#18-1 託したといえば聞こえはいいが
『緊急速報です。先ほど午後6時ごろ、政府から特異生物について表明がありました。政府では現在出回っている黒い特異生物の映像、およびSCRについては認知していないとのことです』
『都市伝説的な存在のSCR。本当に実在するのでしょうか?』
『人を助ける特異生物?そんな馬鹿な!』
『特異生物は全て悪だ。殺してしまえ!』
これが結末か。
都内某所────雑誌『Truth』編集部
こじんまりとした小さな事務所。ここを拠点にしてから、もう6年は経つだろうか。あぁ、始めたての頃は兄さんと一緒に街を駆けまわってたよなぁ。とにかく目の前のことに喰らい付いて、それが楽しくて。
今となってはこんなことになったけど。
薄暗い部屋の中で1人、机に突っ伏す。
たれ流し続けるテレビは喧しい。けど止める気にもならない。
『超緊急速報!政府の裏組織、SCRの正体に迫る!』
『特異生物が人間に変身って本当?』
『避難警報を使って人を避けたのもきっと何か後ろめたいことがあるんでしょう』
『政府の陰謀だ!』
耳に音声が入る度に自分のことが嫌いになる。
自分のことを肯定してほしくて。ただ、そんな自己中心的な考え方で。
人間に変身する特異生物の姿を収めた映像を、音声は切って、報道関係の伝手をあたって譲り渡して、世間に委ねてしまった。この大騒ぎは僕の責任だ。
政府はだんまりだ。騒ぐ世間に対して反応しない、無の対応。きっとそのうちただのネタ扱い、メディアが騒いだだけにされて、流行に流されていく。
けど僕には確信がある。僕は見てしまった。SCR────特異生物に対抗するための特性生物の姿を。
そして、真犯人と思われている孤虎利人の息子の正体を。
「……」
彼はSCRとして、真の黒幕である植物の女王──橘さんと戦う特異生物だった。
けどそれを、こんな形で流してしまった。自分の中の事実に向き合うことができなかった。誰かに真実を広める役割を投げてしまった。託したと言えば聞こえはいいが、ただ誰かに押し付けただけ。
何が記者だ。
ただのお騒がせ野郎じゃないか。
「……僕は」
植物の女王に踊らされるまま踊って、SCRを晒しあげて、自分の復讐をと思ったら相手は死んでしまっている。
何者にもなれやしないや。何も。
PPPPPPPPPPPP!
「!」
突然デスクにおいていたスマホの着信音が耳元で鳴り響く。見れば知り合いのテレビ関係者からだ。なんだろう。
ピ
「はい、岸谷です」
『あー岸谷さん。どもども佐藤です。タチイキテレビの』
「あぁ、お久しぶりです」
『いやーあんたすごいっすねぇ!!』
「はい?」
『聞きましたよ~~!例のスクープ、ほらSCRの映像のやつ!あれ岸谷さんだって!』
「……匿名で出したはずなんですけどね」
『隠しても無駄無駄。俺たちみたいなのが嗅ぎまわるの得意なこと、岸谷さんが一番知ってるでしょ』
「ははは、さすがです」
『いやー負けてらんなーって思って俺たちテレビも頑張ったんすよ。そしたら、俺もスクープ取れたんです』
「え?」
『テレビ、つけてみてください。チャンネルは……』
言われたとおりにチャンネルを回す。そこには街頭インタビューのVTRが流れていた。緊急特集と画面上部のテロップに表示されており、どうやらSCRの特集のようだ。政府公認の特異生物!?なんてデカデカと見出しをつくり、面白がっているようにしか見えない内容だ。
数人のインタビューの後、最後のインタビューを受けているのは。
『見てください。この親子、あの一年前の銀行爆破事件にいた親子なんですって!』
「え……!?」
テレビカメラに興奮する少年とそれに困ったような母親の姿だった。
その少年には見覚えがある。おかしい。なんで?
彼はここにいるはずの無い子供だ。だって彼は、
あの遊園地の事件の時に死んだはずじゃないのか?
『あの銀行爆破事件も例の特異生物の仕業だという噂ですが、どう感じますか?』
『……実は見ているんです。亀とかザリガニとかいろんな動物が混じっている特異生物が息子を襲った瞬間を』
『な、なんだって!?』
『その時はある男性が身を挺して守ってくれて、事なきを得たんですけど。特異生物はやっぱり怖いです』
『あのね!魔法使いのお兄ちゃんが風でビューンって守ってくれたんだよ!』
「え、」
『風でビューン?』
『あの時、銀行爆発事件の前に銀行強盗もあったじゃないですか。その時、助けてくれた長身の男性がいたんです。あの危険な状況で守って下さった警察の方ですね』
『腕をブンッて振ると風が吹いて、銃弾を跳ね返しちゃったんだよ!すごいよねぇ!』
『もしかしてそれは今大注目の人間に変身する特異生物では……!?』
『あぁ、ううん。あの小柄な男性とは見た目が違うんですけど。でももしあの人が特異生物だとするなら、悪い人には……』
『なんということでしょう!こうして人間を騙し、襲う隙を伺っているのです!』
『いや、そういうことじゃ』
都合の悪いものを打ち切るようにVTRが切り替わる。今の話、どういうことだよ。
生きていた?あの子供は遊園地で発生したあの嵐の中生きていたのか。そんなわけがない。大人の僕があんなに怪我をしたのに。あの嵐の中で誰か……誰かが守った?
「まさか」
普通の人なら死んでいてもおかしくないあの嵐の中、一般人が助けに来たとは思えない。つまり、それが意味するのは、
「お前なのか……!?」
あの少年を助けたのは、風を操る、人間の姿に化けられる特異生物。あの男としか思えない。
しかも銀行強盗・銀行爆発事件の時もあの男の子を助けたってことだろ?
僕はどれだけ酷い勘違いを。
『……聞いてます?岸谷さん』
「えっあ、ごめんなさい。なんて?」
『だから、岸谷さんのお兄さんの記事、取材させてもらえません?』
「兄の?」
『岸谷真さんでしたっけ?昔人間に化ける特異生物の記事書いてましたよね、岸谷さんのお兄さん。ぜひ取材させてほしくて』
「僕に、ですか」
『それにお兄さん特異生物に殺されたって話ですよね。いやーなんて悲しい話。その記者が実は初めに人間に変身する特異生物を見つけていて、記事にしたものの見向きもされなかった。それが今や時の人となる!岸谷……実さんも嬉しいでしょ?』
「……」
『お話伺いに行きますが、それも面倒ならこの音声録音しているので音声でも!お願いしm』
ぴっ
電話を切った。どうしてだろう。兄さんの屈辱を晴らすことが僕の目的だったはずなのに。どうしてこんなに苦しくなるんだろう。
何をしているんだろう。何をしたいんだ、僕は。
あのドラゴンは僕の兄さんとは無関係だ。薄々察しているんだ。
僕の情けない勘違いで、あの特異生物たちを追い詰めてしまっている。
何者にもなれないどころか、とんだ迷惑野郎だ。
「はぁぁぁぁぁぁあああ……」
今頃真実を知ったって、僕にはどうしようもない。




