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番外編☆一度目の第二王子の憂鬱

一度目の第二王子視点、王家の内情です。

俺の名前はステファン、この国の第二王子だ。そこそこ優秀な兄がいるから、俺はお気楽な第二王子の身分を割と気に入って生きている。


そんなそこそこ優秀な兄には婚約者がいる。

公爵令嬢のミルシェ・ハヴェルカだ。他の令嬢にはない神秘的な美しさのある妖精のような女性だ。

物静かで何をしてもソツなくこなす。未来の王妃として何の問題もない人だし、未来の義姉だと思うと割と楽しみだったりする。


ただ、兄はそんな彼女をあまり良くは思っていなかった。

別に嫌いというわけじゃない。

どんな無理難題も嫌な顔一つせずこなしてしまう彼女は、人形のようで面白みがないと兄は思っているようだ。


そもそも兄はマザコンの気質がある。母のように気が強くてはっきりものを言う女性が好みなのだ。ただ黙って自分の三歩後ろからついてくる女性に魅力を感じないという特異体質。


それでも婚約者として傍目には問題なく過ごしている様子だったので、このまま何事もなくミルシェ嬢が王妃になると思っていた。


そんな中、俺はある男爵令嬢と出会った。

彼女はとても魅力的で、俺の好みにピッタリの女性だった。

彼女をどう口説こうかと考えている時に、俺は彼女が兄と話しているところを偶然見かけた。


いやいや、あれは違うだろ。


俺が思い描いていた彼女とは全く違っている。どういう事だ?

それから俺はマリー嬢を観察し始めた。


彼女は王族や高位貴族の令息達をかなり上手に手玉にとっていた。まるで個人の好みや悩みを予め知ってるかのようだ。

どこかの間者かと思い調べてみたが、特に怪しいところはない。

彼女の父親も良い噂を聞かない男だが、悪党という程の人間でもない。

一体何が目的だ?


彼女は特に兄に積極的に関わっているように見える。そんな彼女に兄の方も満更ではない様子だ。


おいおい、まずくないか?兄よ、あんた婚約者がいるじゃないか。

俺も婚約の話は出てるけど、隣国の王女だし年齢差も大きいから少しくらい遊んでも良いかと思っていたんだけど……駄目?

まあ俺の事はともかく、兄よ、あんたは本当にヤバい。


救いは兄が本気で手を出していないことか……。好意は持っているが、ただそれだけだ。

しかし一応釘は刺しておいた方がいいかな。


「兄さん、あまりマリー嬢だけを特別扱いしない方がいいんじゃないか?」


ある日、兄にそう伝えた。


「お前まで……、彼女はただの友人の一人だ」

「お前までって?」


俺の質問に、兄は眉間に皺を寄せた。


「……ミルシェ嬢が苦言を呈してきた」


兄の言葉に俺は思わずため息をついた。婚約者に苦言を呈されたって本当に不味いじゃないか。


「それなら少し自重した方が……」

「私は別に彼女とやましい関係ではない」


いやいや、それは分かってるよ。あんた結構ロマンチストだもんな。純愛に憧れてる乙女かっての。


「でも、婚約者に文句言われたんだよね?」

「……別に彼女は気にもしてないだろ。婚約者の立場として一応言ってきただけだ。

彼女は私を好きなわけじゃない。元々母に憧れて王妃みたいになりたいと言って婚約者になっただけなんだから」


あー、兄さん拗らしてるよ。確かに初めはそうだったって話は俺も聞いたよ。

でも兄を支えられるようにってミルシェ嬢頑張ってるよね?

