第26話 新ポーション師はお茶さえ入れれない【side:ヘルダー】
「おいおいおい、なんだか今日はみんな元気がないじゃないか!」
ガイアック医院長が、従業員たちに呼びかける。
正直、勘弁してくれよ、という感じである。
これだけ働かされてたら、元気も無くなるっていうもんだ。
まさかここまで休みなしとは思わなかった……。
優秀な人たちが働くギルドだとは思っていたけど、スパルタにもほどがある。
しかもガイアック医院長は容赦なくみんなを罵倒してくるし……。
「おい、ポーション師。疲れに効くようなポーションはないのか!?」
来たよ、俺に。
本当、新人いびりなのかしらないが、いい加減やめてほしい。
「そんなの用意できませんよ……」
「ふん、無能だな」
「ていうかみなさん働き過ぎでは? 一日にそんなに魔力使ったら、そりゃあ疲労しますよ!」
「なに言ってんだ。いつもはこれでやってるんだよ」
「そんな無茶な……」
俺もさすがに疲れたな。
やっぱり一人でポーション部を支えるのは無理がある。
お茶でも飲もうか……。
って、アレ?
このお茶……。
「あの、これって……?」
「ん? ああ、それは前の無能が置いて行ったやつだよ。そいつにできることといえばそのお茶をだすくらいだったがな。ガッハッハ」
「これ、かなり上等な魔力増強効果のあるお茶ですよ!?」
「なに!? そんなわけあるか。あいつがそのへんにある素材で適当につくってただけだぞ?」
「だからみなさん魔力の使い過ぎにならなかったんですよ!」
「おい、お前もそれを作れるんだろうな?」
「え!? そんなの僕には無理ですよぅ……」
「なに? お前は平民以下の無能なのかよ?」
「う……」
そんなことを言われても、俺には無理だ。
こんな高度な効果を持ったお茶を入れるなんて……。
すごく慎重な作業が必要になる。
前任者の平民……。
そのポーション師はいったいどれほどの腕前だったのだろうか。
やっていたことが凄すぎて、もはや想像がつかない……!
◇
「くそう……疲れた……」
ガイアック医院長がそんな言葉をこぼしながら、本日最後の手術を終えた。
口は悪いが、なんだかんだすごい人なんだろうなぁ……。
「もう無理だ……」
――バタッ!
「ガイアックさん!?」
突然、ガイアック医院長が倒れた。
きっと魔力切れを起こしたのだろう……。
無理もない。
あれだけ働いたのだから。
まあ少し無謀ともいえるけど。
「とりあえずガイアック医院長をベッドに運びましょう!」
俺たちは手分けして、ガイアック医院長を看病した。
◇
「おい、ポーション師!」
ガイアック医院長の怒り声だ。
あんな人でも目覚めればやはりホッとする。
「よかった、目覚められたんですね!?」
――ドン!
「……!?」
ガイアック医院長は壁を思いっきり叩いて威嚇した。
その短絡的な行動は、まるでサルかゴリラみたいだ。
おっと、そんなこと思っちゃいけないな。
一応はこれでも上司だ。
「なんです!?」
「お前のせいだ……!」
「はい?」
「お前が疲労回復のお茶を入れられなかったせいだぞ!」
「そんな! 八つ当たりですよ!」
「うるせぇ!」
――ドン!
また、今度は机をたたく。
「明日までに代わりの方法を考えておけ……。俺が倒れないようにな……!」
「は、はい」
そんなに忙しいのなら、人を雇えばいいのに……。
と思うのだが、口には出さない。
きっとこの人はそんなこと許さないだろう。
金の亡者、守銭奴だろうしな。
まったく、こまった上司だよ……。
前任者はこういうとき、どうやって対処していたのだろうか?