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ドリームライド〜異世界創造、夢の旅〜  作者: 神谷 夢


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第33話 白き世界の始まり

第33話 白き世界の始まり


次にドリームワールドへ来た朝。


カイはガルドのもとへ向かった。


リヴェル村には、少しずつ日常が戻り始めていた。


倒れた木々は片づけられ、壊れた家々には新しい木材が運び込まれている。


それでも。


ライルの襲撃によって残された傷跡は、まだ消えていない。


カイは、あの戦いを思い出していた。


LEVEL35。


圧倒的な力。


仲間たちと力を合わせても、まるで歯が立たなかった。


そして昨日。


LEVEL20の魔物を単独で倒し、LEVEL16に到達した。


だが。


まだ足りない。


「ガルド!」


村の外れ。


木剣を手にしていたガルドが振り返った。


「カイか」


「今日、修練をお願いしたいんだ!」


ガルドが眉を上げる。


「身体はもう大丈夫なのか?」


「うん! レベルアップで傷も治ったから!」


ガルドはカイを見つめた。


そして、静かに頷いた。


「分かった。だが、甘くはないぞ」


「望むところ!」


カイは笑った。


だが。


その数分後。


自分の言葉を少し後悔することになった。


◇


ゴッ!


「いったぁっ!」


木剣がカイの肩を打った。


「遅い!」


ガルドの声が響く。


カイは慌てて構え直した。


しかし。


ヒュッ!


次の一撃。


ゴッ!


「ぐっ!」


今度は脇腹。


身体が横へ流れる。


「構えが崩れている!」


「分かってる!」


「なら直せ!」


ガルドが踏み込む。


速い。


《予測》。


右からの横薙ぎ。


見えた。


カイは身体を沈める。


しかし。


ゴッ!


「痛っ!」


また当たった。


「……何で!?」


ガルドが木剣を下ろした。


「カイ。攻撃は読めているな?」


「うん。でも身体が間に合わない」


「それもある。だが、お前は見えてから動こうとしている」


「……え?」


「相手がどう動くか分かるなら、攻撃が来るのを待つ必要はない」


カイは目を見開いた。


「……あっ!」


確かに。


《予測》で相手の動きを読むことはできる。


しかし、攻撃が始まるのを待ってから避けようとしていた。


「それと、避けるだけで終わるな」


ガルドが続ける。


「相手が攻撃した後は、こちらが攻撃する機会でもある」


「……なるほど!」


「もう一度だ」


カイは木剣を構えた。


ガルドが踏み込む。


《予測》。


右からの攻撃。


カイは先に重心を移す。


ヒュッ!


避けた。


そして。


「はぁっ!」


反撃。


しかし。


カンッ!


ガルドに受け止められる。


次の瞬間。


ゴッ!


「ぐあっ!」


カイは地面に転がった。


「……強すぎるって!」


ガルドが笑う。


「お前が強くなりたいと言ったのだろう」


「……そうだけど!」


カイは立ち上がった。


その時。


ふと、思い出した。


「……そうだ。SP!」


カイはSTATUSを開いた。


――――――――――


《STATUS》


神谷 海


LEVEL:16


HP:170 / 170


MP:142 / 142


筋力:30


体力:29


敏捷:33


器用:32


知力:31


感知:34


精神:32


未使用SP:3


――――――――――


「……筋力と敏捷」


昨日の戦いでも感じたこと。


攻撃を読めても、身体が追いつかない。


剣を当てても、十分な傷を与えられない。


なら。


「筋力に1、敏捷に2……!」


――――――――――


《SP ALLOCATION》


筋力:30 → 31


敏捷:33 → 35


消費SP:3


残りSP:0


《振り分けを確定しますか?》


YES / NO


――――――――――


「YES!」


淡い光が身体を包んだ。


腕。


肩。


脚。


身体の奥から、温かい力が広がっていく。


カイは拳を握った。


「……おお!」


指先に力が入る。


軽く地面を蹴ると、身体が以前より素早く前へ出た。


「すごい……!」


ガルドが興味深そうに見つめる。


「何か変わったのか?」


「うん! ちょっと試してみたい!」


カイは木剣を構えた。


「もう一回!」


ガルドが頷く。


「ああ。来い」


再び。


ガルドの木剣が振られる。


《予測》。


右からの横薙ぎ。


カイは先に動いた。


ヒュッ!


避ける。


次の一撃。


身体を沈める。


さらに。


踏み込む。


「はぁっ!」


カンッ!


木剣が交差した。


先ほどよりも、明らかに強い手応え。


ガルドの目が僅かに細くなる。


「……ほう」


カイは攻撃を止めない。


一撃。


二撃。


三撃。


何度も木剣を交える。


ガルドが攻める。


カイが避ける。


そして、反撃する。


だが。


まだ甘い。


踏み込みが深すぎれば、体勢を崩される。


反撃を急げば、剣を弾かれる。


《予測》に頼りすぎれば、別の攻撃に対応できない。


何度も倒された。


何度も立ち上がった。


それでも、カイの動きは少しずつ変わっていった。


無駄な足運びが減る。


剣を振るまでの動作が短くなる。


相手の攻撃を避けながら、次の反撃へつなげる。


そして。


最後の模擬戦。


ガルドが木剣を振り下ろす。


《予測》。


カイは横へ滑る。


そのまま身体を回転させ、木剣を振り抜いた。


カンッ!