確かに情熱的な愛は無いかも知れないけど、穏やかな愛はあると思うよ、多分。

そうでなければ、王妃に憧れてってだけであそこまで王妃教育を頑張れないだろ。


「それに、爺様だって上手くやってたじゃないか」

「それは……」


そこいっちゃうかー。いや、うん、気持ちはわかるよ。

俺達の父親、つまり現国王は母の王妃一筋だ。側室も妾もいない。

ただ俺達の爺様、前国王は本気で好色爺様だった。

気に入ったらポンポン側室や妾に迎えていた。もちろん時代的に、政治的な理由でって事も多かったんだけどさ。


でも爺様は本当に女性たちの調整が上手かった。王妃を一番大切にしていたし、側室や妾の誰か一人を寵愛するという事も無かった。みんな平等。みんな大好き。

爺様は特に兄を可愛がってたし、兄も爺様を慕ってたのもあって側室とか妾に抵抗がないんだよね。


けど、兄よ。あんたそんな器用な真似が出来る人間じゃないだろう?


「とにかく、別にマリー嬢とどうこうなろうなんて気はない。友人の一人として付き合っているだけだ」


あー、もう頑なだなぁ。まあ……兄さんの初恋ってやつか?無理矢理引き裂いても余計に拗らせるって事もあるし、少し様子を見るしかないか。


そう考えていたのだが、問題が発生した。マリー嬢が令嬢達に虐められ始めたのだ。

そりゃ、あれだけそこそこ人気のある面子と仲良くしていれば、やっかみも受けるだろう。

まあ、面白がって近くにいる俺も人の事を言えた義理じゃないが。


そんな中、虐めていた令嬢達がミルシェ嬢に頼まれたと証言し始めたのだ。

そこで坂を転がるように、一気に兄の気持ちが変わってしまったように思う。


俺は正直半信半疑だったが、令嬢達もミルシェ嬢の名前を出せば済むような風潮があったのか、そういう証言がそこそこ出て来てしまった。

こうしてだんだんと兄も婚約者に対して、冷たい態度をとるようになった。


冷静に考えて、虐めていた令嬢達がミルシェ嬢の友人達とは違う事に気がつくべきだったが、兄も俺達もそこに気が付かなかった。ミルシェ嬢の友人が多かったから……言い訳だけどね。

そういう経緯があったからこそ、ミルシェ嬢に対してなんの疑問も持たずに疑うという下地が出来てしまったように思う。


そして毒殺未遂という事件が起こってしまった。


ミルシェ嬢が毒殺を行おうとした証拠をトリスタンが入手し、そして彼女も毒殺未遂について認めた。


違和感を拭えないまま彼女はこの学校から姿を消し、最悪な結果を迎えてしまった。


この件で全員制裁を受けた。いわゆる性根を叩き直してやるという厳しい再教育。もちろん俺も。

親父様達の再教育はかなり厳しかった。あれはもう虐待に近いと思う。いや、俺たちが悪いんだけどね。


唯一の救いは、今回の件が公にならなかったことだ。

5年の謹慎処分が終われば、ミルシェ嬢が社交界に戻る事も可能。

王家と公爵家の醜聞となる今回の件は隠しておきたい事だから、妥当な処置だったと思う。

ただ病気療養という名目上、ミルシェ嬢の行く末に不安はあるけど、彼女結構人気があったから陰で想ってる奴も多いと思うし、嫁ぎ先に困るって事も無いと思いたい。


そして今回の件で一番父達が頭を痛めたのがマリー嬢の事だ。処罰の対象にするほどの事を彼女はしていない。

高位貴族の令息に粉をかけたのは確かだが、それに引っかかった男達の方が悪いというのは一目瞭然。

ただ彼女はことごとく男達を落としていった手腕を危険視された。

俺がどこかの間者かと疑ったように父達も疑ったらしい。けれど何も出て来なかった。


そんな怪しさ満点のマリー嬢を間違っても王妃にさせるわけにはいかないし、また問題を起こされても困るので、放置するのも避けたい。

そこで考えられたのが王家による囲い込み。

つまり兄の妾としての地位を用意して、監視対象とし後宮に身柄を拘束するというわけだ。本当に縛るわけじゃないよ。

もちろん子供なんて以ての外なので、彼女が子を産む事はない。


一応外聞が悪くならないようにマリー嬢に少し厳しめの王妃教育を行わせ、王妃としての地位を諦めさせるという手法がとられた。彼女はあっさりと投げ出し妾の地位におさまることを了承した。


