SS-17-2.
淡い光が窓から差し込み目が覚める。朝焼け、だ。体を起こそうとするが、力が入らなくてごろりと寝返りを打った。んんん? 私、どうしたんだっけ? たしか、お風呂……そうだ、律さんとお風呂に入ったんだ。それで……思い出すだけでも恥ずかしい。いちゃいちゃ、した。ごろんともうひと寝返りを打つと、はだけた胸板が目に入った。
「ーーっ!」
そうだ。その後、ベッドまで連れて来られたんだった。体を拭かれて、浴衣を着るのもそこそこで、寝室に連れて来られたのだ。
「あああ……」
とんでもなかった。とんでもない光景だった。この人は本当に分かっててやったのだろうか。こんなにも、美しいと思う男の人に初めて出会った。あり得ない話だが、思い出すだけで体が震える。その首筋を通る汗だとか、苦しげに吐き出された息だとか。あまりに夢のような感覚で我を疑う。
しかし。隣に眠る律さんを見れば、それは間違いなく現実だったのだと実感するのだ。
「……ん」
起きてしまう。
「……藤花?」
うっすらと開いていく目はまるで、開花していく花のようだった。
「おはようございます、律さん」
「おはよ。早いね、目が覚めた?」
「はい。ちょっと冷えてるから」
「そうか……もうちょっとこっちに」
「ーーふふ。暖かいです」
「それは良かった。ストーブも良いけど、人肌でも充分だね」
「安心します」
「ーー身体は平気?」
「はい、どうにか」
なんだか、そんな会話は照れ臭くてもごもごしてしまう。優しげな表情をしている律さんに、私は身を寄せる。
「藤花?」
「はい。あのですね。私は律さんとこうなって、とても嬉しく思ってますよ」
「そういう事は言わないの。心に留めておきなさい」
「えへへ。でも、本当だから」
人は言葉で表せない分を、体で表現する。どこかの芸術家が言っていた台詞だ。だから、これもきっとそうなのだろう。
「律さんに好きになって貰えて、嬉しかったから」
「……」
「だから」
「藤花ちゃん」
ごろん、と。横にいたはずの律さんが上にくる。上?
「律さん?」
「藤花ちゃんは一体全体、今まで何人の男どもを手玉に取ってきたのかな?」
すっ、と。耳元に顔を近付けられて、囁かれる。ひぇ。
「そういう事を言うと、男はね」
まるで内緒話をするように。
「調子に乗って、その子を独占しようとするんだよ」
でもね、と続けられる。
「君はもう俺のだから、他の奴には独占させられないね」
「独占欲ですよ、それ……」
「人並みにね。藤花ちゃんは俺の事を甘く見過ぎ。俺は結構、酷くて狡い男だよ」
こうして、君を離さないくらいにね、と。じわじわと苦しくなる。それは、胸を締め付けられる感覚。
つまりそれは。彼が、好きだと、心が叫んでいた。
「律さん」
「なに?」
「好きです」
「うん。もう少し……ゆっくり眠ろうか」
律さんに身を寄せて、その言葉を反芻した。私の言葉は、律さんに伝わっただろうか。気持ちは、貴方に届いただろうか。ほんの少しの不安と幸せに包まれながら、私はそっと目を閉じた。




