#14-20 Bravery in my heart
優也はネピアからナイフを引き抜き、見下ろしながら不敵に笑う。
「折角だから教えてやる。海美はな、お前のいうような弱い奴じゃねぇよ。SCR特殊戦闘員で、世界をまるっと変えちまうほどの強さを秘めた女だ」
ドクン、と鼓動を忘れていた心臓が音を立てて大きく拍動する。
「もちろんサメジマの血の話じゃねぇ。海美自身の話だ。あいつはな、人様の世界に躊躇いもなくいきなり飛び込んできたと思ったらめちゃくちゃにかき回すんだよ」
……ん?
めちゃくちゃにかきまわす?
「おかげで朝っぱらから忙しいわ、任務も騒がしくなるし、夜飯の後部屋まで送らないと帰らないし。それとよく食うからよく食料難になりそうになる」
「……は?」
ちょ、ちょっと、
「あと腹出してソファでよくうたた寝しては起こすのにも時間かかr」
「やー!?ちょ、ちょちょっ!?ちょっと何言ってんのこんな時に!!」
やめてやめてやめて!!?
ちょっと!?恥ずかしいから!!
てかなんでこんなときにそんな話するの?これ嫌がらせ!?ほらネイチもネピアも口開けてポカンとしちゃってるじゃんか!空気終わってるってひどい!!
慌てる私の声が聞こえていないのか視線すら動かず優也は続けていく。
「そんな日々が続くうちに、いつもの何気ない日々が、驚くほど騒がしくなって……愛おしくて、守りたいと思えたんだ」
ドクン、ドクン、と優也の言葉に心臓が呼応する。
「そうやって人の世界を変えるほどの力をもったアイツが何もできない『鮫島財閥のお嬢様』?『可哀想な妹』?そんなわけねぇだろ!!」
優也から目が離せない。さっきまでの抗議はいつのまにかひっこんで、傾いた西日を体全部に受けながら堂々と語るその姿に夢中になっていた。
「じゃ、じゃああそこで座り込んで動かないのは何よ!!海に飛び込む勇気もない意気地なしが、なによりの証拠でしょ!?」
「俺は知ってる。アイツはそのぐらいの壁なんて簡単にぶっ壊す。知らない世界に足が震えたって必ず飛び込んでいく。それにそもそも何が怖いだ。全部嘘かもしれないとか、姉ちゃんに嫌われてたかもとか、そんなの──」
優也はクルッと横にいる私へ顔を向ける。その恐ろしい真っ赤な瞳には光が満ちていて、深い海の中に沈んだ私の心を強く照らし出す。
「──嘘なわけあるか、嫌いなわけあるか!自分が受けたその愛を自分で信じなくてどうすんだ!」
「っ!!!」
「自分の信じる世界へ飛び込まずにはいられない。それが俺の知る『鮫島海美』だ!!!」
ぶわっ、と風が一際強く吹く。
そうだ。そうだ。私は──!
「ストーム!」
「オーケー相棒!まかせろ!」
聞き馴染みのある声に顔を挙げると空に舞う龍の姿。大きな大きな翼をはためかせ、シュルシュルと素早く追撃してくる植物の茎や飛んでくる鋭い葉っぱを避けながら体に空気を溜め込んでいる。
「海美!覚悟はいいな!」
「〜〜っうん!」
「バカが!あんたごとき何ができるっていうのよ!」
「できる」
「あぁ!?」
痺れはとれて、錨を下ろしたように動けなかった体は軽く、足も腕も言う通りに動く。
ドクンドクンと心臓が跳ねる。血と一緒に勇気を体いっぱいに運んでくれている。
そうだ。なんで気づかなかったんだ。怖くても辛くても立ち上がってこれたのは、私の心臓が昔も今もずっとずっとずっと勇気を体に送り出してきたからじゃないか!
