これからのこと
朝。そういえばリナとの同居ってどうなるんだろう、と思い聞いてみた。
「スランプ解消が理由なら、もうここに残る理由がなくなってしまったのかな、と思ったんだけど」
「そのことなら、もう根回しは済んでるよ」
「え?」
「もうとっくにここで住むことになってるから」
「スランプ云々は関係なく?」
「うん」
「……リナって結構そういうところあるわよね。ちゃっかりしてるというか」
「サバイバル能力が要る業界だからね」
そうなのか。もちろん嬉しいといえば嬉しいけど。
「まあ、別に元々期限があったわけでもなかったか」
「こう言ってはなんだけど、どうせご両親もいないんだし、しばらくはここを私たちの愛の巣にしようよ」
「ねえ、私を無視するのやめなさいよ。私の目が黒いうちは、そんなこと許さないんだからね」
「無視なんかしてないよ?ユイちゃんも大切な隣人だからね」
「……あっ、そろそろ俺行かなきゃだな」
「どこ行くの?カイト」
「前に話した桃井ちゃんとの顔合わせ」
「……私も行っていいわよね?」
「ん?よくはないだろ」
ていうかなんで。
「いや、行こうよ。最悪、私が理由をでっち上げるよ」
「え、別にこなくていいよ?リナも」
「カイトくんはもう少し自覚した方がいいよ?」
「……何を?」
もしかして無自覚に女の子を惹きつけちゃう?
「女性関係に関しては、信頼が皆無だってこと」
「……一応、仕事なんだけど」
「いいから。行きましょうよ」
「……わかった」
ちょっと扱いが酷い気がするけど。……でも、信頼もクソもないわな。そりゃそうか。
……で、事務所まで来た。
「はじめまして、デフロストこと神崎海斗です。よろしくおねがいしますね」
「桃井芽衣っていいまーす。気軽にメイって呼んでください♡あと、私一学年後輩なので全然タメでいいですよ」
「そうなんだ、よろしくね。メイちゃん」
「はーい♡じゃあ、私もカイトさんって呼んじゃいますね?」
結構グイグイくる。のに、なぜかそんなにぶりぶりしてる印象はない。自然体の可愛さなのだろうか。
「う、うん。好きなように呼んでね」
なんか思わずデレデレしちゃう。
「リナさんもお疲れ様です」
「お疲れ様。メイちゃん」
「で、そちらの方は……」
「私は天沢結衣。カイトのマネージャーだと思ってもらって大丈夫よ」
そうだったっけ。確かに食生活は、ばっちりマネジメントされてるけど。
「そうなんですね。よろしくお願いしますね、ユイさん」
「早速なんだけど、メイちゃん。これから一緒に仕事をしていく上で、どんな曲を俺に作って欲しいのか知りたいんだ」
「そうですね。私は、いつものカイトさんの曲を歌わせていただければ、それが一番嬉しいです♡」
「いつもの俺の曲っていうと……」
「みんなを明るく笑顔に、そして前を向く元気をもらえるような曲です」
「ああ、そういえばメイちゃんは俺のファンって聞いてたけど」
「はい♡ずっとお会いしたいなって思ってたんです」
「そっか、嬉しいよ。こんな可愛い女の子が俺のファンだったなんて」
ガスッ! ギュッ!
痛い!テーブルの下でユイに蹴られ、リナにつねられた。そんなデレデレしてたんだろうか。でも痛かったよ?
「あ、そうだ。今、カイトさんのお家でリナさんが一緒に生活してるって伺ったんですけど、本当なんですか?」
「ん」
これって言っていいの?あんまり良くないんじゃないの?社内では広まっちゃってるのかな。わからんから頼む、リナ。
「誰かから聞いたの?」
「ちょっと小耳に挟んだ程度ですよ」
「あんまり人に言わないでね?」
「もちろんです。というか、やっぱり本当だったんですね〜」
「仕事をする上で有利な面もあるんだ」
嘘とも言い切れないラインのフォローを入れとこ。もはやほぼ私的な理由だけど。
「……決めました。私もカイトさんのお宅で、一緒に住まわせていただいてもいいですか?」
「……え!?……どうして?」
可愛い女の子だし歓迎するけど。……って言ったら刺されそうだしやめとこう。すでに両隣からプレッシャーを感じるし。
「カイトさんが素敵な人だなって思ったからです♡」
「そうかなあ」
「はい♡」
ドカッ! ギュイッ!
さっきよりも強めにいかれた。すごく痛い。俺そんな悪いことしてなくない?
「元々素敵な音楽を作る人だなって憧れてたんですけど、実際に会ってみてもっと好きになっちゃいました♡」
「えへへ。照れちゃうなあ」
ほんと照れちゃう。足はめちゃくちゃに痛いけど。
「カイト。ちょっと話をしたいんだけど」
「私も」
「……ごめんねメイちゃん。一旦席を外してもいいかな」
「あ、なら私が出て行きます。返事はまた今度でいいので、考えといてください。今日はありがとうございました。これからよろしくお願いしますね、カイトさん♡」
「こちらこそ。よろしくね、メイちゃん♡」
……で。
「カイト?まさか受け入れる気じゃないでしょうね」
「カイトくん?いくらクズでも限度はあるよ?」
「……それはそれとして、いい子だったよね。メイちゃん」
「それはそうね」
「育ちがいいらしいよ。多分純粋なのかな」
「一緒に生活したら楽しいタイプだと思わない?」
「「……」」
その目はやめて欲しい。すごく自分が情けなく感じるから。
「俺がいうのもあれだけどさ、二人も三人も変わらないじゃん?」
「本当にカイトが言っちゃダメなんだけど」
「ねえカイトくん」
「……なんでしょう」
変に笑顔で怖いんですけど。
「約束して欲しいことがあるんだけど?」
「内容によるけど」
「最終的に、私かユイちゃんかのどちらかにすること。メイちゃんを選んだら、死を覚悟すること。これだけ約束してもらえたら、一緒に住んでもいいよ」
……やべ、思ったより覚悟決めてる。リナの目が全然冗談を言ってる目じゃない。……まあ先のことはなんとかなるか。
「わかった。約束する」
「言ったわね、カイト」
「言ったよ、ユイ」
「……どうせ断らないんでしょ。好きにしたらいいじゃない」
「ありがとう!ユイ。リナも」
「私は全然。カイトくんがちゃんと私のことを選んでくれるって信じてるしね」
……この先のことはあんまり考えられないけど、とりあえず束の間の幸福に浸ろう。少なくとも今の俺は、宇宙一幸運な人間だろうし。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。すごく半端だと思われるかもしれませんが、これからも増え続けていくぞ、っていう雰囲気を出しつつ一旦終わらせたかったんです。
次が後書きで、その次EXエピソードです。本物の蛇足ですが、よかったら。




