#9-20 恐れと答え
「で、そんな見た目詐欺の天才様はなに考えてるわけ?」
「んー?何の話?」
「惚けんなよ。優也の話だ」
「フレイムくん?あーmortal evolutionの話かい?あれはちゃんと承認と許可取ってるからね、本人の意思込みで!」
「いつ作った」
「実験やった日の深夜には作り終わってたよん。あとはフレイムくんの血液で最終調整をあの場で終えたんだ。ま、天才だからね」
「あんなの優也の身を削るだけだ。目を覚ましたから良かったものを、万が一が合ったらどうするつもりだったんたよ」
「身を削るだけ?違う違う。アレがあったからこそ、そしてフレイムくんがそれを選んだからこそ君たちはここで5体満足、僕ちんと会話できているんだよぉ?そこんとこわかってる?」
ぐっと龍斗さんが押し黙る。それを言われると確かにそうなんだけど、でもだからって優也1人にあんな背負わせてしまった。
「それでもあんまり優也にお痛するなら、こっちも考えるけど」
「考えるぅ〜?僕ちん以上に龍斗が何できるっていうのさ」
へらへら笑いながら的戸さんが煽ると龍斗さんが的戸さんの胸ぐらを掴む。
「優也はまだ20だ。まだ、まだ20なんだぞ!?」
「立派な大人じゃない。だろ?」
「大人とはいえ、まだまだ子供だろ!!未来があるのにあんな化け物に変身して……何か、もし万が一があったら俺は!」
「お、俺は〜〜?」
「……俺はきっと、SCRを許さない」
少しの間を空けた後、地を這う低い声。いつもの軽く明るい声じゃない。いつもの優しさは陰も見ない。顔は見えないけど、その威圧感でどんな表情なのか伝わってくる。的戸さんも珍しく軽い返しができず、目を大きく見開き興味深そうに龍斗さんを見つめる。
「驚いた。龍斗、君はフレイムくんのことをそんなに……本当に家族だと思っているのかい?」
「だったらなんだ」
「あっははは!あはははははははは!!!あー面白い。でも安心しなよ。彼は特異生物だ。心臓が止まらない限りは死ぬことはないよ」
言葉こそ明るい調子の的戸さんも声が少し震えて。わかる。本能的に震えてしまう。怒りの矛先じゃない私だって怖い。
怖い、かぁ
「……怖かったな」
「え?」
龍斗さんが明るいトーンに戻って私を見る。
「あ、いや。……優也のアレ」
「mortal evolutionね!僕ちんのネーミングセンスったら最強じゃな」「大丈夫?」「聞けよ」
今日初めて見たあの姿。全てを焼き尽くして佇む姿は恐ろしくて、優也の声なのに優也だとは信じたくなくて。それに
「本当に化け物みたいだった。前から特異生物なのはわかってるけど、それでもあんなの……」
「海美ちゃん」
「なーに言ってんの!変異だらけの細胞しといて今更何怖がっ」「お前はだ・ま・れ!!!」「ひんぎゃぁああああ!?」
また龍斗さんが的戸さんの頭を締め上げる。いつもの軽快な2人のやりとり。それでもなおあの時の恐怖は体に染み付いて離れない。
「優也、今後ももしアレになるなら死んじゃうんじゃないの?それに」
「それに?」
「それに、私も、」
あんな化け物になるの?
「………」
言葉が出ない。息はちゃんと吸えるのに、喉の声帯が取られてしまったみたいに声の出し方がわからなくなって、言葉が出なかった。優也にとって酷い言葉だから出なくて良かったのかもしれないけど、龍斗さんに不信感を覚えさせるのには充分すぎた。
「海美ちゃん……?」
「鮫島さーん。お入りください」
「あ、はーい」
看護師さんに呼ばれて席を立つ。良い助け舟だ。
「ちょ、海美ちゃん」
「私これ終わったら先部屋戻っとくね。じゃ!」
何か聞きたげな龍斗さんを置いて処置室に入る。怖い思いも辛い時も、1人でいるとますます嫌になってしまうからこそ、龍斗さんと優也と一緒にいて笑って支え合って乗り越えればいい。いつもはね。でも、今は。
今は少しだけ、1人が痛くともホッとするの。
龍斗さんの手を振り払う。それが私の応えだ。




