直してはいけないも
第二章 灰境
第53話 直してはいけないもの
前書き
困っている者がいれば、
助けたい。
壊れているものがあれば、
直したい。
それはきっと、
優しいことです。
けれど。
助けることと、
相手の望みを無視することは、
同じではありません。
時には。
「直さないでほしい」
という願いもあるのです。
⸻
翌朝。
灰境の村。
「アルフレッド様」
「はい」
「聞いていますか?」
「聞いてるよ」
「では、今申し上げたことを復唱してください」
「……」
「アルフレッド様」
「第三浄化塔へは行かない」
「その前は?」
「朝食を食べる」
「その前です」
「顔を洗う?」
「違います」
セルマは杖をついたまま、じっとアルフレッドを見ていた。
「勝手に一人で出歩かない」
「はい」
「危険な場所へ行く場合は?」
「ガルドさんたちに相談する」
「《修繕》を使う場合は?」
「無茶しない」
「倒れる前に?」
「やめる」
「よろしいです」
「……」
アルフレッドは少し不満そうにパンを齧った。
「最近、セルマまでガルドさんみたいになってきた」
「必要ですので」
「僕、領主なんだけど」
「存じております」
「十二歳なんだけど」
「それも存じております」
「もう少し優しくしても」
「昨日、第三浄化塔へ行こうとしていましたね」
「行ってないよ!」
「行こうとはしました」
「……はい」
「ですから必要です」
向かい側。
マルタ。
スープ。
飲む。
「セルマ」
「はい」
「もっと言ってやりな」
「マルタさんまで!」
⸻
しかし。
アルフレッドの頭の中は。
第三浄化塔。
L―01。
それだけではなかった。
昨日。
セルマが言った言葉。
――本人へ聞けばいい。
なぜ自分たちを敵と判断するのか。
何を守っているのか。
そして。
どうして。
封鎖管理個体なのか。
「……」
「アルフレッド様」
「うん?」
「また考えていますね」
「顔?」
「はい」
「もう隠すの諦めようかな」
「その方がよろしいかと」
⸻
朝食後。
村の中央。
アルフレッド。
ガルド。
ノエル。
ディートリヒ。
ミレナ。
グレゴール。
ヘルマン。
そして。
A―07。
簡単な会議。
「第三浄化塔へは」
ガルド。
「行かない」
「はい」
アルフレッド。
「今日は素直だな」
「昨日決めたから」
「成長してる」
ヘルマン。
「一日ごとに」
「褒め方が子ども扱いなんだけど」
「子どもだろ」
「領主でもあります」
ノエル。
「面倒な組み合わせです」
「ノエルさん!?」
⸻
「問題は」
ディートリヒ。
「第三浄化塔を」
「完全に放置できるかどうか」
「第二が復旧すれば」
「第三へ動力が流れる」
「はい」
ノエル。
「昨日の段階で」
「補助動力は十四%」
「現在値は?」
「シーさんに聞かないと」
アルフレッド。
「第二へ行く必要があります」
「なら」
ガルド。
「俺とノエル」
「アル坊」
「ヘルマン」
「A―07」
「第二へ」
「ディートリヒたちは?」
「村で資料調査」
「グレゴール」
「死人谷について」
「覚えてること」
「全部話してくれ」
「分かった」
⸻
第二浄化塔。
六日目。
到着。
入口。
C―12。
待っていた。
『管理者』
「おはよう、シーさん」
『予定時刻』
『十五分遅延』
「ごめんなさい」
『理由』
「朝ごはん」
『食事』
『必要行動』
「そう!」
「だから今日は怒られない!」
『遅延理由として』
『許容』
「シーさん優しい!」
ガルド。
「機械に生活指導される領主」
「新しいな」
⸻
「第三浄化塔」
アルフレッド。
「今どうなってる?」
『照会』
C―12。
