#6-10 形勢逆転
「そういや今回の特異生物ってなんだろう?」
「言ってたでしょう。杉ですよ杉」
「杉っつってもなぁ。動くのか?」
「狛坂さん」
『映像で確認できる外見はスカンクが大きくなって二足歩行したような見た目です。体から杉のような枝が何本か生えています。おそらくスカンクと杉のキメラかと』
ガタンッと大きく車が揺れた。目隠しで真っ暗な視界じゃなんで揺れたのかも分からないけど。
「スカンクの変異もあるのか……」
「うわ、スカンクってあの臭いやつ!?あれおならじゃないよね!?」
「放屁で杉花粉を飛ばしていると考えるべきかもな。どちらにしろキモいが」
「まーまー、俺が吹っ飛ばしとくわ。あと何分?」
『ポイント到着まであと2分です。目隠しを外してください』
指示通り目隠しを外す。車の中は窓などが完全に閉じられていて明るいわけじゃないが、視界が少し開ける。向かい合う座席で隣には海美ちゃん、前には優也がいる
『足元にマスクを用意しています。フレイムとスパークは装着してください』
足元を見ると防毒マスクが転がっている。なかなかゴツいやつだな。隣で海美ちゃんが苦戦してる。無理ないよね、暗いし。
「手伝うよ」
「う〜お願い!」
ベルトうまく閉めてガポッという音と共になんとか嵌める。すると息が一気に吸いづらくなってしまったのか、それともこのマスクが重いのか、う゛〜っと顔を顰め半泣き状態の海美ちゃんに苦笑する。そりゃこんなの嫌だよね
「優也………」
「我慢しろ。任務だ」
「うえ〜……」
「……無事帰ったら何か作ってやるから。好きなお菓子でもなんでも」
「へ!?ほんと!?じゃ〜頑張っちゃおうかな?」
先ほどとは打って変わってすごく嬉しそうな顔。そんなにか、とつい笑いが溢れる。優也もやれやれといった表情だ。てか優也、海美ちゃんの扱い慣れすぎじゃない??
『到着まで残り30秒。ストームは変身準備を』
「りょーかい」
二の腕のポケットからシリンジを取り出す。ん?……あ
サッと血の気が引いていく。え?あれまって?あら?これ、あれ??え、えぇ!?
慌てて内ポケットを探る。あ、あった。あったあった。これだ。
「龍斗さん。なんで2本もシリンジ持ってるんですか?」
「へ!?あ、これは研究室から持ってきちゃった空のシリンジ!研究してていつのまにか入れちまったわ!ははは!」
どういうこと?と困惑した顔の優也。そりゃそうだよなこんなこと今までにやらかしたことないし!!
内ポケットに入っていたのは2本のシリンジ。いつもは変身のためのシリンジしか入っていないはずのそこには、まさかまさかの煌湊が研究中のシリンジ!あーーやっちまった!!
クリーンルームを出る時、滅菌した未使用の空のシリンジを外にある棚に戻そうと手に持ってたのは、実はサンプルを詰めたシリンジで、しかも急いで研究室から出たから無意識にうちポケットに入れちまった。これはまずい。まじでまずい。これでバイオハザードが起きようものなら俺は第二のコトラ事件の犯人となってしまう。
いやいやいや、待て待て。とりあえず今は任務だ。これのことは一旦忘れろ。後で始末書でもなんぼでも書くから!
『到着まで10……9……』
「なんか、大丈夫ですか?龍斗さん」
「あぁ。問題ない」
研究中のシリンジは胸の中にそっとしまって、変身用のシリンジをミューテーターのシリンジソケットに滑らせる
Storm!Ready for injection!
『5……4……』
「じゃ2人、お先に失礼!」
「気をつけて」「がんばろ!」
『3……2……』
キキッと強いブレーキがかかる。
『1!』
「change my feature!!」
Genes are promoted!
