#13-1 奇妙な姉妹
あの時、私がもっと大人だったら違う結末だったのかな
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#16 Before the spark
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「海〜美〜!?ほら、早く行こうよ」
「うー……」
10年前2月某日───特殊遺伝子細胞総合研究所2階、大ホール講師控室にて。
控室の机の下にうずくまる少女に姉が声をかける。ぐずる妹に交渉は難航しているようで、もぉ〜としばらく唸り声を上げていた。
「もうそろそろ本当に行かないとだよ。ね、行こうよ。美味しいご飯もあるんだよ?」
「やだ」
「うーん……何が嫌?」
「だって、色んな人がうみのこと見てくるんだもん。ジロジロ」
「あー……」
かの鮫島財閥の2人娘。それが注目されてしまうのは仕方のないことだろう。殊更財閥の後継者である海美は、自分──愛海よりも注目されている。
視線が気になってしまうのも無理はないのだろう。でもかと言って父にパーティを楽しむようにと言われている。その言葉の裏にはコネを作っておけ、という圧もある。
自分ではなく、海美とお偉いさんのコネ。
自分はただの監視役だ。
ぎゅう、と愛海は拳を握る。軽く白んだ指先はもう見慣れてしまった。
「お姉ちゃん?」
サメジマの血を受け継いだ海美にしか興味を持たれていないことなど、今更。
「お姉ちゃん!」
「っ、あ、ごめん。あーもーほら、ちょっと話すだけだからさ。ね?お姉ちゃんと行こう?」
「うー……お姉ちゃん、側にいてくれる?」
「もちろん。ほら、お姉ちゃんと一緒なら怖くないよ」
愛海が手を差し伸べれば、少女──海美はその手を取って机の下から出てくる。
服についてしまった埃を払ってやって、服装を整えた。
「さ、行こう」
「うん」
手を繋いで会場となる広いホールへ入れば、そこにはたくさんの人間がパーティを楽しんでいた。
綺麗なスーツを身にまとい談笑する男性の集まりがいれば、並べられた料理をすべて攻略しようと平皿に盛り付けていく学生まで混ざっている。だいぶフランクなパーティとは聞いていたものの、そのあまりの緩さに張っていた愛海の緊張が解けた。
良かった。お父さんがいないから何かあったときに対応しきれるか不安だったけど、本当にフランクだ。だからお父さんも帰ったのかも。とにかく今回は研究事業のコネを作ることを目標にしよう。
「わぁ、広いね!」
「ね。じゃあお姉ちゃんと孤虎教授に挨拶いこっか」
「うん!」
このパーティは孤虎教授の受賞パーティという名目だ。詳しい話はまだよくわかっていないけど、資金援助をしたのが鮫島財閥だったから呼ばれたって話だし。
海美と手をつないでパーティ会場を進んでいく。進むにつれて、周りのどよめく声と視線が二人を囲んだ。
鮫島財閥の跡継ぎだ。
あの姉のほうか?
いや、妹の方らしい。じゃなきゃこのパーティにあんな小さな子がくるわけがない。
なら姉はなんでいるんだ?お守じゃないか。
「うぅ、お姉ちゃん……周りの人、何言ってるの……?」
「聞かなくていいよ。お姉ちゃんについてくるだけでいいから」
「う、うん」
目線すらやらず目的の人物のところまで一直線に歩く。
自分がサメジマの血を、鮫島の才覚を継がなかった話はしつこいマスコミにばれてしまっている。もうだいぶ昔の話だ。学校での陰湿ないじめにあっていたことがバレた。サメジマの血を持つものならあり得ない話なのに、という話から広まってしまったみたいだ。
くだらない。
くっだらない。
そんなものに縋っている父親を心の中で何度見下したことか。それが本物かまやかしかなんてことすら興味がない。それより、そんなもののために好奇の目にさらされて。
「なんでうみたちのこと、そんなに話しているのかなぁ」
「なんでだろうねぇ」
言ってやらないのは、優しさなんかじゃない。
閉じ込めたはずの心の闇に見ないフリをした。




