#7-11 心配な誰か
「やつらは芸人だったか?」
「楽しそうで何よりですね」
同日同時刻──SCR本部司令室
長官に資料を渡す。通信で丸聞こえなんだよね、3人の心配祭り。何だかめちゃくちゃ面白いことなってたね。本人達からしたらとんでもない事件だったんだろうけど。
「海美ちゃんが来てからなんだか楽しそうですよね」
「楽しんでもらっては困るんだがな」
呆れてため息をつく長官。
「でも、鮫島家との交渉、1番尽力されてたのは長官じゃないですか」
そう。海美ちゃんがSCRに来ることになった時、当然鮫島家、特にお父さんの鮫島厳夫さんとは大いに揉めた。それにコトラ事件の後、海美ちゃんがSCRに来なかった理由である鮫島厳夫との交渉も長官が直々にやってる。
ちょっと気になることがあるんだ。雑談ついでに聞いちゃおうかな?
「事件直後の交渉で、緊急時に殺害できるようミューシスをつけることって条件はわかるんですけど、本人の意思で戦いを望めばそれを止めないことを条件につけたのはなんで何ですかか?」
「……」
少し気になっていた。交渉条件
あ、深くつっこみすぎたかな。数秒の沈黙が身に重い。
「……選択肢を与えるためだ」
「選択肢?」
「コトラ事件を無かったことにはできない。被害に目をつぶることはできない。即ちミューシスをつけることが必須なら、いずれ自分にある異質な力には気付く。なら」
長官は右腕につけた古い腕時計をなぞる
「先に手段だけは伝えておいた。変身方法をな。それをどう使うのか、いつ決断するのか。それを選ぶのは鮫島海美次第だった」
「それで斗或高校の事件の時に変身できたんですね」
「そうだ。決断し、本人の意思で真実を求め戦いを望むならそれを止めさせたくなかっただけだ。1番の障害であろう親にな。世の中、選択肢すら与えられず死んでいく人間もいる」
腕時計をなぞる手が止まる。
「そうでしたか。そんな経緯だったんですね」
「そうだ。特に深い意味はない」
「……あ、すみません。長々とお話を聞いてしまって」
「下がれ」
「失礼します」
自分のデスクに戻る。モニターに目を映す。
長官の腕時計は動いていなかった。
それどころか、風防にはヒビが入り、文字盤には何かが飛び散って入ったような赤茶色の汚れがあった。それに長官がつけるには少し小さいような、高校生くらいがつけてそうな腕時計だ。しかもそれを右手首に巻いていた。記憶を辿れば長官が右利きだったことぐらいは覚えている。
どうして壊れた腕時計を、利き腕にしているのか。
──聞いたことがある。長官には愛娘がいたって。そう、それこそちょうど海美ちゃんぐらいの高校生の娘さん。機密情報で知ったけどコトラ事件で発生した特異生物に襲われ亡くなった被害者の1人だったらしい。
「……心配にもなるわな」
静かに呟いた誰かの心配は、誰にも聞かれることはなかった




