#12.5-6 とんでもない勘違い
電気を消しそーっと扉を開けて外に出る。書類の期限が明日のものから取り組むか。あとは……
「り、龍斗、さん」
「!?」
恐る恐るかかった声に驚いて振り向く。びっくりした!
「海美ちゃん!?ど、どうしたの」
「あ、いや、その……」
「もしかして優也に用事?だとしたらごめんね、明日じゃだめかな。今日ちょっと体調悪いみたいだから。俺でよければ──」
「ううん、そういうことじゃなくて」
珍しく困り果てた顔だ。いつもならストレートに色々思うことまで全部言ってくれるのに。それほどまで言いづらいこと?だとすると人か場所かタイミングか、どれをチューニングすべきか。
「あのね……ごめんなさい!」
「えっ」
「その、部屋の中の話、聞こえてきちゃって。盗み聞きしちゃったの」
「え、あぁそんなこと。別に全然構わないよ」
なんだ、そんなことか。急に謝られると驚いて身構えちゃうな。というか、そんなにこのドア薄くないんだけどな。優也みたいに耳がいいなぁ、鮫だからかな?
気にしないで、と呑気にヒラヒラと手を振る俺に何故か海美ちゃんはありえない!という顔で驚く
「いやいやいや構わなくないよ!わ、私、そんな仲だって知らなかったし!」
「え?」
「えっ」
「ん?」
「……あ、その………私、そういうのちょっと鈍いっていうか、鈍感で……」
鈍い?鈍感?どういうこと?
俺も酒に酔ってるのかな。海美ちゃんの言葉は思い当たるものに引っ掛からずに全然頭が回らない。俺たちの仲?なんの?
「ごめん海美ちゃん。俺今お酒飲んじゃって思考回路が鈍いんだ。ストレートに聞いてもいい?」
「お、お酒……!?はわわ……やっぱそういうことしてたんだ」
「……ん?」
そういう、こと?
嫌な汗が伝う。
目の前の純情な少女は意を決したような表情で、爆弾を落とした。
「その……ごめんなさい!私2人がお付き合いするって話聞いちゃったの!!!」
「え」
「偶然この部屋の前通ったら優也が『じゃあ俺と付き合えますか』みないなこと言ってたの聞こえちゃって、ダメだって思ってすぐ離れようとしたら、龍斗さんの声が聞こえて」
「まっ……て?」
「そう考えたら10年ずっと一緒なんだし、そりゃ好きにもなるって今気づいて!前からそういう感じだったのかなとかほんとごめんミリも気づかなかった!」
「ちょっと待って」
「その後その、顔赤いのは誰のせいとか……溢れる水の音とか……きゃーーー!ごめんなさい私まだ18になったばっかりだからそういう耐性ない!!」
「待って海美ちゃん。お願いだから止まって、待って!?」
焦る俺の言葉は届かず、手をぎゅっと握られる。海美ちゃんはキラキラとエフェクトがかかりそうな清々しい、そして幸せそうな笑顔で俺を見つめている。いや何これ?何?なんで聞き間違いって可能性が排除されてんの??
「私のことは気にせず、末永くお幸せにね。大丈夫誰にもいわないから!」
「勘違い!それ勘違いだから!!違うって!」
「照れなくていいってば〜お邪魔虫は消えるって!じゃあね!」
「待って海美ちゃん待って!ちょっと話聞いて!!!」
するりと脇を抜けて階段の方へ駆けていく。待ってと叫ぶ俺の声は静かな廊下に虚しく響いただけで、彼女の足を止めることはなかった。
*****
溜まっていたはずの事務仕事はファイルにまとまっている。
体を起こすと眠る前の怠さはどこへやら、軽くなった頭がはっきりと世界を捉える。
洗濯機の中には綺麗になった衣類。ラックに並んだ食器に汚れは一つもない。
隣に並び立つ相棒。それでもその背中には、
「……敵わないな」
いつもの朝が始まるまであと30分
海美からとんでもない勘違いを聞き卒倒するまで、あと1時間。




