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一日前の王宮

キース=クーベルタンは王城の奥宮で案内役の執事セビリアの後ろに続いて歩いていた。

カイン殿下が昨日王宮に居なかった事はクーベルタン家の()使()()から聞いて知っている。

お忍びでシャルマーニ家の炊き出しに参加していた、と。


僕との面会はなかなか叶わないのに…


聞いた時は胸を掻きむしりたくなるほどの苛立ちを覚えた。

カイン殿下はユリウスの家にはしょっちゅう遊びに行ってると聞いている。

初めてシャルマーニ家を訪問したあの日。

とても自然体で無邪気にはしゃぐ殿下を見て衝撃を受けた。


お茶会の時は王族として申し分無い立派な王子だと感心した。ああ…将来この方に付いて国政を担うのだ…と安心感も覚えた。同じテーブルでにこやかに談笑する姿に親しみを覚えた。

そんな殿下の従者がシャルマーニ令息だと正式に発表され、とても仲が良さそうな事に僅かな羨望を抱いた。

仕方ない…そう諦めた。

だが、あの雪の日。あの溌剌としたアメジストの瞳を見てしまった。


……とても、綺麗だ……

もっと、ずっと見ていたい!

そのキラキラとした視線で僕だけを見ていて欲しいッ!


そんな衝動を抱いた。

そしてユリウスに強烈な嫉妬心を抱いた。

そんな気持ちを必死に抑えている目の前で雪玉遊びをしていた殿下が倒れた。だがユリウスは倒れた殿下では無く自分の姉を優先した。


信じられない。

ーーー身内を優先しても仕方ないだろう?

だが殿下に選ばれた従者なのだぞ!?

ーーー彼女は雪玉が当たったんだぞ?

殿下にも当たっていただろ?

ーーー殿下は男、姉は女の子だ!

それでもッ!従者ならば先に殿下の安全確認をするべきだろ!?

ーーー……

こんな……こんな従者ならば取って代わってやる!だって僕の方が何倍も殿下に尽くせるんだからッ!!


そう心に決めて僕は計画を練った。

ユリウスが従者から外されるにはどうしたらいいのか?

そもそも従者ならば常に殿下に付き従っていなければならない。なのにアイツは週に最低一度は王宮に来ないという。姉と遊びたいからだと?

ふざけてるッ!

そんなに姉がいいなら従者の役なんかさっさと辞退するべきだろ?

ーーー……よし。

アイツが姉にかかりきりになれば殿下を蔑ろにするはずだ。そうなれば従者の立場も揺らがざるをえなくなるだろう。

……うん。僕だけじゃすぐに見破られるな…お爺様に相談してみよう。


そして計画は練られ、下準備は完了した。


昨日シャルマーニ家が下町で炊き出しをするように裏から調整したのはお爺様だ。

前回からシャルマーニ家の炊き出しは子供達がやる事にしたとお茶会の時に聞いていた。

だが予定外な事が起こった。

なんとそこにカイン殿下も変装して同行して、炊き出しを手伝っている……だと!?。

報告を受けた時の衝撃は筆舌に尽くし難い。


正気に戻った時僕の部屋はまるでつむじ風が暴れた後のようだった。

もう少し自分を抑えれるように精進しよう。

殿下の従者として相応しく振る舞えるようにね。

だが今でも……考えただけでイライラする。


だが計画は上手くいった。

ユリウスの姉はちゃんと誘拐された。

殿下は計画に巻き込まれず無事に王宮にお帰りになっと聞いたが、正直冷や汗をかいた。

ユリウスは姉が誘拐された翌日に平気なフリして登城しないはずだと読んで、前から今日の面会申請をしておいた。

カイン殿下にユリウスが従者失格ではないかと吹き込むのだ。そして僕ならずっとお側にお仕え出来ると。

カイン殿下もきっと納得するだろう。



……何故、こうなった……?


奥宮の応接室で殿下と謁見した。

殿下は一人で入室してきた。

そう、この為にユリウスが絶対に居ない日を作ったのだ。

僕は細心の注意を払ってユリウスが居ない事を指摘し、従者とは常に殿下と共に居るべきだとやんわり忠告した。

さあここから自分を売り込むぞ、と言葉を続けようとしたら、

「さすがキースだ!やはり私とユリウスは一緒にいなければいけないのだな!そうだよな!…教えてくれてありがとう!では早速その様にしよう!」

と、あのキラキラしたアメジストの瞳で僕をしっかり見つめて殿下は僕の手を握りしめてきた。

そう、そこはいい。

むしろ素晴らしい。

だが、その幸せに少し舞い上がってしまった。

言葉を続けようとした時には、目の前にカイン殿下は居なかった。

「…………へ?…」

何がおきたかわからなかった。

部屋中ぐるりと見回したが、開いたドア以外何も変化は無かった。

殿下を探して廊下に出たところでメイドがいたので尋ねてみたら、すごい勢いで外朝に向かって行ったと言われた。


僕の謁見中だったのに?

