序 星の降るような秋夜の空
誰もが心に持つ、心象風景。
それは日々を過ごす中で、更新されていくものなのだろう。
今の僕にとってのそれは、少し前の記憶になる。
少々荒れていた中3の秋。
例に漏れず、僕も反抗期真っ只中だった訳だが、それが向かう先は親ではなく、僕を取り巻く世界だった。僕はそんな世界に対して、傲慢でささやかな反抗心を抱いていたのだ。
そんなある日、親父に山キャンプへ連れ出された。
反抗の対象が親ではなかったため、両親ともに多少口は利いていたが、返事は愛想のないものばかり。
親父も元々愛想のいい人間ではなかったため、車での移動中は終始会話が生まれることはなかった。
長い移動時間の末、ようやく辿り着いたキャンプ場。意外と手際よく設営を行う親父に驚かされたものだ。
しかし、山キャンプと言っても、特別何かをしたわけではない。
スマホの電波が入らない場所で、焚き火を囲み、カップ麺を食べながら、他愛のない話をポツポツと交わす程度。
こんなことに意味があるのか、と思っていたが、ネットから隔離された、何もしない時間が心地よかった。
今思えば、あの時の僕に、1番必要な時間だったのだろう。
その夜、親父が急にテントの灯りを消し、僕に外に出るよう促した。
薄い布切れ1枚をめくると、そこには満天の星空が広がっていた。
──────ただ圧倒された。
時間を忘れ、言葉もなく、ただ空を眺めていた。
流れる星と共に、僕の頬を涙がつたっていたのを覚えている。
あの時、僕の小さな反抗は終わったのだと思う。
あの夜は、まるで星が降るような夜空だった。
そう言えば星が降る、というのは英語だとなんというのだろうか。
スターフォールン、これではまるで隕石のようだ。
あまりに物騒だ。
あの日の想いに添えるのであれば、『スターレイン』と言ったところだろうか。
我ながら凡庸な並びだ。
いずれは他の思い出に塗り替えられるのであろう、ありふれた心象風景。
例えば、帰宅部に入った夏のできごと。
例えば、それより前の3人で過ごした1年間。
例えば、これから描いていくのであろう明日。
大人になった時、僕の心に残るであろう大事な日々。
それと比べれば、やはりあの秋の宵空は大きく劣る。
──────それでも今はまだ、凡庸な秋夜の風景が、星降る夜空が、僕の中に輝いている。




