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殿下の訪問

従者になって初めての殿下来訪日。

殿下が飛び出してまで姉様と遊びたかった日。


無情にも朝から雨が降っていた。


「殿下、ボール遊びしたかっただろうにね。」

玄関ホール横の待機部屋で僕と姉様はガラス越しに門を見ながら殿下到着を待っていた。

簡素な造りの部屋はとても狭く、大きなガラス窓に小さな机、壁に直接作り付けてあるベンチに壁際の天井から吊るされた紐があるだけだった。

ここは本来使用人が詰めていて門から馬車が入ってくるのを確認したら報告したりするための部屋である。

広い意味で門番待機部屋かしら?と、外の降り続く雨を見ながら姉様がぼそっと呟いた。


狭い部屋に大人の使用人が一人と僕と姉様。ベンチはぎゅうぎゅうだ。姉様の横には職務中の使用人が居心地悪そうに座っている。

そりゃそうだ、本来なら僕達がここにいる方がありえないんだから。大人しく部屋で待ってるのが普通なのに、気付いたら姉様に引っ張られてこの待機部屋に強引に押し入り、今に至る。

「ねえあなたお名前なんて言うの?」

「ひぇっ、あ、えっと、ハンス....です。」

急に姉様に名前を聞かれた使用人の男性がオドオドしながら答えた。彼はハンスと言うらしい。ハンスはまだ成人したての青年で僕らは初めて見る顔だった。

「ハンス、仕事しながらでいいから私の質問に答えてくれる?」

えっと、姉様何言い出した?

「ハンスは朝からずーっと毎日ここで馬車が来るのを待ってるの?」

「いえ、あの…交代しながらですが、いつどの様なお客様が見えてもすぐに連絡出来るようにここで待機しております。」

「へえ〜でも誰が来たかってどうやって分かるの?」

「あ、その....門にいる門番が旗を立てるのでそれを見てお知らせします。」

「旗で誰か分かるの?」

「旗の色が違いますからそれで分かりますよ。主に旦那様やご家族様の旗、予定されていた来客様の旗、予定外の来客様の旗ですね。」

へぇぇ〜僕も知らなかった!

そういえば王宮から帰ってくる時に門で顔を出して声をかけるように言われてたけど、そういう事か。

「じっと門だけ見て待ってるのは大変ね〜凄いわ!」

姉様、そんなにハンスを見つめて褒めると彼が大変な事になってしまいますよ!

ああ....ほら、真っ赤になって汗が凄いことに!

「あ、その....いえ、えっと.....き、恐縮....です。」

使用人ハンスのリナリアへの好感度が爆上がりしたのがひと目でよく分かった。


そんな時遠くの門に旗が掛けられた。

ハッとしたハンスが天井から吊るされた紐を何回か引く。すると壁の裏側でパタパタと人が動く音がした。

「へぇぇそうゆう仕組みなんだ〜納得〜」

姉様がうんうん頷きながら感心している。

「あ、あの、お客様....ですよね?お坊ちゃま方がここに居られると、その、色々と大変なのではありませんか?」

ハンスの控えめな忠告に2人してハッとなる。

「姉様、出ますよ!」

「そうね。ハンスおじゃましてごめんなさい。楽しかったわ!」

「い、いえ。」

僕らは急いで部屋から出て、馬車の音が近付いてくる玄関ホールに立った。


玄関の正面の屋根の下に王宮馬車が止まった。

玄関の両開き扉は既に全開に開いており、馬車の戸を開けるために使用人が走り寄る。

「王族の訪問なのに王宮馬車なんだ。」

姉様が小声でつぶやく。

「これは私的な訪問だし、王宮馬車ならどの貴族も使うからかえって目立たないんだよ。一応お忍びだからね。」

僕は前日に教えて貰っていた理由を姉様に言った。

ガチャリと開いた馬車の扉から侍女が降りて周りを見渡し、馬車の中に声をかける。

馬車の中からカイン殿下がひょこっと顔を出して、玄関ホールの中の僕を見つけると白銀の髪の天使は満面の笑みを浮かべた。

周りのメイドがほぅ..っと息をつく。


うん。

黙って微笑むと天使なんだよね殿下。

僕は馬車から降りてくる殿下に歩み寄り挨拶をした。

「殿下、本日は我が家へのご来駕誠にありがとうございます。」

「うむ。ユリウスよ、今日はよろしく頼む。」

よし、挨拶は多分完璧。

今日は父様は城で仕事だから家には居ない。

出迎えは跡継ぎでもあり従者でもある僕の役目だ。

「では中に行きましょう。」

僕は殿下を屋敷の中に誘った。


玄関ホールにカーテシーで姉様が待機していた。

「殿下、本日はようこそ我が家へ。お待ちいたしておりました。」

「うむ。やっと来れたぞ!」

やっとって....まだ一週間しか経ってないのにな....

いやまあどれだけ楽しみにしてたのかは毎日一緒だったからよく分かってるけど。


僕らは来客用サロンに入ってソファに座った。

殿下がキョロキョロしながら首を傾げる。

「どうされました?」

「うむ。前に来た部屋とは違うな、と思って。」

ああ〜前回は僕らのサロンに突撃して来ましたからね。

「殿下、先ずはお茶会からですよ。」

殿下についてきた侍女が耳打ちする。

「あ!そうだったっ!」

思い出したってリアクションが微笑ましい。

姉様が僕の横でふふふっと笑う。

メイド達がお茶とクッキーを用意して部屋から退出する。部屋には僕ら三人と殿下の侍女と姉様の侍女とうちの執事が少し離れて控えている。

お茶を一口飲んで殿下が姉様に話しかけた。

「リナリア嬢、その、だいぶ前のことにはなるのだが、お茶会に僕が持ち込んだ菓子で迷惑をかけてしまったと聞いた。故意ではないにしろよく分からないものを勝手に持ち出して貴女に迷惑をかけてしまった。すまなかった。」

