第二話「社会人、火力マウントの話についていけない夜」
今回は「火力マウント」のお話です。
オンラインゲームをやっていると、
装備や火力、最適解の話になることってありますよね。
それが楽しい人もいれば、
ちょっとよくわからないまま聞いている人もいる。
そんな温度差みたいなものを書いてみました。
今回もゆるく読んでもらえたら嬉しいです。
今日は、少しだけ早く帰れた。
とはいえ、定時ぴったりというわけでもない。
軽く一時間ほど残業して、それでも昨日よりはまし、という程度だ。
コンビニで買った夕食を済ませて、シャワーを浴びる。
時計を見ると、まだ日付は変わっていなかった。
こういう日は、少しだけ得をした気分になる。
私は椅子に座り、PCの電源を入れた。
---
Gun Edge Apocalyptic World――通称GEワールド。
銃とスキルを組み合わせた戦闘が特徴のMMORPGで、
ミッションと呼ばれるコンテンツをパーティで攻略していくのが基本になる。
ログインすると、すぐにギルドチャットが目に入る。
『DPSどれくらい出てる?』
『さっきので〇〇くらいかな』
誰かがそんな話をしていた。
DPSというのは、どれだけダメージを出せているかを示す数字のことだ。
このゲームでは、与えたダメージ量や秒間火力を計測することができる。
それを基準にして、自分や他人の強さを測る人もいる。
いわゆる、火力の話。
私は特に何も言わず、軽く挨拶だけ打つ。
『おつかれ』
『おつかれー』
返事はすぐに返ってくるが、話題はすぐ元に戻った。
『その武器まだ使ってるの?』
『今は〇〇一択でしょ』
『それに変えた方がいいよ、火力全然違う』
誰かが装備の話を始めると、自然と会話が広がっていく。
珍しいことではない。
---
少しして、ミッションに誘われた。
特に断る理由もなかったので、そのまま参加する。
集まったメンバーは、いつもの顔ぶれだった。
軽く準備をして、ミッションが始まる。
---
序盤の敵を処理しながら、チャットが流れる。
『そのスキル、ちょっと早めにキャンセルした方がいいよ』
『次のスキルにつなげた方がDPS伸びるから』
別の誰かが、続けて言う。
『あー、それ俺もやってる』
『結構変わるよね』
私は画面を見ながら、ふと考える。
それで、どれくらい変わるんだろう。
指は止めないまま、チャットを打つ。
『それ、どれくらい変わるの?』
少しだけ間があった。
『いや、とにかく強いよ』
『やらない理由ないって』
それ以上の説明はなかった。
私は「そうなんだ」とだけ返して、操作に戻る。
---
戦闘は、そのまま続いていく。
言われた通りに動いている人もいれば、そうでない人もいる。
特に問題は起きていない。
敵は普通に倒れていくし、進行も止まらない。
私は、いつも通りに動いていた。
敵の位置を見て、射線を確保して、無駄のない動きだけを選ぶ。
特別なことはしていない。
ただ、当てるべきところに当てているだけだ。
---
途中で、一人が少し遅れた。
『火力足りてなくない?』
誰かがぽつりと打つ。
空気が、少しだけ変わる。
返事はない。
ただ、チャットの流れが一瞬止まる。
私はそのまま敵を処理しながら、画面を見る。
特に問題があるようには見えない。
進行も止まっていないし、崩れているわけでもない。
---
少しして、戦闘はそのまま持ち直した。
誰も何も言わないまま、次のエリアへ進む。
チャットも、さっきまでの勢いを失っていた。
---
ボス戦に入る。
ギミックを処理しながら、攻撃を重ねていく。
特別な連携も、派手な動きもない。
ただ、それぞれがやるべきことをやっている。
それだけで、十分だった。
---
ボスが倒れる。
ミッションは、問題なくクリアされた。
---
リザルト画面を見ながら、誰かが言う。
『さっきの、もうちょい火力あれば早かったかもね』
別の誰かが返す。
『まあ、安定してたし良くない?』
それで会話は終わった。
---
私は軽く息を吐いて、チャットを打つ。
『おつかれ』
『おつかれー』
いつものやり取り。
それだけで十分だった。
---
ロビーに戻る。
さっきまでの火力の話は、まだ続いている。
『やっぱ〇〇強いよ』
『あれに変えたら全然違うし』
楽しそうに話している人もいる。
それはそれで、悪いことじゃない。
そういう遊び方もある。
---
私はマウスから手を離して、少しだけ背もたれに体を預けた。
さっきの戦闘を思い返す。
特に問題はなかった。
時間も、そこまで遅くはなかった。
何かが足りなかったわけでもない。
---
「……まあ、勝ててるならいいんじゃない?」
誰に向けたわけでもなく、そう呟く。
チャットには打たない。
そのままログアウトボタンにカーソルを合わせる。
---
画面が切り替わる。
部屋の静けさが戻ってくる。
時計を見ると、まだ日付が変わる少し前だった。
昨日より、少しだけ早い。
それだけで、今日は十分だった。
私はPCの電源を落とし、静かな部屋に戻った。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
今回は火力の話でしたが、
ゲームの楽しみ方って人それぞれだなと改めて思います。
数字を詰めるのが楽しい人もいれば、
何となく遊ぶのがちょうどいい人もいる。
どちらが正しいというより、
自分に合った距離感で遊べればいいのかな、と思っています。
次回は少し方向を変えて、
「初見詐欺」のお話を書く予定です。
よければブックマークや評価もよろしくお願いします。




