#15-7 initiation
ガタガタガタガタッビタンッ!!
「────────っ!?!?」
開けた先から質量が押し潰される。何かの肉が体に巻きついて、そのまま部屋の奥にたたきつけられた。喉の奥から息を吐きだす。
なんだよこれ、赤い、血管の見える謎の肉!?なんだよこれ!?
体を縛り付ける強い力に悲鳴すら許されない。苦しい、苦しい、助けて誰か!
「……ふふ」
「うぅ……苦しぃ……!」
「あはははははははは!!」
肉の出どころは、扉にいる女性だった。
黒いレースのドレス。体には植物の蔦や茎が絡みついて、顔の右半分には毒々しい紫色の花が咲いている。
父さんじゃない。誰だ!!
「ようやく見つけましたよ、私の愛しき優也くん。そう、ようやくね。まったく、面倒なものでしたよ。何しろ何も言わないものですから。ねぇ?お父さん?」
女性は視線を後ろに向ける。よく見るとそこには、
「父さん!?」
「ーーーーっ!ーーーーーーーーっ!!」
ものすごい形相で何かを叫ぶ父さんが床に転がされている。何かを叫んでいるけど、口には俺の体に巻きついている謎の肉と同じものがかまされていて、声になっていない。腕にも足にも巻き付いていて、動けないように拘束されている。
父さん!父さんに何してるんだよ!
「やっと孤虎利人を捕まえたと思ったら優也くんはいないし、聞き出そうとすれば絶対に話そうとしないし……苛立ってしまって。だからすっきりしたくて、ドッキリをやってみました!どうでしたか?声帯を変異で作り出したんです。すごいでしょう?」
女性が肉に触れると近くの肉がうごめいて、少しずつ何かを形作っていく。穴に牙が生えて、舌ができたそれは、口だ。その口から父さんの声。
「優也、優也」
「っ!」
「すごいでしょう?私の覚醒した『変異』の力。まぁ、優也くんと比べてしまえば、大したことないかもしれませんが」
「おれ……の?」
「ーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
「っ、父さん!」
「はぁ。うるさいこと。優也くんも捕まえたところですし、用済みです。もう殺してしまいましょうか」
女が手を振ると呼応するように肉が蠢きぎちぎちと音を立て、父さんの首を絞め上げていく。
「なっ……!?や、やめ、て」
「ん?」
「やめ、でぇ……!!」
やめて、やめてよ。
俺のたった一人の家族なんだ。
お願い、もう独りになりたくない!
必死にもがく。肉に噛みついて、拘束から逃げ出そうと体をよじる。
でも何も意味をなさなかった。
「ふふふ、ふふ。あはは!面白い。いいでしょう。なら、最期の言葉ぐらいは遺させてあげましょうか」
「えっ」
「ガハッ、!?ゲホゲホゲホっ!!!」
突然拘束が解かれて父さんがむせこんだ。それでもすぐに顔を無理やり上げれば、顔が傷だらけになっている。
「げほっ……優也に手を出すな!!!」
「えぇ?」
「私でいいだろう。私の体ならば好きにすればいい!!だから優也を、私の息子を放せ!!」
「とうさ、ん」
「あはは、何を言い出すかと思ったら!優也くんの代わりに貴方が?冗談はやめてください」
「ぁああっ!?」
「父さん!!」
腕が曲がっちゃいけない方向に無理やり曲げられた。父さんの悲鳴がサイレンの音とともに廊下に響き渡った。
やめろ、やめろやめろやめろ!!
「やめろ!」
「あぁ!えぇ、やめますとも。もとより私の興味は貴方、優也くんにしかありませんから」
「やめろ!!!父さんを放せよこのバカ!!」
「えぇえぇ。もちろん。原始の細胞の主が望むのであれば何なりと。でもまずは」
「い゛っっ!!?」
首に激痛が走った。何か、太い何かが首に刺さっている。
「貴方も目を醒ましてください」
「優也!!」
「い゛ぁ、あああ、」
首に刺さった部分から何かを流し込まれて熱を持つ。それが放射状に体に広がって、腕が、足が、体全体が、水みたいに波打ってぼこぼこと沸騰する。頭が割れる。体が熱い。世界が歪む。喉の奥から何かが這い出して来る。
「やめろ、やめてくれ!!やめっ」
「ふふ、ふふふふふ」
もう、だめだ。
体を押し破り何かが爆発した。何が起こったのか俺にはわからない、けど
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!」
父さんの悲痛な叫び声だけは、確かに届いていた。