滅多に会えない貴重な面会時間だったのに?

ユリウスの話だけで……殿下が居なくなってしまった……だと!?

いや、いやいや。

少し待てば帰ってみえるだろう。

そうしたらゆっくり自分を売り込めばいい。


しばらくその部屋で殿下が帰ってくるのを待っていたが、来たのは殿下では無く執事のセビリアだった。

無情にも彼は謁見の終了を告げに来た。


はぁ?

な、何故?


セビリアに理由を尋ねたら、

「シャルマーニ邸に行くとおっしゃっておられました。キース様には大変素晴らしい助言を受けたと、たいそうお喜びになって感謝されておりましたよ。あの様子だと今日はもう面会には戻られないでしょうからご連絡に参りました。」


信じられない……

何故、こうなった……?

ユリウス……居ても居なくてもなんて邪魔なヤツだっ!!


フツフツとした怒りを抑えながら僕は王宮を後にした。



王宮 宰相執務室

午後の執務もひと段落な三時過ぎ。

奥の執務机で通常書類に目を通しては決済しているのはユランタス=シャルマーニ……現シャルマーニ侯爵でユリウスとリナリアの父親である。

書類に目を通し黒インクでサインをする。

次の書類は青インクで書き加えたり線を引いたり……

次の書類は赤インクで判子を押す。

数枚に一枚は横の箱にそのまま移動させる。

その作業を流れるように素早く行う。

彼が優秀だと言われるのはその決断の正確さもさることながら判断のスピードだ。

決めるのに余分な感情を挟まない冷徹なまでの国の舵取り、おおよそ利権や権力絡みでのやっかみはあるが表立って非難する程の失策は無く、王宮で働く役人からは絶大な信頼を得ていた。

その作業をしている執務机の前で応接ソファに座って優雅にお茶を飲んでいる老人が居た。

「お前の書類仕事は本当に早いな…」

呆れと感心が半々の言葉はこの国で一番身分の高い男からの言葉だ。

「……お茶、飲み終わったなら出てって下さいよ。」

書類から視線をあげて、迷惑ですという顔でそちらを見ながらユランタスが言う。

部屋には二人の他にユランタスの秘書であるローザがいつも通りに無表情で仕事をしているだけだ。

ユランタスのその言動はおよそ国王に対してと思えないほど不敬な態度だが、言われた本人も慣れているのか聞き流している。

「余裕が無いのぉ…まぁ大事な娘が誘拐されたのだから仕方ないわな。」

「……」

「パパン夫人、何か甘いお茶請けは無いかの?」

国王の言葉に無言で睨みつける宰相。

ピリッとした空気の中、ガタンと音を立ててローザが立ち上がった。

その音で冷静さを取り戻した。

普段は全く音を立てずに行動をしている事を知っているユランタスは、その無作法とも受け取れる行動に感謝した。

そして静かに問い返す。

「……だからここまで来たんですか?」

「ここ以外で話せば何処に漏れるか分からんからな。」

「……ハァ…」

王宮で一番最重要機密書類が多く保管され、会話すら漏れない場所だと認定されている宰相執務室は、国王ですら自ら足を運ぶ程のセキュリティらしい。

それはそれでどうなんだ?と思わなくもないが、確かにリナリアの誘拐の話はここ以外ではしたくないのも事実だ。

「午前中にアジトに突入したはずですから今頃は無事にこちらに向かってきているはずですよ。それよりも…今回のこのふざけた計画を練ったヤツだっ!」

語気荒くユランタスが報告書を叩く。

「そもそもウチの炊き出しは再来週だったハズなのに二週間も前倒しになった。まずそれがおかしい。しかもいつも指名依頼している冒険者も別の依頼で王都を離れていた。だがこれは仕方が無い。通常通り二週間後なら問題無いはずだったから。」