ガルドが受け止める。


しかし。


カイはすぐに次の攻撃へつなげた。


ガルドの木剣が動く。


それよりも先に、カイは身を引く。


そして、再び踏み込んだ。


「……ここ!」


木剣が、ガルドの胸元へ迫る。


だが。


寸前で止められた。


「……惜しい!」


カイが悔しそうに笑った。


ガルドが頷く。


「悪くない」


その瞬間。


視界に青白い文字が浮かんだ。


――――――――――


《SKILL LEVEL UP》


《剣術 Lv.3 → Lv.4》


《体術 Lv.3 → Lv.4》


《予測 Lv.3 → Lv.4》


――――――――――


「……おおっ!!」


カイが声を上げた。


「三つも上がった!」


ガルドが小さく笑う。


「修練の成果だな」


カイは嬉しそうに頷いた。


「うん!」


「だが、忘れるな」


「何?」


「身体能力も技術も、それをどう使うかが重要だ」


カイは真剣な表情になる。


「LEVELだけが高くても、戦い方を知らなければ負けることはある」


「……うん!」


「逆に、相手の弱点を見抜き、適切に戦えば、格上にも勝機はある」


カイは木剣を握り直した。


今なら。


昨日よりも上手く戦える気がする。


「ありがとう、ガルド!」


ガルドが頷いた。


「次は実戦で確かめてこい」


「うん!」


◇


次の冒険。


カイはリヴェル村の北に広がる森へ向かった。


目標は。


《LEVEL UP QUEST》。


――――――――――


《LEVEL UP QUEST》


【QUEST 02】


達成条件:


LEVEL22以上の魔物を1体、 単独で討伐する。


※他者からの援護不可


達成報酬:LEVEL+1


進行状況:0 / 1


――――――――――


「……よし」


カイは森の奥へ進んだ。


やがて、大きな岩場に一体の魔物を発見した。


灰色の身体。


鋭く曲がった角。


厚い鱗。


《鑑定》。


――――――――――


種族:ロックリザード


LEVEL:22


――――――――――


「……いた」


カイは《ラグナリス》を抜いた。


ロックリザードがこちらを向く。


「グルルル……」


《予測 Lv.4》。


次の動き。


尻尾。


前脚。


頭の向き。


そして、その後の攻撃。


「……見える」


ロックリザードが突進する。


カイは先に身体を移動させた。


ヒュッ!


巨大な身体が横を通過する。


さらに、尻尾が迫る。


だが、カイはすでにその軌道から外れていた。


「……よし!」


《体術 Lv.4》。


無駄のない足運び。


滑らかな重心移動。


そして。


《剣術 Lv.4》。


カイが踏み込む。


「はぁっ!」


《ラグナリス》が魔物の前脚を斬りつけた。


ザシュッ!


「グギャァッ!」


魔物が吠える。


カイはすぐに距離を取った。


だが。


ロックリザードは地面を蹴り、予想以上の速さで方向を変えた。


「……っ!」


《予測》。


間に合わない。


ドゴッ!


太い尻尾が脇腹を打った。


「がはっ!」


カイの身体が岩場へ叩きつけられる。


激痛。


呼吸が乱れる。


「……くそっ!」


立ち上がろうとするが、脚に力が入らない。


ロックリザードが近づいてくる。


カイは《光魔法》を放った。


眩しい光。


魔物が頭を背ける。


その隙に、岩陰へ飛び込んだ。


荒い呼吸。


震える手。


「……駄目だ」


攻撃は読めていた。


だが。


相手の全てを理解できていたわけではない。


「……今日は、引こう」


カイは魔物の気配が遠ざかるのを確認し、慎重に森を離れた。


◇


リヴェル村へ戻ったカイを見て、リシアが顔色を変えた。


「カイ!?」


「……ただいま」


「その怪我、どうしたの!」


「ちょっと……失敗した」


リシアはすぐに傷の状態を確かめた。


ナタリーも駆け寄る。


「また無茶をしたのか!」


「……ごめん」


ガルドは黙ってカイを見ていた。


そして、静かに尋ねた。


「何が足りなかった?」


カイは少し考えた。


「……動きは読めてた。でも、相手が急に方向を変えてきて……」


「なるほど」


ガルドが頷いた。


「《予測》は万能ではない。相手がどう動くかだけでなく、どう動けるかを考えろ」


「……どう動けるか?」


「ああ。四本脚の魔物なら、足の位置や地形によって動ける方向も変わる」


カイは目を見開いた。


「……そっか!」


「それに、逃げる判断は間違っていない」


「……え?」


「死ねば次はない。失敗から学べるなら、それも成長だ」


カイはしばらく黙っていた。


そして、小さく頷いた。


「……うん!」


◇


傷が回復したカイは、再びロックリザードに挑んだ。


前回と同じ岩場。


相手の特徴は、すでに理解している。


《予測》だけに頼らない。


足の位置。


身体の向き。


地形。


全てを確認する。


カイは《強化長弓》を構えた。


「……今度こそ!」


一本目の矢。


魔物の目の横へ。


二本目。


前脚の付け根へ。


ロックリザードが怒り、突進する。


しかし。


カイは真正面から受けない。


岩を利用して軌道を変えさせる。


《予測》。


《体術》。


そして。


《ラグナリス》。


斬る。


離れる。


回り込む。


何度も攻撃を重ねた。


最後は、炎をまとわせた矢が傷口へ突き刺さった。


「グギャァァァッ!!」


巨体が崩れ落ちる。


カイは荒い息を吐いた。


「……勝った」


視界に文字が浮かんだ。


――――――――――


《LEVEL UP QUEST》


【QUEST 02】


《QUEST CLEAR》


達成報酬:LEVEL+1


――――――――――


《LEVEL UP》


LEVEL 16 → 17


最大HP:170 → 200


最大MP:142 → 172


全ステータス:+1


SP:+3


《HP・MP全回復》


――――――――――


さらに。


新しい文字が浮かぶ。


――――――――――


《SKILL LEVEL UP》


《剣術 Lv.4 → Lv.5》


――――――――――


「……おおっ!」


カイは拳を握った。


ガルドとの修練。


SPによる身体能力の強化。


そして、スキルレベルの上昇。


その全てが、今日の勝利につながった。


「……もっと強くなれる!」


カイはSTATUSを開いた。


未使用SP:3。


筋力。


敏捷。


その二つがどれほど重要かを実感した。


「……よし」


――――――――――


《SP ALLOCATION》


筋力:32 → 34


敏捷:36 → 37


消費SP:3


残りSP:0


《ALLOCATION COMPLETE》


――――――――――


カイは《ラグナリス》を握り直した。


剣を振る。


ヒュッ!