そう考えるとマリー嬢は王妃になりたいとかではなく、ただ兄が好きだったって事なのかもしれない。


兄もかなり複雑な気持ちだったと思う。好きになった女性を妾にして監視しなければならないわけだからね。

そのマリー嬢も妾になって落ち着いてからは、本当に普通の子になった。気が強そうな発言をするわけでもなく、泣き喚くわけでもなく、ただ妾としてのんびり生活を楽しんでいるといった風だった。ちょっと拍子抜け。


そして次期王妃として王太子妃となったリオノーラ嬢は思っていた以上に上手くやってくれている。


「まあまあ、女性達も満足に管理できない方が次期国王だとは嘆かわしい。今のままだと本当にただの恥晒しですわね。

純愛を貫きたいのでしたら、さっさと王籍を外れてはいかがです?その方が臣下も民も安心するでしょう」


婚約者として正式な顔合わせの際に、リオノーラ嬢が兄に放った言葉である。

全員度肝を抜かれた中で、母だけが楽しそうにしていた。

母はミルシェ嬢をかなり気に入ってたので、相当兄に腹を立てていた。だからリオノーラ嬢、やっちまいな!って感じで許可を出したんだと思う。

一番怒らせてはいけない人を怒らせてしまったね、兄よ。


というかリオノーラ嬢がこんな人だとは知らなかった。見た目はキツイ感じはするけど、普通の大人しい女性という印象だったからかなり驚いた。

ウダウダしてた兄もそこで目が覚めたという感じだった。


一度だけリオノーラ嬢に兄の事をどう思っているか聞いたことがある。


「馬鹿な子ほど可愛いと言いますでしょう?嫌っているわけではございませんわ。

ただ私、ミルシェ様が可愛らしくて頑張り屋さんで好きだったんですのよ。

だから、そう簡単に夫として王太子として認めるつもりはございませんの。暫くは苦しんで頂きますわ、おーっほっほっほ!」


あの時のリオノーラ嬢は女王様に見えた。

事実、彼女は見かけでは王太子を立てる完璧な王太子妃を演じていたけれど、内情は全く違っていて兄を虐げていた。

虐げていたとは言い過ぎか?精神をゴリゴリと削っていたのは確かだけど。


そんな精神的にゴリゴリと削られていた兄が、ミルシェ嬢やマリー嬢への罪悪感も相まって、マリー嬢の所に行く足が遠のいてしまったのも無理からぬ話だったのかもしれない。


兄は素直にミルシェ嬢と結婚した方がよっぽど幸せだったかもなぁ。


ミルシェ嬢の謹慎が解けるのもあと少し、彼女は今後どうするつもりなんだろ?

ハヴェルカ卿は彼女をどこかに嫁がせる気なのだろうか?


そんな呑気な事を考えていたから駄目だったのかもしれない。

ミルシェ嬢が亡くなったと聞いたのはそのすぐ後だった。

思っていた以上に俺はショックを受けた。


ああ、俺ミルシェ嬢の事結構好きだったんだなぁ。


久し振りにマリー嬢に会いに行ったのは本当に気まぐれだった。

何だか見てると苛ついて、ついつい嫌味な事を言ってしまった。


最低だな、俺。マリー嬢に八つ当たりとかホント情けない。


ルーファス視点で入れようかなと思っていた内容なんですが、彼が王家の内情をそこまで知っているのは不自然だったので大幅にカットした部分です。

大幅にカットすると、第一王子がただの屑になってしまったので一応救済も兼ねてです。救済になってないですかね?

需要なかったら、申し訳ないです。


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[一言] うん!反省あり、救いあり、幸せあり。この手のタイプで一番好きかも。心残りは第二王子かなぁ。幸せになってほしいなぁ。
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