息を止めて一気に車から現場の広場へ飛び出す。目の前には約2メートルぐらいはありそうな体躯の二足歩行のスカンク。スカンクの外見の特徴はそのままに、杉の枝が体の各所から生えていて気味が悪い!
「何だオ前、何者だ!」
「お前を倒すバケモンだよ!!オラァ!!」
腕を思いっきり振り上げて強い上昇気流を作り出す。たちまち周りの花粉は舞い上がって視界から黄色が抜ける。
「な、何を!!」
「もういっちょあがり!」
今度は横に猛スピードで回転し舞う花粉を横へ飛ばす。これで結構晴れただろ!
「小癪な!このガスを消し去ろうと、オレがまた噴射するだ──」
Flame!Ready for injection!
Spark!Ready for injection!
「「change my feature!!」」
Genes are promoted!
「ガァアアアアアアアアア!?」
「ナイス!!」
フレイムとスパークが同時にスカンクの腹を思いっきり殴る!よし、いい感じ!
そのままフレイムが跳んで顎に膝蹴りを喰らわせ、スパークは殴りつけると同時に鮫の頭部で齧り付き肉を抉る。続けて体に生える杉や腕の一部にも噛みついて引きちぎっていき、フレイムはスカンク杉の肩を踏んで勢いをつけた宙返りし、スカンク杉を後ろから回し蹴った。いい連携プレイ!
2人が近接で戦ってる間に花粉が落ちてこないよう風で辺りを舞い上げる。
「グァッガハッ…クソ、オノれェェェ!!!」
「スパーク、もっと噛みちぎれるか。小さくないと爆発も小規模で抑えられない」
「了解!!任せてよ!」
「簡単にオレを倒せると思うなよ…!」
そういうとスカンク杉は体に生える枝をずるりと抜き取る。すると杉の葉が一気に一定方向に傾き剣になった。スカンク杉がそれを大きく振るうとその剣から黄色い花粉が飛び散る。
「まじか!」
「オ前はそこで遊んでおれ!!オルガー!!」
そうスカンク杉が叫ぶと俺とフレイム達の間にオルガーがニョキニョキっと湧いて出てくる。まじかよ!!
次々に襲いかかってくるオルガーをたおしていく。それでも2人の方には近づけない。クソ、どけ!!
ようやくオルガーを全て退かし、目の前が開ける。見るとスパークは口と鼻を抑えて頭突きで噛みつき、フレイムは多分息を完全に止めてるようだ。スカンク杉が剣を振るうのを側宙でよける2人の体には花粉がこびりついてしまっている
「フレイム、スパーク!避けろ!」
「!!」「!」
2人が避けるのと同時に向かい風を起こしてスカンク杉を吹っ飛ばす。
「ぶはっはっ……ありがとうございます」
「ゲホゲホゲホッッ!!……し、死ぬかと思った」
「よく耐えたね2人とも。花粉は上に飛ばしてあるから、ゆっくり息を吸って」
2人の前に立つ。俺は常に風を生み出せるけど2人はそうもいかない。なるべくそばに居ないと。
「グウゥゥウウ……まぁいい。オ前らなど相手にならない」
「は?」
何言ってんだこいつ。スカンク杉は俺たちを嘲笑うかのように鼻で笑う
「ハッ、聞こえなかったか?オ前らなど相手にならないんだよ!!!」
「さっきまで2人にボコボコにされといて何を─」ドサッ「言っ、て」
後ろから倒れる音。焦って振り返るとスパークが倒れている。な、
「な、スパーク!?」
ドサッ
「〜〜っ!!フレイム!!?」
続けてフレイムまで倒れる。返事はない。何だ、何が起こった!!
屈んで2人のことを強く揺する。だけど2人の目は固く閉じられたままで返事は返ってこない。どうして、なんで!?
「ハッハッハッハッ!!言っただろう!相手にならないと!!」
「お前……何をした!!」
「ハッハッハッハッ!!愉快愉快!オ前ら、『ガスは吸うもの』だとでも思ってんだろ!!」
「……!まさか、経皮か!?」
「大せいかーーーい!!俺の『浸透』の力で皮膚からでも毒を伝わせられるんだよ!」
そう言いながらスカンク杉はまた剣を振るい花粉を大量に撒き散らしながらこちらへと向かってくる。こいつ!