ユランタスの言葉にうむうむと頷きながらローザが出してくれたショートブレッドを口に入れる国王。

「……陛下。ここは私の執務室ですが、一応毒の警戒もして下さい。」

「うん?パパン夫人がちゃんと毒味済みだぞ?」

あまりに無造作に菓子を食べる国王に苦言を呈したら、既に対策済みだと言われ、ローザを見たら確かにもぐもぐと口が動いていた。

「……美味しいですよ?要りますか?」

「…………お願いするよ……」

「承知しました。」

国王陛下がこの部屋に来て秘密の話をする時はメイドも部屋から下がらせるので、お茶の準備も秘書のローザの仕事だ。

手早く用意されたお茶は少し苛立っていた心を落ち着けてくれた。

「昨日尋も…聞き出した情報によると、冒険者黒き蜂はまだ組んだばかりのパーティだそうです。リーダーのゴルツが酒場の賭けアームレスリングで目立ってた数人に声をかけて結成したのだと。今回の炊き出しの依頼が初クエストだと張り切っていたのに、まさかの裏切りに呆然としていると報告がありました。」

「演技ではないのか?」

もっともな国王の疑問に目を細めて、

「そんな演技も見抜けない尋問担当がウチに居る…と?」

小首を傾げて尋ね返す。

その宰相の笑顔に薄ら寒いものを感じるが表情には表さない。普段にこやかな顔をしているから知らない人間には与し易しと思われがちだが、若くして宰相を務めるということはそれだけの力があると言うことなのだ。

機嫌の悪い時に神経を逆撫ですれば国王ですら笑顔で脅される……確かにこんな会話、ここ以外では出来ないわねーーと、ローザはこっそり思っていた。

「んんっ!……つまり冒険者の実行犯の一人だけが犯人の一味だったということか。」

咳払いをして情報を整理する国王。

「そうです。そしてリナリアを乗せて連れ去った馬車はファミーユ子爵家の物でした。」

「ファミーユ子爵?そういえば今年は夫婦揃って憑き物が落ちた様な顔をしていたな……ん?ではファミーユ子爵が誘拐をしたのか?」

「いいえ。使われたのは下働きが使う荷馬車なので一概にファミーユ子爵が黒幕とは言いきれません。荷馬車では無く乗用馬車であったなら確実に黒だったのですが……ただ、ファミーユ夫妻は昨日の午前中に王都を発っています。」

「普通に考えれば先に王都を出て、後で誘拐したリナリア嬢と合流すると思うのが普通ではないか?」

国王の言葉に力無く首を横に振る宰相。

「そう思ってファミーユ子爵夫妻の足取りも探らせたところ、セライラ市には寄らず一目散に自領に向かって行ったと。リナリアはセライラに運ばれたんですよ?……つまりファミーユ子爵は本当の犯人か見せかけの犯人かまだ決められないのです。」

「どちらにせよ荷馬車がファミーユ子爵の物なら呼び出さねばなるまい?」

「ええ……でもどうもこう…何か腑に落ちないんですよね。」


コンコン


軽いノックが響く。

「?…誰も取り次がないように伝えた筈だが…?」

ユランタスが訝しげにドアを見るとローザがサッとドアに近寄った。

「確認します。」

ローザの言葉にうなづくと彼女はドアを開けた。

「あっ!失礼するぞッ宰相!」

ドアを少し開けた途端元気な声と共に小さな子供が入って来た。

「…カイン殿下!?」

「カインだと?」

あまりにも意外な登場人物に思わず声が出た。

「あれ?おじい様もいらっしゃるんですか?」

スタスタと部屋に入って来るカインの後ろを呆気にとられてたローザが扉を閉めて着いてきた。

「あ、おじい様もここにみえるということはやっぱりキースの言ったことは正しかったんだ!」

うんうんと独りごちながら何か納得しているカインに、とりあえず要件を聞くことにする。

「それで、カイン殿下は今日はどうしたんですか?」

にこやかに尋ねてみる。

「あ、えっとユリウスの事なんだが、やっぱり今から行っても良いだろうか?明日は……城に来るとは思うのだが…」

「え!?今からですか!?……それは、ちょっと………それに、おそらくユリウスの明日の登城は無理だと思いますよ。」


今、リナリアが帰っていれば我が家はとても王子殿下をもてなせる余裕は無いだろう。そして、おそらく明日はあいつもリナリアから離れないだろう。私だって明日は休みたいくらいなのだから…


心の中で息子の心理を推理する。

「むぅぅ…では明日は?明日なら行っても良いだろうか?」

勢い込んで明日家に来ると殿下は言う。


何かあったのか?