停止。
青い。
瞳。
明滅。
『第三浄化塔』
『補助動力――』
間。
『9%』
「減ってる?」
ヘルマン。
「昨日十四だったよな」
『肯定』
「何で?」
『供給水圧』
『正常』
『動力生成』
『正常』
『内部消費量』
『増大』
「何かに」
ガルド。
「使ってる?」
『肯定』
「何に?」
『詳細情報』
『取得不能』
「L―01?」
『可能性――高』
⸻
「通信」
アルフレッド。
「できる?」
ガルド。
すぐ。
「待て」
「昨日」
「逆探知された」
「今日は」
「こちらから位置情報を隠して」
「通信できないかな」
『可能』
C―12。
即答。
「できるの!?」
『中継経路変更』
『発信元情報』
『秘匿可能』
「昨日やって!」
『要求なし』
「シーさん!」
「機械だからな」
ガルド。
「察してはくれん」
⸻
「やってみたい」
アルフレッド。
ガルド。
考える。
「話すだけ」
「うん」
「場所は隠す」
「うん」
「変な反応があれば」
「すぐ切る」
「うん」
「勝手に第三へ行かない」
「それは今関係なくない?」
「確認だ」
「行きません」
「よし」
⸻
『通信経路』
『迂回』
『発信元秘匿』
『接続開始』
ざ。
ざざ。
機械室。
雑音。
『第三浄化塔』
『L―01』
『応答要求』
沈黙。
「エルイチ」
アルフレッド。
「聞こえる?」
返事。
ない。
「僕」
「アルフレッド」
「昨日」
「偽装管理者って」
「言われた人」
ガルド。
「自己紹介がひでぇな」
「だって分かりやすいし」
⸻
『……』
ざ。
『管理者』
「聞こえた!」
『偽装』
「うん」
「それについて」
「話したい」
『対話』
『不要』
「でも」
「僕たち」
「何も知らない」
『接近』
『禁止』
「行かないよ」
雑音。
止まる。
『……』
「今は」
「行かない」
『……』
「だから」
「聞くだけ」
⸻
長い。
沈黙。
そして。
『目的』
「灰境を」
「直したい」
『……』
「第二浄化塔を」
「今」
「直してる」
『確認済』
「水が」
「少し良くなった」
「村の井戸も」
「水位が上がった」
『……』
「だから」
「第三も」
「いつか」
「直せたらって」
『不要』
「どうして?」
『当機』
『修復不要』
「でも」
「壊れてるでしょう?」
ざ。
ざざ。
『修復』
『禁止』
「理由を」
「教えて」
⸻
沈黙。
長い。
C―12。
『通信安定』
ガルド。
アルフレッド。
見る。
待つ。
急かさない。
ようやく。
『当機』
『封鎖管理個体』
「うん」
『任務』
『封鎖維持』
「何を」
「閉じ込めてるの?」
『回答権限』
『不足』
「僕の?」
『肯定』
「じゃあ」
「質問を変える」
『……』
「それ」
「外へ出たら」
「村が危ない?」
沈黙。
『肯定』
空気。
変わる。
⸻
「どれくらい?」
『推定不能』
「魔物?」
『分類』
『不適』
「生き物?」
『回答不能』
「菌糸?」
そこで。
雑音。
大きくなる。
『……侵食……』
「え?」
『質問』
『拒否』
「待って」
「今」
「侵食って」
『回答拒否』
⸻
ガルド。
低く。
「アル坊」
「追うな」
「うん」
アルフレッド。
息。
吐く。
「じゃあ」
「別の質問」
『……』
「エルイチ」
「あなたが壊れたら」
「封鎖はどうなる?」
返事。
ない。
「昨日より」
「動力が減ってる」
「シーさんが」
「教えてくれた」
『C―12』
『情報開示』
『不要』
「シーさん怒られた」
『当機』
『任務継続可能』
「何日?」
『……』
「何年?」
『……』
「あとどれくらい」
「守れるの?」
『……』
そして。
『推定』
