リナリアの日常
私の弟はとにかく可愛い。
整った容姿もさることながら私の後ろを付いてきて私のやらかしをフォローしようと頑張ってるところが、もうなんとも言えず可愛い!
こういうの、前世風に言うと「萌え」って言うんだと思う。
だからついついわざと粗相してみたりして、彼の出番を増やしている。
いや〜ワタワタするユリウスがもう、ホントに可愛い!
そんな可愛い弟を愛でる時間が今日から激減してしまった。
なんと王子の従者になるという。
まあ、王子様も?めっちゃ可愛い天使の様な容姿だし?
時々うちに来て一緒に遊んでくれるっていうし?
その間はちょっとのケガも不敬な言動も目をつぶってくれるっていうし?
私も思いっきり運動出来るから楽しいんだけど?
ユリウスが居ないって事実は変わらない。
しかもヒマなのよね。
本当は今日はお茶会の予定が入ってたけど、主催のご令嬢が突然の体調不良で午前中に中止のお知らせが来たのだ。私もよくあったのだけれど、まだまだ子供だから突然の体調不良はしょうがないものね。しかも私のお茶会参加は半年ぶりで、あの倒れた時以来なのだ。
久々に美味しいお菓子が食べれると思ったのにな〜
美味しいお菓子と言えば、私が倒れた原因のチョコレートはあれから少しづつお茶会で出るようになった。
もちろんボンボンでは無い。
アルコール入りは大人用だから仕方ないよね。
あ〜でもまた食べたいな〜
それにしても、ユリウスはまだ十歳なのに王子様の遊び相手の初日で午後まで王宮ってホント大変よね。
いくら子供同士とはいえ、ずっと緊張してなきゃいけないだろうし。
帰ってきたらいっぱい褒めてあげよう!
それにしても、
ユリウスが居ないとこんなに退屈だとは思わなかったわ
(なんじゃ、リーナは拗ねておるのか?)
ひょいとテーブルの上に風華が降りてきた。
白い翼にふわふわの巻き毛が風に遊ぶように弾んでいる。
大きめの瞳にからかう様な光を浮かべてこちらを覗き込んでいる。
(ん〜ちょっとね〜なんか嬉しいんだけど、さみしいって言うか、複雑な気持ち)
(人間は不憫じゃのう。我らならす〜っと飛んで行くのに。)
(まあ、いつまでも姉離れ出来ないのも困るからユリウスには良い機会だけどネ)
(リーナもまだまだ弟離れ出来なそうに見えるがの)
(あら、私はあの可愛い様子が期間限定って知ってるから見逃したく無いだけなのよ!?)
(はいはい、そういう事にしておこうか)
むうっとむくれるがそれ以上の反論はしないでおく。
とりあえず今日は体幹を鍛えるためにスラックラインもどきでもするか〜
私は前世の知識を時々活かして遊具や運動器具を作って貰っている。
もちろん同じ素材は無いものが多いし、そんな専門に知ってる訳でもない。目的と同じ方向に進めるなら似た物でいいと思う。
でもやっぱりゴムが欲しいなあ〜
この前ユリウスに思いっきりボールをクリティカルしちゃって凄く痛そうだったからな〜
スラックラインもどき....幅広の布製のリボンを台にセットして貰い、まずはその上で立てるようにしよう。
最初は手すり代わりの壁に手をついて。
何度も壁にもたれたり後ろに落ちたりしていたが、だんだん手を離す時間が増えていく。
集中してバランスをとっていたらメイドが父様とユリウスの帰宅を教えに来てくれた。
体操着から普段着のドレスに着替え夕食の席に着く。
先に座っていたユリウスの隣に座ると、すぐに父様と母様も部屋に入ってきた。
食事が始まり、私はユリウスに今日の感想を聞いた。
「ユーリ、お疲れ様!従者初日はどうだった?」
「さすが王宮って思ったよ。」
「へえ〜例えばどんなところが?」
サラダをむぐむぐと噛みながらユリウスの返事を待つ。
「ん〜。座学の先生は博識で説明も分かりやすくとても素晴らしい方だった。」
スープを口に入れてうんうんと頷くユリウス。
「ドゥルーガ伯爵はあの博識と穏やかな気性を陛下に気に入られて王家の座学全般の教育係になられた方だからな。カイン殿下でもう何人目になることやら。」
パンをちぎりながら父様が相槌を打つ。
「まあ!そんな素晴らしい方に師事できるなんて良かったわねユリウス。」
母様が手を叩いて喜んでいる。
「剣術はどんな感じなの?やっぱり若手のイケメン?」
メインのハンバーグもどきを切りながら私がたずねる。
「若手のイケメンって何?」
母様がパンにソースを塗りながら聞いてきた。
「見た目が麗しい殿方をイケメンって言うのですよ。」
私の前世ではね!って心の中で付け加えておく。
「騎士団の隊員で見た目が良いのは要人護衛に回されたりしてるから剣術指導には回されないと思うぞ。」
「「「へえ、そうなんだ〜」」」
私とユリウスと母様が一緒に驚く。
確かにお茶会の時に立ってる護衛が強面だとちょっとな〜って思うわ。
「剣術指導は前近衛騎士長のヴァンクライフト卿でしたよ。」
メインのハンバーグの最後の1切れをフォークに刺しながらユリウスが言った。
なんか急に疲れた顔してるわね?