リナリアの事が心配というだけでは無さそうだが?


そう思って国王の方を見ると、国王も困惑した顔をしていた。

「あ〜、カイン。今日これからシャルマーニ邸に行くと言っておるが、お前は今日クーベルタンの息子と面会予定では無かったか?」

「はい!さっき会いました!」

「そうか……それで、何故急にユリウスに会いに行く事になるのだ?」

首を傾げながら国王がさらに尋ねる。

「キースが、あ、クーベルタン侯爵子息が『従者ならば何時いかなる時も共に居たいと思うものだ』と、教えてくれたのですっ!私はユリウスと一緒に居たいと思っても問題無い!という素晴らしい助言をくれたのです!」

ニコニコと満面の笑みでカインが言う。

「まあ、間違いではないな。」

「そうですよね!だからおじい様もわざわざ宰相の執務室でお茶を飲んでいらっしゃるのですよね!やはり将来共に国を背負う二人は少しでも一緒に居るべきなんだと確信いたしました!」

ぶはっ…!!

「おじい様も宰相も流石です!私もしっかり見習おうと思い、先ずは不安な気持ちで居るユリウスに会い行こうと思い許可を得に来ました!」

…………。

まさか今更内緒話の為にこの部屋に来たとも言えない。

国王は若干引きつった笑顔で目をそらしている。

長年横で見てきた宰相の私には分かる。その笑顔はこちらに丸投げする時の笑顔だ!

「なるほど、分かりました。ですがやはり今からはおそらく我が家も少し差し障りますので、明日、お越し願えますか?」

万人受けする笑顔でカインを説得する。

すると何かに気付いたのか、カインがあっと口に手を当てる。

「そうか!リナリア…嬢が無事帰還されたら私はお邪魔ですよね!……では今日はやめて明日訪問させていただきます!」

カインの物分りの良さに心から嬉しく、将来が楽しみに思うユランタスだった。

「ではカインは明日シャルマーニ邸に行くのだな。いつものようにアルフレッドから離れぬようにな。」

「はいっ!!おじい様!」

「うむ。ではこの菓子でも食べて、今日はゆっくりするといい。」

そう言って自分の前に置いてあったショートブレッドの皿を向かい側のソファの前に置く。

それを聞いて嬉しそうにソファに座るカインの前にローザがお茶を置いた。

小動物の様に美味しそうにお菓子を頬張るカイン殿下を見て、今回の誘拐の犯人に思考を巡らす。


何時から計画されていたのか?

犯人の目的、動機は何なのか?

怪しい動きを見せるファミーユ子爵夫妻はこの事件にどれだけ関わっているのか?

突入した騎士とウチの陰の者ーー月影(げつえい)達が犯人と証拠を持ち帰るはずだから、それで分かればいいが…。

セライラ市と言えばクーベルタンの領地だったな……約150年前に反乱にあったクーベルタンの姫がエルシャワール家に助けを求め、その後国は統合されその姫はエルシャワール王家に嫁いで来た……だが、曾祖父の言葉が本当ならその反乱自体その姫君の画策だったとか……こちらの王家に嫁ぐ為だという話だったが、自らの望みのために手段を選ばないという性質は今もクーベルタンに受け継がれているのはよく分かる。まだ宰相に就任する前だったが前クーベルタン侯爵には振り回されたものだ。

クーベルタンの血をシャルマーニに入れるなと言っていた曾祖父の言葉を理解した。

そういえば前クーベルタン侯爵はセライラ市の別邸で隠居したと聞いたな……

「……ユランタスよ。」

「っ…どうしました?」

思考に没頭し過ぎていたのか、呼ばれてからの返事に一瞬遅れた。

「儂らはこれで退散しよう。お前も仕事を早く切り上げて帰宅するがいい。」

「あ、はい。ありがとうございます。」

「ではまた明日会おうぞ。」

「宰相!明日はよろしくお願いしますね!」

「家のものに伝えておきます。」

国王と孫王子は仲良く手を繋いで宰相執務室を出て行った。


……はぁ…明日休みたいな…


そう思った宰相の元にリナリアの失踪が伝えられたのは、書類が終わって帰ろうとしている時だった。







一日前の王宮でのやり取りです。

ここで入れないと入れるタイミング無いと気付き急いで書きました。


キース君…ヤバい人だったんですね(笑)

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