『現在状態』
『封鎖維持可能期間』
雑音。
『十一日』
誰も。
声。
出ない。
「……十一?」
ヘルマン。
「日?」
『肯定』
⸻
ガルド。
「その後は」
『封鎖率』
『維持不能』
「中のものが」
「出る?」
『可能性』
『高』
「なら」
アルフレッド。
「やっぱり直さないと!」
『禁止』
L―01。
初めて。
強い。
声。
『当機を』
『修復するな』
「でも!」
『修復時』
『管理規定』
『初期化』
ノエル。
顔。
上げる。
「初期化?」
『損傷状態でのみ』
『封鎖命令』
『継続可能』
「待て」
ガルド。
「直したら」
「何が起こる?」
『正常機能』
『復帰』
『現行管理命令』
『失効』
「……」
「それって」
アルフレッド。
嫌な。
予感。
「直したら」
「扉を」
「開けちゃう?」
『肯定』
⸻
静寂。
「何で!?」
『当機』
『最終正式命令』
『封鎖解除』
「え?」
『現行封鎖』
『自己判断』
『規定違反』
「……」
ガルド。
「こいつ」
「命令に」
「逆らってるのか」
『肯定』
「ずっと?」
『肯定』
「何年?」
『経過時間』
『記録損傷』
『推定』
雑音。
『八百――』
切れる。
「八百?」
アルフレッド。
『以上』
⸻
誰も。
すぐには。
理解できない。
八百年以上。
壊れた機械が。
正式な命令へ。
逆らい続け。
何かを。
閉じ込めている。
「どうして」
アルフレッド。
「命令に」
「逆らったの?」
『……』
「エルイチ」
『回答』
『不要』
「でも」
『不要』
「何か」
「見た?」
沈黙。
「扉を」
「開けちゃいけないって」
「思った理由が」
「あるんでしょう?」
『……』
雑音。
『当機は』
『判断した』
「何を?」
『最終正式管理者』
『正常ではない』
⸻
ガルド。
目。
細くなる。
「誰だ」
『回答権限不足』
「名前だけでも」
『拒否』
「中央管理者?」
アルフレッド。
尋ねる。
長い。
間。
『……肯定』
⸻
第一浄化施設。
昨夜。
表示。
誰も見ていない。
封鎖実行者。
――アルフ――
それを。
アルフレッドたちは。
まだ。
知らない。
⸻
「中央管理者が」
アルフレッド。
「封鎖を」
「解除しろって?」
『肯定』
「でも」
「エルイチは」
「嫌だって」
『表現』
『不正確』
「じゃあ?」
『危険と判断』
「同じだよ」
『異なる』
「頑固」
『任務』
「シーさんたち」
「みんな頑固だよね」
ガルド。
「お前が言うな」
⸻
「エルイチ」
アルフレッド。
「一つ」
「お願い」
『……』
「十一日」
「待って」
『意味不明』
「その間に」
「直さずに」
「あなたを助ける方法」
「探す」
『不要』
「僕には必要」
『管理者』
『偽装』
「それでも」
「僕は」
「今」
「灰境の領主だから」
『……』
「村を守るのは」
「僕の仕事」
「エルイチだけに」
「八百年分」
「押し付けない」
⸻
通信。
向こう。
沈黙。
長い。
『……』
「十一日」
「ください」
『封鎖維持』
『可能範囲』
『継続』
「ありがとう」
『礼』
『不要』
「でも」
「言いたいから」
『……』
通信。
切れる。
⸻
誰も。
しばらく。
話さなかった。
最初。
口。
開いた。
ガルド。
「十一日」
「はい」
「いや」
ヘルマン。
「今日で」
「もう」
「十日と少しじゃねぇか?」
「そうなるな」
「短い」
アルフレッド。
「でも」
「ゼロじゃない」
⸻
「シーさん」
「L―01を」
「修復せずに」
「封鎖だけ直せる?」
『理論上』
『可能』
「本当!?」
『ただし』
「来た」
ガルド。
「ただしが来た」
『第三浄化塔』