「私はなんだってできる!!お姉ちゃんの真実を自分で掴むことだってできるし、それがどれだけ怖くて最悪な世界だったとしても自分の世界を切り開ける!!だって」
たっくさんの空気を肺に取り込んで、吐き出した。
「私は何もできない可哀想な妹でも、サメジマ財閥のお嬢様でもない、『鮫島海美』だから!!」
膝に手を当てて床を踏み締めるように力を入れて立ち上がる。まだ体が震えている。怖いんじゃない。未知の世界に飛び込む前の武者震いだ。
「私が私でいる限り、最強で無敵なシャークガールなんだ!!!」
そよそよと吹いていた優しい風は龍斗さんの暴風で荒れ狂い、前髪もろとも吹っ飛ばされてオールバックのようになった。あははっ!ちょうどいいや、よく見えなかった前がはっきり見えるよ!
開けた視界の先、優也が私を見て笑っている。
「やっと戻ったか。ったく、こっちの調子が狂うっての」
「ごめん、待たせたね。私はもう大丈夫!」
「な、な、なにが大丈夫よ!どうせ何も──」
「うるさい!!!勝手に私のこと知った気にならないでよなんっっにも知らないくせに!!」
「っ!?」
「お姉ちゃん……ううん、ネピア!!私は貴方を倒す。ザセルもみんなみんな倒して、全部を知るんだ!!」
「いや愛海は死んだのにどうやって」
「わかんない!!」
はぁ!?とネピアが声を荒げ、優也ははははっ!と朗らかに笑った。
「わかんない。わからないよ。方法もお姉ちゃんが何を思ってたのかもこの先の未来も、全部わからない。わからないから怖い……けど、怖いなんかじゃ私は止められない!ならいっそその未来に飛び込んで、私の世界を切り開くだけだから!」
シリンジを取り出す。すると横から穏やかな声がかかった。視線をずらすとさっき優也に柱に縛られたSPの人たちとその真ん中に、
「海美」
「お父さん?」
「妙なことを言うんじゃない。やめておきなさい。ほら、私と逃げよう。この紐を解いてくれないか」
な?と笑うお父さんはいつものように穏やかだ。けれど見えてるよ。夕日の光が見せてくれる。
今、冷や汗かいてるよね?
そうだよ。私はもう操り人形じゃない。私はあなたのために生まれてきたわけでもないし、鮫島財閥のために生きるわけでもない。
「お父さん、覚えといて」
「ストーム!!そろそろいけますよね!?」
「まっかせろ!いくぞ!!」
Blow away the mutation!
ふふっとつい笑いが溢れた。
お父さんに反抗するの、初めてかも
「私の理想は、強くて頼りになるかっこいい王子様みたいな人だから!私よりもずっとずっとつよーーい人ならお見合いしてあげる!」
「な……!?」
ちょっと意地悪に笑ってあげた。お父さんは鳩が豆鉄砲を食ったような表情。ごめんね、私はもう小さな世界に収まっていられないの!
「ファイナルドラゴンブレス!」
「海美!!風に乗って飛び込め!!!」
「うん!!」
船の外へ向かって助走をつけ、背中に強い風を受けて大空を舞う。
海が輝いている。キラキラと夕日の光を反射して、沈む夕日に向かって光の道ができている。
あぁ、この景色は。
『おひさまきれい!キラキラの道きれい!さっきまで見えなかったけどみえた!』
『海美も大きくなったら普通に見えるよ』
『うみ、お姉ちゃんみたいにおっきくなる!』
『あはは、楽しみだなぁ』
溢れた大きな涙が一粒、風へ運ばれていく。
見えたよ。私、大きくなったんだよ。
「海美!!!」
「海美ちゃん!!!」
「っ、優也、龍斗さん!」
首を後ろに向けると下に小さくなった優也と上空少し離れたところに龍斗さんの姿。
「大丈夫!!絶対大丈夫だ!!」
「だいじょーぶい!!俺たちがついてるからね〜!!だから」
「迷わず飛び込め!!」
「迷わず飛び込んでおいで!!」
「うん。私はもう、怖くない!!!」
Spark!Ready for injection!
あれだけ恐ろしかった海が、重苦しかった呼吸が風に煽られて消えていく。
心臓が飛び跳ねる。初めて動いたその日から、ずっとずっと無尽蔵に溢れ出る勇気に、止められない好奇心が加わってさらに鼓動を早めていく。
あぁ、君が気づかせてくれた勇気で飛び込む未来には、どんな世界が待っているんだろう。
大海の上、大空の中で世界が私を知っていく────
────私が世界を見つけていく!
「change my feature!!!」
Genes are promoted!




