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幼馴染に捨てられた俺は、素材と恨みを喰って最強に至る  作者: 雷覇
第2章

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第70話:王都祭と封印の一皿

太陽はすでに高く昇り、王都の空に眩い光を注いでいた。

白い石畳が熱を帯び、広場の色鮮やかな布飾りが風にはためく。

王都の祭。それは年に一度、全市民が顔を上げて笑う日。

しかし今年だけは誰も知らない裏の舞台が、同時に進行していた。


「……始まったな」


作業場の小窓から外を見ながら、ラースがぽつりと呟いた。

レオンは木箱を両腕に抱え、無言で頷いた。

封印の料理。スキルの根源を断つ一皿。


「ティアナ、レイナ。演技の手順は完璧か?」


「問題ない。でも、視線、仕草、表情、すべてリハーサル通りにやるわ」

ティアナが言い、レイナが無言で頷いた。


彼女たちが演じるのは、料理に異常がないこと。

つまり、封印の効果を一切発揮しない偽りの皿を食べて見せる役だ。

そして、それを信じ込んだロイドに、本物を――。


「行こう」


レオンの一言に、誰も返事はしなかった。

ただ互いの瞳の奥に、迷いのない決意が宿っていた。


祭の会場はすでに熱気に包まれていた。

空には白い旗がはためき、中央には王族用の特設席が設けられている。


「ロイドはもう到着してるわ。最上段、赤い椅子に座ってる」


ユナが目を細めて言う。


「隣には……フローラもいる」

レイナの声がかすかに震えた。

拳がわずかに震え手に力がこもる。


(もうすぐだフローラ。必ずロイドの支配から解き放つ)


調理台は、王族席の目の前に設けられていた。

市民に見せるためという建前の下、最高の料理人が腕をふるう見世物だ。


その場に立つのは、レオン。

調理台の上に置かれた素材の数々。特別な香草、澄んだ出汁、干した山海の幸。

ひとつひとつを丁寧に手に取り、切り、火を入れていく。


無駄な動きは一切ない。

だが、観る者の視線を自然と奪うような、研ぎ澄まされた所作だった。


「……」


観客の中で、誰よりもその動きに目を奪われていたのはフローラだった。

最初はただ、何気なく眺めていただけだった。

しかし、彼女の瞳がわずかに揺れた。


(……この手つき、どこかで……)


記憶の奥に沈んでいた光景が、ふいに泡のように浮かび上がってくる。

ずっと厨房で見ていた誰かの背中。

火と香りに包まれながら、黙々と鍋を振るう姿。


(……あれは誰なんだっけ?)


フローラの唇が微かに開いた。

ロイドはその様子を横目でとらえ、目を細めた。


「……どうかしたか?」


何気ない声。だが、そこには冷ややかな刃が隠されていた。

フローラは、はっと我に返り、瞬時に微笑みを作る。


「いえ……料理人の所作が美しくて、つい見とれてしまって」


ロイドは微笑を返したが、その目には冷たい光が宿っていた。

フローラがほんの一瞬見せた視線の揺れ、その微細な表情の変化を

ロイドはそれを見逃さなかった。


(……あの料理人、何者だ?)


彼の中に、わずかだったはずの警戒心が、再び静かに広がっていく。

同時に、調理台の前ではすでに段取りが進んでいた。

王族の前に料理を差し出す以上、毒見役の存在は必要不可欠

そしてその役に選ばれたのが、ティアナとレイナだった。


「……毒見役なんて大げさな気もするが、ロイド様は慎重だからな」

護衛兵のひとりがぼやいた。


「光栄なことよ」

ティアナが微笑みながら応じた。その笑みに、一切の揺らぎはない。

レオンは観衆に向け、朗々と語り始めた。


「本日は、王都の守護と繁栄を祈願し、特別な香草料理をご用意いたしました」


控えめに、それでいて堂々と語る声が、観衆の間に静けさを生む。

ロイドの視線がレオンに向けられたのを、彼は背中で感じていた。


(油断はない。だが今、この瞬間だけは俺たちの舞台だ)


料理の仕上がりは完璧だった。

味も見た目も、本物と何一つ変わらない。


ティアナとレイナが一歩前に出る。

皿の前に立ち、用意された小さな箸を手に取る。


「では、毒見を」


その一言と同時に、ふたりが料理を口に運んだ。


一瞬の沈黙。

会場に吹き込む風が、音を奪う。


ティアナが、静かに目を閉じる。

レイナが、小さく笑みを浮かべる。


「……とても、香り高くて、美味しいです」


その言葉が落ちた瞬間、王族席から小さな拍手が起きた。

ロイドが静かに笑った。


皿の中から立ちのぼる香気は、確かに並の料理とは違う。

芳醇でありながら決して重くない、鼻孔をくすぐる爽やかな香草の香り。

それが、彼の中にかすかな食欲を呼び覚ます。


(……ふん。あれこれ勘ぐりすぎたか)


毒味役の二人に異常はなく、反応も自然。

料理は明らかに一流の出来。むしろ、これは王の席にふさわしい芸術品だ。


ロイドの警戒心は、ほんの少しずつ、だが確実にほどけていった。

そしてその隙間に入り込むように、料理そのものへの強い興味が、静かに顔を覗かせ始めていた。




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