『詳細構造情報』
『不足』
「第一浄化施設に」
「設計図は?」
『一部』
『中央中枢』
『完全記録』
「中央……」
全員。
嫌。
顔。
「そこには」
ディートリヒ。
いない。
でも。
いたら。
絶対。
止める。
⸻
「中央には」
ガルド。
「行かねぇ」
「分かってる」
「じゃあ」
「第一にある」
「一部の記録だけで」
「何とかする」
『成功率』
『低』
「どれくらい?」
『現時点』
『18%』
「低い!」
『第三浄化塔』
『現地調査により』
『上昇可能』
沈黙。
「結局」
ヘルマン。
「行く必要」
「あるじゃねぇか」
⸻
ガルド。
頭。
掻く。
「すぐには行かん」
「準備する」
アルフレッド。
「はい」
「人数」
「装備」
「退路」
「谷の地形」
「全部調べる」
「はい」
「それと」
「絶対」
「扉を開けない」
「はい」
「L―01を」
「勝手に修繕しない」
アルフレッド。
一瞬。
黙る。
「アル坊」
「……はい」
「今の間」
「何だ」
「壊れてるの」
「見ると」
「直したくなるから」
「正直でよろしい!」
⸻
昼。
村。
緊急。
会議。
「十日?」
バルド。
杖。
握る。
「ああ」
ガルド。
「正確には」
「十日と少し」
「それで」
「何が起こる?」
「分からん」
「最悪」
「第三浄化塔の封鎖が」
「破れる」
村人。
ざわつく。
「逃げる準備を」
ディートリヒ。
言う。
「まだ避難はしない」
「しかし」
「荷物」
「食料」
「馬車」
「動ける状態にしておくべきです」
「賛成です」
ノエル。
「避難経路も」
「二本」
「用意します」
⸻
「領主様」
リーナ。
エッダ。
後ろ。
「何か」
「出てくるの?」
「分からない」
アルフレッド。
しゃがむ。
「でも」
「出ないように」
「するよ」
「領主様が?」
「皆で」
「……」
リーナ。
少し。
考える。
「じゃあ」
「私も?」
「リーナは」
「お母さんの言うこと」
「聞く係」
「それ仕事?」
「すごく大事」
「領主様も」
「やってないじゃん」
周囲。
一瞬。
静か。
次。
笑い。
「リーナ!」
エッダ。
「すみません!」
「いや」
ガルド。
腹。
抱える。
「正しい!」
「アル坊!」
「九歳に負けてんぞ!」
「僕だって最近は聞いてます!」
⸻
夕方。
第一浄化施設。
調査官たち。
戻る。
A―07。
先導。
目的。
第三浄化塔。
設計情報。
『検索』
A―07。
操作盤。
接続。
『第三浄化塔』
『構造図』
『部分記録』
青い。
線。
出る。
塔。
地下。
大部分。
地上。
ほとんど。
ない。
「地下施設か」
ディートリヒ。
「死人谷の下」
ミレナ。
「そして」
「ここ」
図。
中央。
巨大。
空間。
「封鎖区画」
『肯定』
「大きい」
アルフレッド。
「どれくらい?」
『現在尺度換算』
『直径――約百四十メートル』
「……」
「そんなものが」
ガルド。
「地下に?」
⸻
「封鎖機構」
ヘルマン。
図。
見る。
「どれだ」
『表示』
外周。
六か所。
装置。
「六個」
『封鎖支柱』
『六基』
「全部」
「動いてる?」
『現在情報』
『取得不能』
「L―01が」
「一人で」
「支えてる?」
『可能性』
『高』
⸻
「待って」
アルフレッド。
図。
指す。
「ここ」
「何?」
封鎖区画。
さらに。
下。
細い。
管。
何本も。
伸びる。
第四浄化塔。
方向。
中央中枢。
方向。
「接続してる?」
『肯定』
「何が流れる?」
『浄化媒体』
「水?」
『一部』
「他は?」
『――侵食物質』
空気。
止まる。
「侵食」
ミレナ。
「昨日」
「L―01も」