鋭い風切り音。


以前よりも、明らかに力強い。


そして、踏み込む。


地面を蹴る力が、そのまま速度へ変わる。


「……いい感じ!」


その時。


新しいクエストが表示された。


――――――――――


《LEVEL UP QUEST》


【QUEST 03】


達成条件:


LEVEL20以上の魔物を2体、 連続で単独討伐する。


※他者からの援護不可


※討伐間の休息・回復不可


達成報酬:LEVEL+1


進行状況:0 / 2


――――――――――


「……あれ?」


カイは首を傾げた。


「今度はLEVEL20?」


前回よりも、対象レベルが下がっている。


だが。


条件を読み直す。


二体。


連続討伐。


休息も回復もできない。


「……そういうことか」


一体を倒す力。


それだけでは足りない。


戦い続ける力。


体力。


魔力。


集中力。


その全てが試される。


カイは小さく笑った。


「……やってやる!」


◇


それから、カイはクエストに挑み続けた。


QUEST 03。


LEVEL20以上の魔物を二体連続で討伐する試練。


最初の挑戦では、一体目を倒したものの、二体目との戦いで魔力を使い切り、撤退した。


二度目。


魔力を温存しすぎた結果、最初の魔物に深手を負わされてしまった。


村へ戻るたびに、ナタリーやリシアに心配された。


レオンには、戦闘中の足運びを何度も見てもらった。


そして、ガルドからも助言を受けた。


「全ての敵に、全力を出す必要はない」


その言葉を胸に、三度目の挑戦へ向かった。


一体目。


弓と剣を中心に戦う。


《予測》で攻撃をかわし、《ラグナリス》で急所を狙う。


魔法は使わない。


二体目。


残った魔力を使い、《光魔法》で隙を作る。


相手の動きが止まった瞬間。


カイは一気に踏み込んだ。


「はぁっ!」


《ラグナリス》。


鋭い斬撃。


魔物が倒れた。


――――――――――


《QUEST 03 CLEAR》


LEVEL 17 → 18


最大HP:200 → 230


最大MP:172 → 202


全ステータス:+1


SP:+3


《HP・MP全回復》


――――――――――


《SKILL LEVEL UP》


《予測 Lv.4 → Lv.5》


――――――――――


「……よし!」


カイは拳を握った。


さらに、獲得したSPを振り分ける。


――――――――――


《SP ALLOCATION》


筋力:35 → 37


敏捷:38 → 39


消費SP:3


残りSP:0


《ALLOCATION COMPLETE》


――――――――――


「……これで十八!」


カイは大きく息を吐いた。


最大HPは230。


最大MPは202。


身体能力だけでなく、魔法を使える余裕も増えている。


そして。


《予測 Lv.5》。


これまでよりも、相手の動きを捉えやすくなった。


「……次だ!」


◇


QUEST 04。


今度は、LEVEL21以上の魔物を三体連続で単独討伐する試練だった。


最初の挑戦。


二体目までは倒せた。


しかし、三体目の攻撃を避けきれず、撤退。


二度目。


一体目で魔法を使いすぎ、最後まで戦い抜くことができなかった。


再びリヴェル村へ戻ったカイは、ガルドへ相談した。


「どうしても、最後まで体力がもたないんだ」


ガルドは少し考えた。


「お前は、全ての敵に同じ戦い方をしていないか?」


「……え?」


「敵によって、得意な攻撃も弱点も違う。なら、こちらの戦い方も変えるべきだ」


カイは目を丸くした。


「……確かに!」


「剣だけで倒せる相手に、わざわざ魔法を使う必要はない」


「……そっか!」


ガルドが頷いた。


「力を使うべき時と、温存すべき時を考えろ」


カイは拳を握った。


「……ありがとう!」


そして。


三度目の挑戦。


一体目。


《強化長弓》で動きを制限し、《ラグナリス》で討伐。


二体目。


《予測 Lv.5》を中心に、無駄な動きを減らしながら戦う。


三体目。


温存していた魔力を使い、《光魔法》と《炎魔法》を組み合わせる。


しかし。


最後の魔物は、簡単には倒れなかった。


カイは傷を負いながらも、攻撃を重ねた。


一撃。


二撃。


三撃。


そして。


最後の斬撃。


「はぁぁっ!!」


ザシュッ!!


魔物が倒れた。


――――――――――


《QUEST 04 CLEAR》


LEVEL 18 → 19


最大HP:230 → 260


最大MP:202 → 232


全ステータス:+1


SP:+3


《HP・MP全回復》


――――――――――


《SKILL LEVEL UP》


《体術 Lv.4 → Lv.5》


《炎魔法 Lv.2 → Lv.3》


――――――――――


「……やった!」


カイはその場に座り込んだ。


長い戦いだった。


何度も失敗した。


何度も怪我をした。


それでも。


諦めずに挑戦を続けた。


その結果。


LEVEL19。


ついに、ここまで来た。


カイは獲得したSPを振り分けた。


――――――――――


《SP ALLOCATION》


筋力:38 → 40


敏捷:40 → 41


消費SP:3


残りSP:0


《ALLOCATION COMPLETE》


――――――――――


「……筋力40」


カイは自分の拳を見た。


以前とは明らかに違う。


剣を振る力。


踏み込む速さ。


攻撃を避ける時の反応。


その一つ一つが、確実に成長していた。


だが。


まだ終わりではない。


LEVEL20。


あと一つ。


カイは新しいクエストを開いた。


――――――――――


《LEVEL UP QUEST》


【QUEST 05】


達成条件:


