SSー6-2.
そうこうしている内に、日は西へと沈みかけており、楽しい一日も幕を閉じようとしていた。
庭園に夕日が差し込んでおり、人はまばらに散っていた。
『今日はありがとうございました。すごく、楽しかったです』
『どういたしまして。喜んでもらえたようで、なにより』
『……どうしてですか?』
『ん?』
『どうして、ここに連れて来てくれたんですか?』
突然誘われて。決して嫌なわけではなかったけれど疑問ばかりが残った。何故、私と一緒に出掛けてくれたのか。
『俺がそうしたかったから』
『ーーっ』
『出来た時間を、君と過ごす事に使いたいと思った。それだけだよ』
そうやって。
きっと、私は掌で踊らされているのだ。くるくるくる、と。それでも構わない、構わなかった。気持ちはせき止められず、目の前の腕に縋った。
『……き』
『うん?』
『……好き』
ぴくりと。その腕が不自然に動いた。
『律さんの事、好きに、なってしまいました』
『……そう』
『どうしたらいいでしょう』
『そうだねぇ』
手を取られて、そっと離された。
『どうしたい?』
疑問を投げかけられる。
『付き合いたい? 恋人同士になりたいって事かな』
『……』
『いいよ。でも、会える時間は限られるけど。ほら、お互い仕事があるし。それでも良いならね』
『……』
『俺は休みが不定だから、合わないとメッセージだけのやり取りになっちゃうけど』
それでも、と。
『いいですよ』
それでも構わないと思った。それはそれで、律さんの生活スタイルが分かるし、会える時に存分に会えれば良いとさえ思った。
『会えない分、会った時に目一杯甘えますから』
『ーーは』
『ただし。付き合ってるという名分がある以上は、メッセージは返して下さいね。コミュニケーション、取らないとですよ』
それから、会った時はちゃんと名前を呼んで下さいね。会えたっていう実感が欲しいので。
『あと』
『なに?』
『もし……付き合ってくれる気があるなら』
これは絶対条件だ。
『私の事を好きでいて下さい』
気持ちがないまま受けないで欲しかった。
『それが無理なら今フッて下さい』
そう言って頭を下げれば、少しだけ息を吐く音が聞こえて。続けて、ふわりと。暖かな腕に閉じ込められた。
『本当、どうしようもないね』
『……すみません』
『違くて。俺の事。君の事を甘く見てた』
ぎゅうっと、力が強まる。
『その気がないのに、受けたりしないよ。意地悪言ったね』
『それって……』
『澤白さんこそ、俺みたいのでいいの?』
『い、いいです。律さんがいいです……!』
『そ? ありがと。じゃあよろしくね』
その日、私と律さんは今までよりも特別な関係になった。律さんの気持ちを、明確な言葉で聞いた事はなかったけど、態度を見ていれば大事にしてくれている事は一目瞭然だった。私も律さんが大好きだから、この縁を、関係を、壊さないように大事にしようと思った。律さんと出会ってから、もうすぐ一年が経つ。そして、気付くのだ。いや、気付くのはもしかしたら遅かったのかもしれない。
私はいまだに、彼の事をよく知らない。