Chapter1 私だって立派に生きている
もしもあの漫画のキャラが彼氏だったら、なんて考えたこと、ある? 私にはそもそも彼氏なんていないし、作ろうとなんか思えない。だって理想が高いもん。少女漫画を読み漁り、恋愛ゲームをやりまくったらそりゃあ理想も高くなる。きっと私は漫画みたいな恋がしたいのだ。切なくて、でも好きで、どうしても諦めきれない。そんな感情を持ってみたいのだ。
だけど現実はそんなに甘くない。自分からアクションを起こさないと恋なんてできないし、そもそも二次元に理想がある時点で無理だ。いくら好きでも、どんなに愛していても、次元は越えられない。そうだ、そんなことわかっている。わかっているのだ。
だけど、もし彼氏がいたら。その彼氏が、あのキャラだったら。私の世界はもっとずっと広くて、綺麗だったのかもしれない。
「はじめまして~、南真紀です! 休日は服見たりとか、漫画読んだりとかしてます。よろしく! ほら、次アンタだよ」
「え……あ、えっと、夜月るき、です。休みの日は――」
漫画しか読んでねぇよこの野郎。ああ、なんで私はこんな所にいるのでしょうか。隣の真紀を睨めば、早く言えと目線でせかされる。
「きゅう、休日は読書とか、ゲームやったりとかしてます。よ、よろしくお願いします……」
合コン、である。隣できゃいきゃいはしゃぐ、名前も知らない人とか、前の男の子と楽しそうに喋っている真紀をぼんやりと眺めながら、勝手に出てきた紅茶をすすった。……甘すぎる。そもそも紅茶は好きではない。何て言うか、独特の風味がダメ。それに加えて、この店の紅茶はめちゃくちゃ甘い。砂糖溶かしたみたいな味がする。まあだからと言って苦いコーヒーが飲めるわけじゃないんだけど。苦いのは薬だけで十分。これ私のモットーね。
……現実逃避もそこそこにして、なんで私がこんな目に合っているのか冷静に考えてみたい。
連れてこられたのは四対四の合コン。真紀の誘いで仕方なく出席したけど、真紀以外の二人は何だか本気だし、大人っぽいし。聞いてみると私より二歳も年上らしい。そうだよね、私も大学一年のうちに合コンとか経験するとは思わなかった。真紀は大人っぽく見えるからいいけどさ、私なんかすごく場違いだと思うんだ。
大体、合コンなんかやっても私の理想は鳴海さんだし、鳴海さん以外の男と付き合う気にはどうやったってならない。きっとそう言い張ったせいでこんな所に連れてこられたんだろうけど。私は目をつむって、真紀にばれないように溜息をついた。
「えっと、猩々さんは本を読んだりします?」
隣に座る真紀にせっつかれて、真正面に座る男の人にしぶしぶながらも声をかけた。彼は眉間に皺を寄せたままこちらを見る。
「……いろいろ読みますよ。漫画も好きですし」
「そ、そうなんですかー。私も漫画とか好きで……猩々さんはどんな本をお読みになるんですか?」
愛想笑いを前面に浮かべながらも相槌を打つ。
「夜月さんはどういう漫画を読むんですか?」
そう返されて、言葉に詰まった。今それを私が聞いたんだよ。質問を質問で返すなっつの。あーイライラしてきた。どう考えてもこの人とは恋愛できない。しっかしほかの席の人は何だかチャラそうだし、積極的に話しかけてるしで余計に嫌だ。
……好きな漫画か。どうしよう、ここは大衆向けの少年漫画の題名を出すべきか。それとも個人的な最萌キャラがいる漫画を出して賭けに出るか。隣の真紀が足を踏んでくる。早く答えろということか。とにかく痛い。言葉に詰まりながらも、私はひきつる頬を無理矢理吊り上げて微笑む。そうして何を言うでもなく、微笑んだまま一口、目前の紅茶をすすったのであった。
はじめました。どうぞよろしくお願いします。