LEVEL22以上の魔物を3体、 連続で単独討伐する。


※他者からの援護不可


※討伐間の休息・回復不可


制限時間:なし


達成報酬:LEVEL+1


進行状況:0 / 3


――――――――――


「……LEVEL22を三体」


一体なら、すでに倒したことがある。


だが。


三体連続。


しかも、休むことも回復することもできない。


「……今までで一番きつそうだな」


カイは静かに息を吐いた。


その時。


レオンが声をかけてきた。


「またクエストか?」


「うん。次でLEVEL20なんだ」


「二十!?」


レオンが目を丸くする。


「お前、どこまで強くなるつもりだよ!」


カイは笑った。


「まだまだだよ」


「……そうか?」


「うん。ライルはLEVEL35だから」


レオンの表情が変わった。


「……あいつか」


「うん」


カイは拳を握った。


「あの時は、何もできなかった」


ライルとの戦い。


圧倒的な力。


倒れた仲間たち。


あの悔しさは、今でも忘れていない。


「次は、あんな思いをしたくないんだ」


レオンが静かに頷いた。


「……そうだな」


そして。


カイの肩を軽く叩いた。


「絶対に帰ってこいよ」


カイは笑った。


「もちろん!」


◇


カイは、リヴェル村から離れた森のさらに奥へ向かった。


事前に調べていた場所。


そこには、LEVEL22前後の魔物が複数生息しているという。


谷へ続く道。


折れた木々。


岩に残された巨大な爪痕。


「……ここか」


カイは《鑑定》を使いながら進んだ。


そして。


一体目を発見した。


――――――――――


種族:ロックリザード


LEVEL:22


――――――――――


「……まずは一体目」


以前にも戦った相手。


特徴は理解している。


カイは《強化長弓》を構えた。


矢をつがえる。


《予測 Lv.5》。


魔物の動きを読む。


ヒュッ!


矢が飛ぶ。


前脚の付け根へ。


ドスッ!


「グギャァッ!」


ロックリザードが振り返る。


突進。


カイは横へ滑る。


《体術 Lv.5》。


無駄のない動き。


さらに。


尻尾。


その軌道を読んで、先に距離を取る。


「……ここ!」


《ラグナリス》。


前脚へ斬撃。


ザシュッ!


「グギャァァッ!!」


魔物がよろめく。


カイは追撃する。


筋力40。


以前よりも、明らかに強い一撃。


剣が鱗の隙間へ深く入る。


そして。


最後の斬撃。


ロックリザードが崩れ落ちた。


――――――――――


《QUEST 05》


進行状況:1 / 3


――――――――――


「……よし」


カイは剣を握り直した。


魔法は、ほとんど使っていない。


HPも十分残っている。


次へ。


◇


二体目。


岩場の奥に、一体の魔物がいた。


灰色の毛並み。


鋭い牙。


大きな身体。


《鑑定》。


――――――――――


種族:アイアンウルフ


LEVEL:22


――――――――――


「……狼か」


アイアンウルフが低く唸る。


次の瞬間。


一気に飛びかかってきた。


「速っ!」


カイは横へ跳んだ。


しかし。


魔物は着地と同時に方向を変え、再び襲いかかる。


《予測 Lv.5》。


右。


左。


そして正面。


連続攻撃。


カイは身体を低くし、牙をかわす。


だが。


爪が腕を掠めた。


ザシュッ!


「ぐっ!」


血が飛ぶ。


それでも、止まらない。


《ラグナリス》。


魔物の側面へ斬りつける。


「ギャウッ!」


傷は入った。


しかし浅い。


アイアンウルフが距離を取る。


カイは呼吸を整えた。


「……速さなら」


敏捷41。


これまでSPを振り分けてきた能力。


その成果を、今こそ使う。


カイは地面を蹴った。


一歩。


二歩。


急加速。


魔物の横へ回り込む。


「はぁっ!」


《ラグナリス》。


首元へ。


ザシュッ!


「ギャウウッ!」


アイアンウルフがよろめく。


さらに。


《光魔法》。


眩しい光。


魔物が目を閉じる。


その隙に、カイは剣を振り下ろした。


ドスッ!


アイアンウルフが倒れた。


――――――――――


《QUEST 05》


進行状況:2 / 3


――――――――――


「……あと一体」


カイは荒い息を吐いた。


腕の傷が痛む。


脚も重い。


魔力も減っている。


だが。


まだ動ける。


ここで回復したい。


しかし。


討伐間の休息も回復も認められていない。


カイは《治癒》を使わずに、剣を握り直した。


「……あと一体!」


◇


谷のさらに奥。


三体目の魔物は、巨大な岩壁の前にいた。


黒い鱗。


四本の脚。


背中には鋭い突起。


長く伸びた尾。


ドラゴンにも似た姿。


カイは息を呑んだ。


《鑑定》。


――――――――――


種族:グランドドレイク


LEVEL:22


属性:土


――――――――――


「……いた」


グランドドレイクが、ゆっくりと頭を上げる。


巨大な瞳。


鋭い牙。


その視線が、カイを捉えた。


「グルルルル……」


低い唸り声。


大地が震えるほどの威圧感。


カイの背筋に、冷たいものが走った。


「……強そうだな」


LEVEL22。


数字だけなら、すでに倒したことのある相手だ。


しかし。


魔物によって、強さの特徴は違う。


しかも今は。


二体を連続で倒した後。


体力も魔力も、十分ではない。


「……いくぞ!」


カイが駆け出した。


◇


最初に仕掛けたのは、弓だった。


《強化長弓》。


一本の矢。


狙うのは首元。


《予測 Lv.5》。


頭が動く方向を読む。


ヒュッ!


矢が飛ぶ。


しかし。


ガキンッ!


黒い鱗に弾かれた。


「……硬い!」


グランドドレイクが吠える。


「グオォォォッ!!」


次の瞬間。


巨大な前脚が地面を叩いた。


ドォォンッ!!


衝撃。


地面が砕け、岩片が飛び散る。


カイは横へ跳ぶ。


「うわっ!」


危なかった。


一瞬でも遅れていたら、直撃していた。


《予測》。


次の攻撃。


右。


いや。


左。


尾だ。


「っ!」


カイは身体を低くした。


巨大な尾が頭上を通過する。


岩が砕ける。


バキバキッ!