わざと俺を分断させたのは風を起こす俺を遠ざけるため。そうすればガスを吸わないよう息を止めていてもガスは皮膚からも吸収されるっぽいからガスが体内に入ってしまう。俺は常に風を起こしてたから体にはガスがついていないけど。
要は体にガスを近づけないよう注意しながらコイツを倒すしかない。しかもフレイムが落ちたってことは焼却ができない。どうする、どうする!
「動きが速いナぁ!さっさと吸ってしまえ!!」
「クソっ!!」
連続で振るわれる剣を後ろに退きながら避ける。避けることは簡単だけど、避けてるだけじゃ始まらない。グルッと回転して尻尾を強くドォンッ地面に叩きつける。ま、そりゃこんなトロければ避けられるけど、狙いはこっちだ。
舞い上がる土煙。それと舗装された道路がボロボロに崩れたいくつもの瓦礫と石礫を風で巻き上げて一気にスカンク杉へと叩きつける。よし、これでちょっとはひる─
「っ!?」
「ヒャッハハハハハハ!!こんなそよ風、大したことないなァ!!」
上から聞こえる声に反応すれば、空高く跳び上がったスカンク杉がこっちに杉の針のような葉を飛ばしてくる。体を低くし地面を転がって避けようとする、でも!
「いってぇな……!」
雨のように降り注ぐ葉の針を全て避けきれない。体に何本か深く刺さって簡単には抜けないみたいだ。
「オラオラさっさと死ねぇ!!」
「あぁもう!!」
スカンク杉はその間にもガスをあたりに充満させようとする。ちらっとフレイムとスパークの方を見ると、まだ杉になり始めてはないけど、でも体の皮膚の一部が変色し始めてる。これ以上ガスを吸わせるのは危険だ。
針を抜くのは後回しに、風を起こしてガスを散らす。後で針をぬかない、と……!?
その瞬間、ガクッと体から力が抜ける。
しまった針か!針にもなにか……!
「馬鹿が!!オレの毒針にまんまとかかりやがった!」
体が思うように動かない。針が刺さった左腕は痺れてまともに動かせないし、腹の奥から何かが込み上げて吐き出しそうになるのを耐える。アイツ、花粉だけじゃない別の毒もあるのか!?
針を急いで抜くが、うまく動けない俺を笑いながら何度も殴られ蹴り飛ばす。まともに受け身も取れず地面に転がる俺をボールのようにまた蹴り飛ばした。首を掴まれ持ち上げられる。
「ガッは、なせ……!!」
「ハッハッハッ!いいジョークだな」
そう言い近くの壁へと叩きつけられる。何度も何度も強くたたきつけられ、喉の奥から血が噴き出て口から勢いよく溢れる。ついでに堪えていた胃液まで吐き出してしまった。地面にうつ伏せに叩きつけられた衝撃で頭がぐわんぐわんと揺れる。
あぁ、ダメか。ここで死ぬか
突然背中と腹に激痛が走る。声は喉が血で一杯になっているのがゴポポッと嫌な音を鳴らしただけだった。視線だけ移せば、スカンク杉が杉の剣を俺の背中から腹まで貫通して突き立てていた。
次の瞬間、激痛は足にも腕にも走る。
「ゥア゛ア゛ッ!!?!」
腹と同じように、剣で滅多刺しだ
「フン、ザセル様の言う通り、フレイム以外は大したことないようで安心したよ」
剣が抜かれ、そう言いのこして足音が遠ざかる。
動かそうにも体は動いてくれない。それどころか激痛で意識が朦朧として考えすら覚束なくなってきた。
暗くなる視界の先で、スカンク杉がフレイムの体を持ち上げる。なんだ、何するつもりだ。
ダメだ。ダメ……だ、もう、
『龍斗さん!!』




