#8-11 追いかけっこの中で
「鬼ごっこ、結構好きなんです」
「あっそ、俺は嫌いだ!!」
あらゆるところを跳び回り、先ほどまでとは比べ物にならないほど早く迫ってくる植物の蔦を間一髪で避け続ける。躱した後の地面や壁が抉れているところをみると生身じゃ一撃でも喰らいたくない。かといって変身できてない状態じゃ周りの蔦を全部焼き切るのも無理。
何か、素手じゃなくて蔦を切る道具があれば……!
「っ!これだ!!」
さっきザセルが突っ込んで崩壊しかけているジェットコースターのエントランス。その近くに転がっていた行列整理用の細めのポールを手にとって、底板を蹴り外し、先端を折らない程度に踏み潰して薄い刃のようにして即席剣を作る。
その合間に迫って来ていた蔦を試しに斬れば簡単にスパッと斬れた。この蔦はただの植物と一緒か、ならこんな剣でも切れるはず。
持ち手をしっかり掴み、構えて走り出す。剣の扱いは一通りやったけど拳銃よりも慣れない。でもやるしかない!
体の動きを思い出しながら持ち前の動体視力で蔦の動きを見抜き、縦横無尽に駆け巡って斬り捨てる。迎え撃つ蔦や植物を斬り裂くたびにザリっと嫌な音がした。不恰好な即席剣だ。刃こぼれもクソもない。
「なかなか面白いことをしますね」
「っ!」
すると横から衝撃を受ける。直撃は避けられたが、視線の先にはオルガーとオルガネル。でも俺を横から殴ったのは多分この目の前にそびえ立つ1番デカい木の化け物。優に4mはありそうな高さに、枝のように生えるいくつもの腕と、足は根なのか足なのかわからない。幹のあたりには大きくさけた口のようなものがある。
「新種か」
「ええ。オルガンといいます。仲良くしてくださると嬉しいです」
「仲良く?仕掛けてんのがどっちか覚える脳もないやつと、仲良くできるもんかよ」
プッと口先に溜まった血を吐き出し剣先をザセルに向ける。するとザセルが手を合わせニコッとわらった。
「あぁそう、そうでした!私、今日は伝えたいことがあって。聞いていただけないでしょうか」
「はぁ?」
「私たち、仲良くできませんか?さっきだって、怪我した私の手当までしていただいたではありませんか。きっと、話せば仲良くできますよ。それにお互い特異生物と呼ばれる身ではありませんか」
「何言ってんだお前」
「同族同士仲良くしないか?と言っているんです。もちろん、私からのプレゼントもあるんです。友好の証ですよ」
気色悪い。何のつもりだ。
「嫌だと言えば?」
「あぁ、ううん。そうですね。なら、嫌ではなくなるまで」
オルガンがドスンと動き、それに合わせてオルガーとオルガネルもこちらへ向かってくる。
「お話しましょう」
デカいオルガンはこの剣じゃ無理だ。オルガネルも怪しい。この剣で相手できるのはオルガーまでだろう。なら、
ジェットコースターのエントランスの瓦礫を上手く避けて中へ入っていく。ここはたしか奥が長かったはずだ。あの瓦礫を超えて来れるのはサイズ的にオルガーだけ。それをまず何とかする!
迫って来るオルガーをどんどん斬り裂く。近くに寄りすぎたやつは熱で殺し、刃を熱した剣を投げ何体かを貫通させて時間を稼ぐ。
でもやばい。想像以上に量が多い!
後ろへ下がり、ジェットコースターのレールに乗る。そうだ、このジェットコースター、初めは暗かったけど、最後落ちる時だけ外に出たような気がする!どこに出たかは覚えてないけど、ここでオルガーの量に圧倒されるぐらいなら外に出てもいい。オルガーは単純に俺を追ってきてるし、良い時間稼ぎになる。
決めてすぐに走り出す。後ろからオルガーの叫び声が室内に響いて耳が痛くなった。躊躇わずに走ってできる限り距離をとる。後でザセルを倒すことを考えたらいちいちオルガーの相手をしていたらもたない!
『こちら司令部!避難は完了していないが、周囲に人間はいない。よって緊急事態で変身を許可する!責任は私がとる、変身しろ!』
「っ!」
来た!!
走りながらシリンジをポケットから取り出してミューシスにはめ込む
Flame!Ready for injection!
「キシャャアアア!!」
「っ!?じゃ...…まっ!!」
後ろに引っ張って来るオルガーを振り切り、目の前の細い階段を駆け上がる。下を見ればオルガーの波にキリが無いが、上を見上げれば日の光。
どこに出るかは、一か八かだ!!
階段の頂上、ジェットコースターの頂点に出て躊躇わずに外へ飛び降りた。
「change my feature!!」
空中でプランジャーを押し込む!
Genes are promoted!
腕をクロスして体を丸め、グルングルンと回転してストンと着地する。周りを見渡すとジェットコースターのエントランスとは反対側みたいだ。オルガンやオルガネルはいない。けど、
「あの高さから落ちても無傷とは、流石はネコ科の動物も混じったキメラですね」
1番面倒な奴に行動を読まれていた。ザセルは優雅に座っていたベンチから立ち上がり、ふわりとスカートの裾が風を含む。
「いかがですか?その力を活かし、自由になり、私たちと共に地球を救うのは」
「興味ない」
「何故?愚かな人間の下につくなど理解に苦しみます」
「勝手に苦しんでくれ。俺は俺で目的がある」
「目的?」
「10年前の事件、コトラ事件はお前が首謀者だな?」
ギッと睨みつける。10年前、あの事件ではたくさんの人間が特異生物に無理矢理変異させられた。体が変異に耐えられずすぐに死ねればまだマシだ。数時間、数日を生き延びてもただ救いもなく苦しみ、大切な人の心身まで傷つけ死ぬだけだ。
それがどれだけ大勢の人を悲しませ、苦しませたのか。
「首謀……ですか。確かに私が皆さんを特異生物と呼ばれる生物へと変異させました。より高位なる存在に救ったとも言えますね」
そして父さんを、研究所のみんなをどこへやったのか。それを探し出すのが俺の目的だ。
「なら答えろ。あの研究所の人間はどうした。お前が攫ったのか?特異生物に変異させたなら、その場に死体がないのはおかしいだろ!」
「ふふ......ばれていましたか。あの日あそこに残したのはパーティの参列者だけでしたから。えぇ、ご想像の通り、あの研究所の人間だけはすべて私が攫いました。私の本拠地にて、研究をお手伝いしていただいております」
「っ、!!」
「随分と“働き者”で助かりますよ。私の研究もよく進んだものです」
心臓が一際大きく跳ねた。
生きてる。
父さんは生きてる。生きてる。ザセルに研究をさせられている。それでも、それでも生かされている。
心臓が跳ねる。体が震える。俺に、俺たちに、まだ希望はある。息を整えるためにゆっくりゆっくり息を吐いた。俺の心臓はまだ動いている。
「あら、もしかしてそれが優也くんの目的ですか?」
「......」
「そういうことでしたら話は早い!だって...…」
「ザセル様ああああああああ!!うえええええん助けてえええええ!!」