「あ〜ヴァンクライフト卿か....ユリウス、頑張れよ....」
父様が遠い目をしてお茶を飲む。
「父様、その方なにか問題があるの?」
私も最後のパンの欠片をつかみながら聞いた。
「問題....というか、鍛え方が少し独特でな....」
「ええ、そうですね。今日は僕が初日だったせいかほぼほぼ体力作りで終わりましたが。なんというか、詮索好きというか....」
ユリウスと父様が遠くを見ている....
「よく分からないんだけど?ユリウスは今日は何をやらされたの?」
最後のお茶を飲みながら母様が聞いた。
「今日はまず走り込みをするって言ってお城の外壁の上を殿下と三人で走ってたんだ。」
「見晴らし良さそうね!」
「見晴らしは良いし風も気持ちいいんだけど....走ってるあいだ、ずーっとヴァンクライフト卿が話しかけて来るんだよ。しかもこっちは息も上がってるのに絶対一言では返事出来ない質問ばっかりするんだよ!?もう途中からどんな返事したのか覚えてないよ。....殿下も楽しそうに会話しながら走ってるし....」
頭を抱えながらユリウスが俯く。
ははあ、なるほど。
これは知らないと辛い基礎訓練ね〜
前世の私もついうっかり体育会系の部活に入った時に体験したわ〜
声出しながらのランニング!
あれ、最初は鬼のように辛いのよね〜
でも、走りながら声出しすると嫌でも呼吸を深く吸うし、声出しするから息も吐く。結果、辛くても長く走れるようになり、心肺能力が向上し、スタミナもつく。
さらに脳も動かす事により脳にもちゃんと血流が行くようにする。
さすが近衛騎士団長。イケおじの予感。
「ユリウス、最初は辛いと思うけど慣れれば歌を歌いながらでも走れるようになるわよ!頑張って!」
「歌いながら走るってっっどんな拷問〜!」
私の励ましにあまり励まされてなさそうな愛弟にはそのうち真相を教えてあげようと思う。
ワイワイと賑やかな夕食も終えてみんなでサロンに移動する。私達がサロンに移動しないと食堂の片付けとメイド達の食事が出来ないからね。食後のサロンは完全に私達家族だけになる。
マリアが私の就寝と入浴の支度を整えて迎えに来るまでこの部屋で待機だ。
ユリウスも母様も一緒で侍女待ちだ。父様はいつもはサロンに居たり居なかったりする。忙しい時は食後すぐに書斎にこもってお仕事の続きをしているのだ。
貴族も大変だな。
今日はみんな揃ってサロンに居る。
私はユリウスとチェスを始めた。
リバーシの方がルールも楽だしお手軽だけど、この世界には無いらしい。
今度父様に頼んで作ってもらお〜
ちなみにトランプはあった。
父様と母様は2人でカードゲームをしている。
「そういえばリナリア、貴女今日の午後のアレは何がしたかったの?」
母様が頬に手を当てて不思議そうに聞いてきた。
「....アレ....?....スラックラインですか?」
「メイド達が新しい遊びかしら?って噂してたわよ?」
ふむ。確かに幅広のリボンに乗っては落ちて乗っては壁にもたれてを繰り返してると何やってんだ?って思うわよね。
「アレはダンスでふらつかないようにするための訓練です。」
体幹を鍛えてバランス感覚を養うスラックラインはまあ広い意味でダンス用の訓練だ、と思う。
私はキリッとした顔(自分的に)で答えた。
「そうなの?....女の子なんだからあまり怪我をしない様に気をつけなさいね?」
母様に心配させてしまった。
「姉様、スラックラインとは何ですか?」
ユリウスが小首をかしげて聞いてきた。
あざと可愛すぎるっっっっ!!!
無意識にやってるあたりがなおいい!
あんまり早く大きくならないで欲しいとお姉ちゃんは思ってしまうよ。
「姉様?」
はっ!!
自分の世界に入っていたわ
「あ、スラックラインっていうのは、ピンと張ったリボンの上でバランスをとって歩いたり跳ねたりする運動よ。」
「リボンの上で、ですか?」
え、ナニソレって顔してるわね?
「そうよ。かなり難しいけど出来ると楽しいハズよ!」
私はにっこり笑って言った。
結果、ユリウスはもっと険しい顔になった。
なぜ!?
「殿下もきっと気に入ると思うけどなあ....」
運動好きそうだったもんね。
「そういえば、ユリウス。殿下の来訪の件だが、週に一日、お前が王宮に行かなくても良い日に殿下がこちらに来て一緒に過ごすことになったよ。リナリアもその日は殿下のお相手をするから色々と日程を調整しておくように。」
父様から重要なお知らせが来た。
殿下、めっちゃ楽しそうだったもんね。
週一なら妥当な所かな?
ユリウスは....まあ、従者に休みは無いも同然か。
まだ十歳なのに大変ね。
でもそれだけずっと一緒に過ごす事が信頼関係を構築するのにとても重要なのよね。
頑張れ未来の王様の右腕くん!
ダンスをするにも体力作りは大事よね。
リナリア視点でユリウスの従者初日の感想を聞いてみました。
イケおじの予感(笑)
仲良し家族は食事中もワイワイガヤガヤ
食後は団欒タイム。
殿下は週1で遊びに来ることに(笑)