「……すごい威力だ」


カイは距離を取った。


正面からの攻撃は危険。


なら。


側面。


《ラグナリス》。


一気に踏み込む。


「はぁっ!」


斬撃。


しかし、刃は鱗に阻まれる。


「……っ!」


そこへ前脚が迫った。


避ける。


だが。


爪の先端が肩を掠めた。


ザシュッ!


「ぐっ!」


血が飛ぶ。


カイは後ろへ跳んだ。


肩を押さえる。


「……強い」


攻撃が重い。


鱗も硬い。


何より。


二体を倒した疲労が、少しずつ身体に現れ始めていた。


「……どうする」


カイは周囲を見回した。


ガルドの言葉を思い出す。


――相手を動かせ。


――攻撃する場所へ誘導しろ。


そして。


――力を使うべき時を考えろ。


「……そうだ」


カイは《光魔法》を発動した。


眩しい光。


グランドドレイクが、一瞬目を閉じる。


その隙に、カイは左側へ回り込んだ。


《炎魔法 Lv.3》。


炎が燃え上がる。


以前よりも、明らかに強い熱。


ゴォッ!


「グオォォッ!」


グランドドレイクが頭を振る。


だが。


鱗の表面が焦げただけだった。


「……効いてない?」


カイは歯を食いしばった。


炎魔法は強くなった。


しかし、消費するMPも大きい。


今の魔力で、何度も放てるわけではない。


そして。


グランドドレイクが身体を沈めた。


「……来る!」


突進。


巨大な身体が、一直線に迫る。


カイは横へ避けた。


しかし。


魔物が地面を蹴り、方向を変えた。


「えっ!?」


速い。


予想よりも速い。


巨体が目前に迫る。


ドゴォッ!!


「ぐあっ!!」


カイの身体が宙を舞った。


背中から岩場へ叩きつけられる。


「がはっ……!」


視界が揺れる。


息ができない。


胸が痛い。


右腕が痺れている。


カイは地面に手をついた。


「……くそっ」


グランドドレイクが、ゆっくりと近づいてくる。


大きな足音。


一歩。


また一歩。


カイは立ち上がろうとした。


しかし、膝が崩れた。


「……っ!」


身体が言うことを聞かない。


《治癒》を使いたい。


だが。


魔物が近づいている。


魔法を発動するために意識を集中させる余裕がない。


カイは歯を食いしばった。


「……駄目だ」


一度退くべきか。


そんな考えが頭をよぎる。


しかし。


魔物はすでに目前まで迫っていた。


逃げるにも、隙を作らなければならない。


その時。


カイの脳裏に、ガルドとの修練が浮かんだ。


何度も倒されたこと。


見えていても、避けられなかったこと。


SPを使って、身体能力を強化したこと。


そして。


何度も繰り返した言葉。


――身体能力が上がっても、それを使いこなせなければ同じだ。


「……そうだ」


カイは静かに息を吸った。


必要なのは。


もっと強い魔法ではない。


もっと大きな攻撃でもない。


今ある力を、正しく使うこと。


カイは立ち上がった。


「……まだ、終わってない!」


◇


グランドドレイクが、巨大な口を開いた。


《予測 Lv.5》。


次の攻撃。


噛みつき。


その後。


右前脚。


そして。


尾。


三つの動きが浮かぶ。


「……見える」


だが、今度は避けるだけではない。


カイは自分から前へ踏み込んだ。


魔物の頭が下がる。


牙が迫る。


その瞬間。


カイは横へ滑り込んだ。


ヒュッ!


牙が空を切る。


続く前脚。


その動きも、すでに読んでいる。


《体術 Lv.5》。


無駄のない動き。


足元へ飛び込む。


「ここ!」


《ラグナリス》。


前脚の内側。


鱗が薄くなる部分。


斬る。


ザシュッ!


「グオォォッ!!」


初めて、明確な傷が入った。


「……効いた!」


筋力40。


これまでSPを振り分けてきた成果。


硬い鱗の隙間を、以前より深く斬り裂くことができた。


だが。


グランドドレイクが暴れる。


巨大な尾が迫る。


カイは身体を沈めた。


避ける。


そして、そのまま回り込む。


《光魔法》。


光が魔物の視界を奪う。


さらに。


《炎魔法》。


狙うのは、先ほどの傷口。


ゴォォッ!!


「グギャァァァッ!」


炎が鱗の内側へ入り込む。


魔物が大きく身体を反らした。


カイは距離を取る。


「……よし!」


だが。


まだ倒れない。


グランドドレイクが怒りに任せて突進してくる。


地面が砕ける。


岩が転がる。


カイは走りながら、周囲を見た。


谷。


大きな岩壁。


その手前に、狭い通路がある。


「……あそこなら」


カイは走った。


グランドドレイクが追いかける。


《予測 Lv.5》。


突進の軌道。


速度。


距離。


全てを計算する。


「……まだ」


近づく。


十歩。


八歩。


六歩。


「……まだ!」


四歩。


三歩。


カイは一気に横へ跳んだ。


ドゴォォォンッ!!


グランドドレイクが岩壁に激突した。


巨体が揺れる。


岩が崩れ落ちる。


魔物の頭が、大きく下がった。


「今だ!」


カイは《強化長弓》を構えた。


矢をつがえる。


《予測》。


頭の動き。


首。


傷口。


狙いを定める。


だが。


手が震えた。


肩の痛み。


腕の痺れ。


集中が乱れる。


「……くっ」


カイは一度、弓を下ろしかけた。


その時。


レオンとの修練を思い出した。


――速く動くだけじゃ駄目なんだ。


――タイミングが大切なんだよ。


カイは深く息を吸った。


焦るな。


今まで、何度も弓を引いてきた。


何度も失敗した。


何度も練習した。


その全てを。


今。


使う。


「……よし」


息を吐く。


弦を引く。


矢の先端に、炎が灯る。


《炎魔法 Lv.3》。


強い炎。


だが、残りのMPは少ない。


これが最後の大きな攻撃になる。


さらに。


《予測》。


魔物が顔を上げる瞬間。


傷口が正面を向く。


その一瞬。


「……そこだ!」


ヒュッ――!!


