SSー7.誇り高くラバンジュラ
優雅にティータイム、とまでいかなくてもやはり三時のおやつタイムは満喫したい。そう思い立ったのは、おそらく食欲の秋だからだろう。お気に入りのコーヒーショップに、最近新しくチャイラテが発売したのはリサーチ済みだ。これは飲みにいかなくては、と。そそくさと準備をして出かける。
今日は土曜日。仕事は休み、予定もなし。とくれば自分の時間を好きに使おうと思うのが普通だ。
好きな時間とは。やはり、真っ先に思い浮かんでしまうのは律さんだった。
昨日の夜、律さんにメッセージを送ってみれば意外と早く返事が返ってきた。しかもそれが、電話していい? とくればゼロコンマ数秒で返事をするあたり、まるで忠犬のようだと苦笑した。
『もしもし』
『早いね藤花ちゃん。もしかして、待ってた?』
『そ、そんなじゃないですけど。でも』
声聞けて、嬉しいです。そんな言葉が素直に言えるはずもなく。それはごくりと呑み込んだ。
『なに?』
『いえいえ。なんでもないです』
『そ? あぁ。そういえば』
律さんは電話越しにごそごそと何かをしているようだった。
『来週末、時間ある?』
そんなの二つ返事で了承するに決まっている。
どうやら律さんがお休みのようで、一緒にお出かけしようってお話だったのだ。うわぁ……久しぶりじゃない? やばい、おめかししなきゃ。
今日はチャイラテを飲むのは勿論だけど、来週着る服を購入するのも一つのミッションだ。
チャイラテを飲み、一緒に頼んだジンジャークッキーを食す。美味い。
美味さを噛み締めといると、カランと扉が開く音がした。そちらに目をやれば、青年が一人、入店してくる。彼はきょろきょろ辺りを見回して、店員が近付けば奥の席へと案内されていた。よく見れば結構なイケメンだ。若いがスーツはよく似合っている。そしてあのネクタイ。臙脂色とは渋い趣味だ。なんか似たような色、律さんも持ってたな。
最近律さんの事を思い出すと、よく思う事がある。私は律さんの事をいまだによく知らない。
改めて彼のプロフィールを聞くのも、なんだかおかしな話だし、かと言って自然な流れで聞いてもイマイチ答えが返ってこない。私にだって、必要最低限、知りたい事はあるのに。例えば年齢、住んでる場所、お仕事は何しているのか、とか。何を大切に考えていて、何に対して怒るのか。好きなものは最初に食べる派? 後で食べる派? あぁ、違ったな。これは必要最低限とか言う話じゃない。私は、律さんの事は何でも知りたいと思うのだ。大きな事から小さな事まで。
「いらっしゃいませー」
深くなりそうだった思考が、店員の声で引き戻される。次に律さんに会った時は年齢を聞いてみよう。そう決心したところで顔を上げたら。
「え……」
思わず声が漏れた。店の入り口付近に、見知った顔がいたからだ。今日もスーツ姿である。すらりと伸びたおみ足は、憎たらしいほど長い。
「律さん」
私に気付く事なく、そのまま店の奥に入って行く。そして、さっきのスーツの青年の向かいの席に座った。ーーあの二人、知り合い?
青年はにこにこ笑っていて。律さんはちょっと疲れたように、彼と話していた。仕事仲間かな。って事はこの辺が職場とか? な、なんて会話してるんだろ。同僚と話す律さんとかめちゃくちゃ貴重なんですけど。やばい、近付きたい。声が聞きたい。
ちょっとくらいなら、と。出来るだけ顔を隠しながら、その席の横を通ってお手洗いに行くフリをする。
「……いは、良かったですよね。……んは、ーー」
よく聞き取れない。
「ところで……」
うーん。バレずに近付くのは無理そう。やっぱり盗み聞きは良くないか。そのまま自分の席に戻ろうとした瞬間。
「彼女でも出来たんですか?」
青年が律さんにそう問うた言葉だけはハッキリ聞こえた。
え? なに、そういう会話なの? っていうか、めちゃくちゃ気になるんですけど。
それからの会話はちゃんと聞き取れなかったが、律さんが会話の最中に少しだけ険しい顔をしたのが気になった。