「その言葉を」
「使いました」
⸻
「じゃあ」
アルフレッド。
顔。
変わる。
「第三浄化塔って」
「何かを」
「閉じ込めてるだけじゃない」
「もしかして」
「集めてた?」
『照会』
A―07。
『第三浄化塔』
『旧機能』
『高濃度侵食物質』
『隔離』
『沈殿』
『無害化処理』
「……」
ディートリヒ。
「廃棄物処理施設」
「に近い?」
『概念』
『部分一致』
「そして」
ミレナ。
「無害化に」
「失敗した?」
A―07。
『記録』
『封鎖』
「誰が?」
『中央管理権限』
⸻
また。
中央。
全部。
そこ。
繋がる。
「中央管理者」
アルフレッド。
呟く。
「何をしたんだろう」
⸻
『追加記録』
A―07。
突然。
「何?」
『第三浄化塔』
『最終保守記録』
「見せて」
『破損』
『一部復元』
文字。
浮かぶ。
『侵食濃度――上昇』
『封鎖区画――限界』
『中央より命令』
『封鎖解除』
『全媒体――』
乱れる。
『――第五――移送』
「第五?」
ミレナ。
前。
出る。
『記録欠損』
『L―01』
『命令拒否』
『封鎖継続』
「やっぱり」
アルフレッド。
「エルイチ」
「命令に逆らった」
⸻
「待て」
ディートリヒ。
「全媒体を」
「第五へ移送?」
「第五浄化塔へ?」
「そう読めます」
ミレナ。
「第五塔は」
「最終座標」
「現在の海」
「そして」
「その土地そのものが」
「消えている」
全員。
黙る。
⸻
ガルド。
最初。
理解。
「……おい」
「まさか」
「第五が」
「消えた理由って」
誰も。
答えない。
でも。
全員。
同じ。
こと。
考えた。
第三。
危険な。
侵食物質。
第五。
そこへ。
移送。
その後。
第五。
所在不明。
土地。
消失。
⸻
「エルイチは」
アルフレッド。
小さく。
「それを」
「知ってた?」
「可能性は」
ディートリヒ。
「高い」
「だから」
「命令を」
「拒否した」
⸻
アルフレッド。
青い。
図。
見る。
第三。
L―01。
壊れている。
それでも。
八百年以上。
一人。
守っている。
「……」
右腕。
ない。
A―07。
横。
立つ。
右腕。
ない。
セルマ。
右腕。
ない。
不思議。
重なる。
壊れた。
から。
役に立たない。
そんな。
こと。
ない。
むしろ。
壊れたまま。
守っている。
「直す」
アルフレッド。
言う。
ガルド。
「アル坊」
「エルイチじゃない」
「……」
「封鎖を」
「直す」
⸻
少年。
図。
六つ。
支柱。
見る。
「エルイチが」
「直されたくないなら」
「直さない」
「でも」
「エルイチが」
「守ってるものを」
「僕たちが」
「直せばいい」
ヘルマン。
図。
覗く。
「六本の」
「封鎖支柱」
「そう」
「それを」
「直したら」
「エルイチ」
「休めるかもしれない」
⸻
ガルド。
しばらく。
少年。
見る。
「……それなら」
「筋は」
「通る」
「でしょう?」
「ただし」
「現地で」
「勝手に」
「触るな」
「はい」
「全部」
「確認してから」
「はい」
「扉」
「絶対」
「開けるな」
「はい」
「よし」
⸻
ノエル。
帳面。
開く。
「では」
「第三浄化塔」
「第一次調査隊」
「編成を」
「え?」
アルフレッド。
「行ける?」
「行かないと」
ガルド。
「十日後」
「向こうから」
「来るかもしれん」
「それは」
「嫌」
「俺もだ」
⸻
夜。
村。
準備。
始まる。
縄。
松明。
食料。
水。
薬。
弓。
槍。
予備。
武器。
そして。
帰還。
道。
目印。
グレゴール。
地図。
描く。
死人谷。
入口。
古い。
猟師道。
「ここ」