炎をまとった矢が、一直線に飛んだ。


ドスッ!!


首の傷口へ。


深く、突き刺さる。


次の瞬間。


ゴォォォッ!!


炎が傷口から広がった。


「グオォォォォッ!!」


グランドドレイクが大きく吠える。


身体を振る。


前脚を踏み出す。


だが。


力が入らない。


一歩。


二歩。


そして。


ドォォォンッ!!


巨体が地面へ崩れ落ちた。


土煙が舞い上がる。


カイは弓を下ろした。


「はぁっ……はぁっ……」


呼吸が荒い。


肩が痛い。


脚が震えている。


それでも、魔物から目を離さない。


一秒。


二秒。


三秒。


動かない。


そして。


視界に、青白い文字が浮かんだ。


――――――――――


《LEVEL UP QUEST》


【QUEST 05】


達成条件:


LEVEL22以上の魔物を3体、 連続で単独討伐する。


進行状況:3 / 3


《QUEST CLEAR》


達成報酬:LEVEL+1


――――――――――


「……やった」


カイは小さく呟いた。


次の瞬間。


新しい表示が現れる。


――――――――――


《LEVEL UP》


LEVEL 19 → 20


最大HP:260 → 290


最大MP:232 → 262


全ステータス:+1


SP:+3


《HP・MP全回復》


――――――――――


淡い光が身体を包んだ。


傷が塞がっていく。


身体に力が戻る。


さらに。


――――――――――


《SKILL LEVEL UP》


《弓術 Lv.4 → Lv.5》


《光魔法 Lv.2 → Lv.3》


――――――――――


「……二十」


カイは拳を握った。


LEVEL20。


ついに、到達した。


ガルドとの修練。


何度も失敗したクエスト。


SPによる能力強化。


そして。


数々の戦闘で磨かれたスキル。


全てが、今の自分につながっている。


「……やった!」


カイは笑った。


その時だった。


◇


ふと。


周囲が暗くなった。


「……え?」


カイは顔を上げた。


さっきまで、空には太陽が輝いていた。


それなのに。


青空が、少しずつ色を失っていく。


灰色。


そして。


さらに深い灰色へ。


雲が広がる。


だが、普通の雨雲とは違う。


空そのものが、塗り替えられているようだった。


「……何だ、これ」


カイは周囲を見回した。


風が止まっている。


鳥の声も聞こえない。


森が、静まり返っていた。


地面は揺れていない。


以前のWORLD PHASEで起きたような地震もない。


ただ。


空だけが、ゆっくりと暗くなっていく。


その時。


視界に文字が浮かんだ。


――――――――――


《WORLD SYSTEM》


LEVEL20到達を確認。


《WORLD PHASE 5》


解放条件達成。


世界環境の更新を開始します。


――――――――――


「……WORLD PHASE?」


カイの目が大きくなる。


これまで。


LEVELが一定の段階に達するたびに、世界は変化してきた。


大地。


海。


火ノ島。


地震。


光と闇。


そして。


今。


また新しい変化が起ころうとしている。


「……今度は何が」


その瞬間。


冷たいものが、頬に触れた。


「……ん?」


カイは指で触れた。


水。


いや。


違う。


空から、白いものがゆっくりと落ちてくる。


一つ。


二つ。


三つ。


「……雪?」


カイは呟いた。


白い粒が、地面へ落ちる。


木の葉へ。


岩へ。


草の上へ。


次々に。


雪が降り始めた。


「……嘘だろ」


カイは空を見上げた。


雲はさらに厚くなる。


風が冷たくなっていく。


つい先ほどまで、暖かかった森。


それが、急速に冷え始めていた。


「……どうして?」


カイはSTATUSを開いた。


しかし。


新しい表示はない。


先ほどの《WORLD PHASE 5》という文字も、すでに消えていた。


「……関係あるのかな」


LEVEL20。


WORLD PHASE 5。


そして、突然降り始めた雪。


偶然とは思えない。


だが。


何が起きたのか。


なぜ雪が降り始めたのか。


カイにも、分からなかった。


「……戻らなきゃ」


カイは走り出した。


◇


リヴェル村。


カイが戻る頃には、村の景色が一変していた。


屋根には白いものが積もり始め、地面には薄い白の絨毯が広がっている。


村人たちは、慌ただしく薪や食料を運び込んでいた。


普段は穏やかに流れる川にも、冷たい風が吹きつけている。


カイが村の広場へ向かうと、ナタリーたちが集まっていた。


「カイ!」


ナタリーが駆け寄ってくる。


「無事だったか!」


「うん! クエストも達成できた!」


「そうか!」


ナタリーは安堵したように息を吐いた。


その後ろで、レオンが空から落ちてくる白い粒を手のひらで受け止めていた。


「なあ、カイ」


「何?」


「これ、何なんだ?」


レオンが手のひらを見せる。


白い粒は、すぐに水へ変わった。


「ああ、雪だよ」


「……ユキ?」


レオンが首を傾げた。


リシアも不思議そうにカイを見る。


「知っているの?」


「うん。俺のいた場所では、寒くなると降ることがあるんだ」


「……そうなの?」


リシアは、もう一度空を見上げた。


「綺麗だけど、すごく冷たいね」


カイは頷いた。


「うん。積もると大変なんだよ」


「積もる?」


「そう。ずっと降り続けると、地面が真っ白になるんだ」


レオンが足元を見る。


「……もうなり始めてるぞ」


「ほんとだ……」


ガルドが近づいてきた。


「カイ。森でも同じものが降っていたのか?」


「うん。急に空が暗くなって、降り始めたんだ」


ロウガが空を見上げた。


「ここから離れた森でも同時に起きたのか」


「ああ」


ガルドが頷く。


「かなり広い範囲で、気候が変わっているのかもしれんな」


カイは黙って空を見つめた。


雪。


現実世界では、珍しくないもの。


