったことの反芻し、赤面していた。
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