殿下はそう言って姉様を見つめた。

姉様はとてもびっくりして、両手をパタパタとさせながら答えた。

「で、殿下。そんな、もう過ぎたことです!私もこの様に大変元気ですし、気に病まれないでください!」

そういえば気にかけておいでだったもんな。


家同士ではもう既に解決済みだが、今回の訪問ので直接謝っておきたかったのだろう。

一週間毎日一緒に居たから分かったのだが、殿下は活発で行動力も有りそしてとてもお優しい方だ。僕は殿下の従者になれて良かったと思っている。


コクリとお茶を飲み、僕は殿下に話しかけた。

「ところで殿下、今日はあいにくの雨でこの前のボール遊びは出来ないのですが、どうしますか?」

「そうなんだよ」

僕の話題転換に素早く反応した殿下がティーカップを置き、クッキーをつまんで少し思案顔で答える。

切り替え早....!

「恵の雨とは言え、せっかく楽しみにしていたから恨めしく思ってしまうぞ。ユリウス達はこんな雨の日は何をしておるのだ?」

「まあ、大体は読書ですが....時々姉様が変わった提案をしてくれますね。」

僕の言葉に殿下は瞳をキラキラさせて姉様を見た。

「リナリア嬢は、なにか面白い提案はあるか?」

殿下が姉様に話し掛けた。

「そうですね.....どうしましょうね〜?」

姉様もクッキーをサクサクさせながら悩んでいる。

「姉様、先日から何か変わった特訓をしていると母様が言ってませんでしたか?」

ダンスの時に有効なナントカって、必死で言い訳してましたよね?

「ああ、スラックライン?だいぶ出来るようになってはきたけど.....」

「スラック.....?それはどういう物なのか?」

「幅広のリボンをピンッと張った上で歩いたり飛んだりするものですよ。」

姉様が説明しても殿下も控えている侍女達もよく分からない顔をしている。

僕も同じ顔をしているのかな?

何回聞いても意味が分からない。

リボンの上を歩く?

無理でしょ?

「お茶を飲み終わったら着替えてサロンに移動しましょうか。何をするにしても楽な服装の方が良いですしね。」

お茶会をしに来た訳では無いからね。

殿下の息抜きだから先日みたいに多少砕けた感じでも良いと、許可は貰っている。


僕らは着替えて子供用サロンに集合した。

靴を脱いで上がる床の上にピンッと張ったリボンが置いてある。リボンの高さは膝ちょい上。

........え?

この上を歩くの!?

姉様、ほんとに何言ってるか分からないよ!?

「えーっとここの上で歩いたり飛んだりするのがスラックラインですが....」

「あ、そうだ!」

姉様が説明し始めた時に殿下が遮った。

「どうしました?」

「いっぱい考えたんだが、ここで遊ぶ時は前回同様名前で呼んで欲しい。敬語も無しで!!」

殿下の提案に殿下の侍女がびっくりして殿下の顔を凝視した。

「王宮でユリウスから教えて貰ったからマナー的に良くないとは思うけど、ここなら、三人の時なら身分の上下無く思いっきり遊べるのではないか?」

なるほど。殿下は砕けた感じで遊びたかったのか。

たしかに王宮で僕が従者をしている間はそんな関係ではいられないからな。

「なるほど。わかったわ!ではココにいる間は愛称で呼びましょ!私はリーナで、ユーリ、殿下はどうする?」

「カインでいいぞ。」

「カインね!ユーリもそれでいいよね?」

「良いけど.....姉様順応早くない?」

「ほほほ、可愛い弟が二人って感じ。」

姉様の何気ない一言に殿下が目を輝かせる。

「なるほど!弟とはこういう感じなのか!僕には妹しか居ないからな、姉というのは新鮮だ!」

そういうもんかな?

妹居ないから僕には分からないや。

「それで姉様、それの遊び方は?」

小動物を見るようなほほえみで殿下....カインを見ていた姉様に説明を求めた。

「ああ、うん。まずは片足でバランス取って立つところからね。」

そう言って裸足でリボンの上にひょいっと立った姉様は両手片足をふわふわさせながら手本を見せてくれた。

「ふぉぉぉぉぉ!すごい!リーナは軽業師なのか!?」

カインが目を輝かせて姉様を褒めた。

たしかにすごい。

話聞いてもいまいちよく分からなかったのだが、実際に見てもやっぱり分からない。

なぜそれに乗れると思ったのかも分からない。

「多分お昼までに歩けるようになると思うけどね。」

僕らは裸足になって交代でリボンの上に乗った。

「むう、うおっ、くあっ、あああああっっ」

バランスを崩すと落ちる。

そんなに高くは無いけど一応クッションの大きいのが左右にひいてあるので怪我の心配は無いが、壁際の殿下の侍女がハラハラしているのはさっきから感じている。

「さっきより長く立ってられたね!さすがね〜」

「足がぷるぷるする〜」

「膝を少し曲げればぷるぷるが少なそうだな....」

「スキップ出来るかな?」

「姉様スキップって何?」

「ん〜?飛びながら歩く?」

「はぁ!?ここを?なんだそれ、僕もやってみたい!!」

「うんうん、ぷるぷるが無くなったらね〜」

メイドがお昼の食事の用意が出来たと知らせに来た時、僕らはぐらつきながらもリボンの上を歩けるようになっていた。


スラックラインって面白そうですよね〜

作者はやった事はありません(笑)

でも雨の日の貴族の屋内遊びってなんだろ?

ボドゲーとかかな?

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