けれど。


この世界では、仲間たちも戸惑っている。


そして。


脳裏には、先ほどの文字が残っていた。


《WORLD PHASE 5》。


レベルが上がった直後に現れた表示。


その直後に降り始めた雪。


何か関係があるのだろうか。


だが。


それを確かめる方法はない。


ナタリーが口を開いた。


「セルドのところへ行こう。村の様子も気になる」


カイは頷いた。


「うん」


六人は、降り続く雪の中を歩き始めた。


◇


その日の夕方。


雪は止まなかった。


リヴェル村の地面は、さらに白く染まっていた。


屋根の上。


木々の枝。


川岸の石。


これまで緑に覆われていた村の景色が、まるで別の場所のように変わり始めていた。


家の修復作業は中断され、村人たちは寒さをしのぐための準備を進めていた。


カイたちは、セルドの家に集まっていた。


「このままでは困ったことになる」


セルドが窓の外を見つめる。


「食料の確保も、家の修復も難しくなってしまう」


ナタリーが頷いた。


「何か手伝えることはないか?」


「ああ。ありがたい。だが、まずはこの寒さがいつまで続くのか……」


セルドは言葉を切った。


カイが尋ねる。


「セルドは、今まで雪を見たことある?」


「雪?」


「うん。空から降ってる、あの白いもの」


セルドは首を横に振った。


「いや。初めて見る」


「やっぱり……」


「この辺りは一年を通して温暖でな。寒くなる時期はあるが、こんなことはなかった」


ロウガが腕を組む。


「なら、やはり異常な現象なのだな」


セルドは頷いた。


「ああ。少なくとも、わしの知る限りではな」


しばらく、沈黙が続いた。


窓の外では、白い粒が静かに舞い続けている。


その時。


セルドが、ふと眉を寄せた。


「……待てよ」


「どうしたの?」


カイが尋ねる。


「いや……この景色、どこかで見たような気がするんだ」


セルドは窓に近づいた。


白く染まった地面。


降り続ける雪。


その一つ一つを、確かめるように見つめる。


「……そうだ」


セルドが小さく呟いた。


「昔、読んだ絵本だ」


「絵本?」


リシアが顔を上げた。


「ああ。まだ小さかった頃に読んだ、古い物語でな」


セルドは椅子へ腰を下ろした。


「確か……『水の都と白い花』という題だった」


「白い花?」


カイが聞き返す。


「そうだ。空から白い花びらが舞い降りて、水の都が真っ白になるという話だ」


レオンが空を見上げた。


「……今と似てるな」


「ああ。わしも、ずっと作り話だと思っていた」


セルドは懐かしそうに目を細めた。


「絵本には、白く染まった街が描かれていた。屋根も、道も、木々も……今の村とそっくりだったんだ」


カイは思わず身を乗り出した。


「その絵本、他にはどんなことが書いてあったの?」


セルドは少し考えた。


「確か、水の都には幾つもの川や水路が流れていてな」


「うん」


「白い花が降り続けるうちに、その水が少しずつ動かなくなってしまうんだ」


「……動かなくなる?」


リシアが首を傾げる。


「ああ。水路は鏡のようになり、船も進めなくなったという」


「……それって」


カイは、窓の外を見た。


白い雪。


冷たい風。


そして、川。


「……凍ったのかも」


「凍る?」


レオンが聞き返した。


「うん。水は、すごく冷えると氷になるんだ」


カイは手のひらを見つめた。


「俺のいた場所でも、冬になると池が凍ることがあったよ」


セルドが興味深そうに聞いていた。


「……そうか。確かに、絵本には透明な板のようになった水路が描かれていた」


ガルドが口を開く。


「それなら、その絵本は実際に起きた出来事を描いたものかもしれんな」


「……どうだろうな」


セルドはゆっくりと首を振った。


「随分と昔から伝わる物語だ。どこまで本当なのか、わしにも分からん」


ナタリーが尋ねる。


「その水の都というのは、どこなんだ?」


セルドが頷いた。


「アクエリアだ」


「……アクエリア?」


カイが顔を上げる。


「ああ。以前、お前たちにも話しただろう。この大陸の中心にある水都だ」


「あっ、覚えてる!」


カイが頷いた。


セルドは続けた。


「あの街には、幾つもの運河が流れている。絵本に描かれた水の都も、アクエリアが舞台だといわれているんだ」


「……じゃあ、昔のアクエリアで本当に雪が降ったのかもしれないね」


カイが呟いた。


セルドは頷いた。


「そうかもしれん。だが、それを確かめるなら、アクエリアへ行くのが一番だろう」


「どうして?」


「アクエリアは、ネレイア大陸の首都だからな」


「……首都!?」


カイが目を丸くした。


「そうだったんだ!」


レオンも驚いた様子だった。


「そんなに大きな街なのか?」


「ああ。大陸各地から商人や旅人が集まり、様々な情報が行き交う場所だ」


セルドは続けた。


「それに、アクエリアには、この大陸を治める王も住んでいる」


「……王様!?」


カイが思わず声を上げた。


「本物の王様がいるの!?」


「もちろんだ」


セルドが笑った。


「王宮には、昔からの記録や書物も数多く保管されているそうだ」


ナタリーが考え込んだ。


「……その絵本についても、何か記録が残っているかもしれないということか」


「ああ」


セルドが頷く。


「『水の都と白い花』は、この大陸では古くから知られている物語なんだ」


「……そんなに有名なの?」


リシアが尋ねた。


「わしが子どもの頃には、すでに古い話だった。親から子へ、長い間読み継がれてきたものだ」


セルドは静かに続けた。


「王宮には、その物語の原典があるという話も聞いたことがある」


「原典?」


カイが聞き返す。


「今ある絵本よりも、ずっと昔に書かれたものだ。詳しくは知らんがな」


カイは、窓の外を見つめた。


今。


目の前で起きている現象。


そして、遥か昔から伝わる絵本。


そこに描かれているという、白く染まった水都。


「……偶然なのかな」


カイが呟いた。


ガルドが答える。


「確かめてみる価値はあるだろう」


ロウガも頷いた。