「崩れてる」
「迂回」
「こっち」
「魔物は?」
「少ない」
「それが」
「逆に」
「気味悪い」
⸻
マルタの家。
セルマ。
荷物。
まとめる。
アルフレッド。
見る。
「セルマ」
「はい」
「何してるの?」
「包帯」
「薬」
「水」
「なぜ?」
「同行準備です」
「駄目!」
即答。
「なぜです?」
「怪我!」
「歩けます」
「十三キロ!」
「杖があります」
「そういう問題じゃない!」
「アルフレッド様も」
「十二歳です」
「僕は管理者!」
「私は」
「首輪の術式を」
「見分けられます」
「……」
「古代術式とは」
「異なるでしょう」
「ですが」
「命令によって」
「身体を支配される感覚を」
「知っています」
⸻
アルフレッド。
黙る。
L―01。
命令。
拒否。
セルマ。
首輪。
命令。
逆らえない。
確かに。
何か。
重なる。
「でも」
「危ない」
「皆」
「危険です」
「それでも」
「行くのでしょう?」
「……」
「私だけ」
「安全な場所へ」
「置いていくのですか?」
「そういう意味じゃ」
「ありません」
「なら」
「役に立つかどうかで」
「決めてください」
アルフレッド。
言葉。
止まる。
右腕。
ない。
左目。
ない。
まだ。
傷。
治療中。
でも。
セルマ。
自分。
決める。
「マルタさんが」
「許したら」
「同行」
「考える」
「はい」
⸻
「駄目だよ!」
隣。
部屋。
マルタ。
「聞いてた!?」
「聞こえるよ!」
「壁薄いんだから!」
「セルマ!」
「はい」
「明日」
「傷を見る!」
「それで決める!」
「はい」
「アルフレッド!」
「はい!」
「お前も!」
「僕も!?」
「お前も患者みたいなもんだ!」
「元気です!」
「元気な奴ほど」
「倒れるまで動くんだよ!」
「……」
「返事!」
「はい!」
⸻
深夜。
第三浄化塔。
『封鎖維持可能期間』
『9日』
L―01。
巨大。
扉。
前。
座る。
赤い。
瞳。
ほとんど。
消えかけ。
『外部通信』
『受信』
先ほど。
アルフレッド。
言葉。
記録。
『八百年分』
『押し付けない』
L―01。
無言。
その言葉。
再生。
『八百年分』
『押し付けない』
また。
『八百年分』
『押し付けない』
『……』
長い。
沈黙。
『管理者』
『偽装』
少し。
間。
『……不明』
⸻
その時。
扉。
向こう。
どん。
L―01。
顔。
上げる。
どん。
どん。
今まで。
より。
強い。
『封鎖支柱』
『第四』
『損傷拡大』
『警告』
『封鎖圧』
『低下』
L―01。
立とうとする。
右脚。
動かない。
左腕。
床。
つく。
『補助動力』
『不足』
どん!
扉。
中央。
僅か。
隙間。
開く。
『……!』
そこから。
何か。
細い。
灰色。
糸。
一本。
伸びる。
菌糸。
ではない。
いや。
似ている。
しかし。
太い。
脈打つ。
生きている。
L―01。
左手。
伸ばす。
掴む。
赤い。
光。
『浄化』
じゅっ。
糸。
焼ける。
甲高い。
音。
響く。
扉。
向こう。
大量。
何か。
蠢く。
『封鎖』
『再固定』
ぎぎ。
扉。
閉じる。
L―01。
その場。
崩れる。
『動力――4%』
赤い。
瞳。
弱い。
『……』
そして。
初めて。
自分から。
通信。
回線。
開く。
⸻
第二浄化塔。
誰も。
いない。
C―12。
待機。
青い。
瞳。
突然。
光る。
『外部通信』
『第三浄化塔』
『緊急』
『L―01』
『管理者へ』
『伝言』
短い。
文章。
表示。
『十日』
『訂正』
『封鎖維持』
『三日』
⸻
第53話 直してはいけないもの 了