「他の地域で何が起きているのかも知りたいところだ」


ナタリーがカイを見た。


「どうする?」


カイは少し考えた。


アクエリア。


大陸の首都。


王が住む街。


たくさんの人が集まり、様々な情報が行き交う場所。


そして。


遥か昔から伝わる、不思議な絵本。


「……行こう!」


カイは顔を上げた。


「アクエリアへ!」


レオンが笑った。


「よし! 次の旅だな!」


リシアも微笑んだ。


「その絵本、私も読んでみたいな」


「俺も!」


カイが頷く。


「どんな話なのか、気になる!」


セルドが小さく笑った。


「アクエリアなら、今でも売られているかもしれんぞ」


「本当!?」


「ああ。昔から親しまれている物語だからな」


ガルドが立ち上がった。


「なら、準備を進めよう」


ロウガも頷いた。


「この天候では、普段より移動が難しくなるだろう」


セルドは皆を見回した。


「道中は気をつけるんだぞ。これだけ急に寒くなれば、魔物たちにも変化が起きるかもしれん」


カイは頷いた。


「うん!」


そして、もう一度窓の外を見た。


降り続ける雪。


白く染まり始めた村。


その向こうに広がる、まだ知らない大陸。


水都アクエリア。


そこに行けば、この雪について何か分かるかもしれない。


そして。


『水の都と白い花』。


その物語に、どんな秘密が隠されているのだろう。


◇


夜。


カイは一人、リヴェル村の家の外に立っていた。


手のひらを伸ばす。


白い雪が落ちる。


冷たい。


すぐに溶けて、水になる。


「……雪か」


現実世界では、何度も見たことがある。


けれど。


この世界で見る雪は、どこか違って感じた。


カイは空を見上げた。


「……何が起きてるんだろう」


ふと。


STATUSを開く。


先ほど獲得したSP。


まだ振り分けていなかった。


カイは筋力に2、敏捷に1を振り分けた。


――――――――――


《SP ALLOCATION》


筋力:41 → 43


敏捷:42 → 43


消費SP:3


残りSP:0


《ALLOCATION COMPLETE》


――――――――――


淡い光が身体を包んだ。


カイはゆっくりと拳を握った。


強い力。


軽い身体。


以前とは、明らかに違う。


そして。


改めてSTATUSを確認した。


――――――――――


《STATUS》


神谷 海


LEVEL:20


HP:290 / 290


MP:262 / 262


筋力:43


体力:33


敏捷:43


器用:36


知力:35


感知:38


精神:36


未使用SP:0


ATTRIBUTE


《光》


《炎》


SKILL


《剣術 Lv.5》


《弓術 Lv.5》


《体術 Lv.5》


《予測 Lv.5》


《鑑定 Lv.4》


《治癒 Lv.3》


《光魔法 Lv.3》


《炎魔法 Lv.3》


《創造》


――――――――――


「……LEVEL20」


カイは呟いた。


ここまで来た。


強くなった。


だが。


まだ、ライルには届かない。


LEVEL35。


その差は、十五。


そして。


この世界には、まだ知らないことが多すぎる。


カイは表示を閉じた。


「……もっと、強くなろう」


ただ、敵を倒すためだけではない。


この世界を、もっと知るために。


大切な仲間たちと、前へ進むために。


カイは空を見上げた。


雪は、静かに降り続いていた。


そして、ふと。


昼間にセルドが話していた絵本を思い出す。


『水の都と白い花』。


空から白い花が降り、水の流れが止まってしまうという古い物語。


「……本当に、昔もこんなことがあったのかな」


カイは小さく呟いた。


もし。


あの絵本が、実際に起きた出来事をもとにしているのなら。


なぜ、こんな現象が起きたのか。


そして。


どうやって、元に戻ったのか。


その答えが、残されているかもしれない。


「……アクエリア」


カイは静かに、その名を口にした。


まだ見ぬ大きな都。


幾つもの水路。


王が住むという王宮。


そして、そこに残されているかもしれない古い記録。


何が待っているのかは分からない。


それでも。


確かめてみたい。


カイは、もう一度空を見上げた。


白い雪が、静かに舞い落ちていた。


◇


同じ頃。


水都アクエリア。


幾本もの運河が街を巡り、その中心には巨大な王宮がそびえていた。


石造りの橋。


高い塔。


水面に映る街の灯り。


その全てが、白いものに包まれ始めていた。


普段は絶えることなく行き交う小舟も、今は岸へ寄せられている。


冷たい風が、運河の水面を揺らしていた。


王宮の奥。


古い書物が保管された書庫。


そこには、代々の王家が守り続けてきた数多くの記録が眠っていた。


歴代の王の治世。


大陸の地図。


古い交易の記録。


そして。


遥か昔から伝わる物語。


その中に、一冊の古びた絵本があった。


『水の都と白い花』。


色褪せた表紙。


擦り切れた背表紙。


何度も修復された古い紙。


そこには、現在広く知られている絵本とは異なる挿絵が残されていた。


白い花に覆われた街。


鏡のように静まり返った水路。


動かなくなった船。


そして。


水路の底へ続く、長い石の階段。


その先には。


大きな扉が描かれていた。


けれど。


扉の向こうに何があるのか。


その先の頁は、失われていた。


絵本の最後。


僅かに残された古い文字。


――――――――――


白き花が水の都を覆う時。


流れは眠り、古き道が姿を現す。


その先に何があるのか。


知る者は、もういない。


――――――――――


王宮の窓の外。


雪は、さらに強くなっていた。


長い年月を経て、物語となった古い出来事。


その絵本に描かれていた景色が、今。


水都アクエリアに広がり始めていた。


――――――――――


第33話 終

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