7 お萩でゴールイン!
南部にプロポーズされた結花は、親に報告する前に、自分が三年間、何をするのかを真剣に考えた。
南部が医者だから、医療事務の資格を取る? ちょっと違う気がする。
結婚はしたいけど、全て南部に合わせるのは、結花的には無理だ。
昨夜も自分が何をしたいのか? あれこれパソコンで探索したけど、わからなかった。
「一つだけ決めた事がある! 経済的に自立したい」
就職活動は、大変だった。その上、やっと就職できた会社は、赤字でクビ!
本屋の仕事は嫌いじゃないけど、バイトでは食べていけない。
勇気を振り絞って、次に入る書店の正社員にして貰おう! とまで決意した結花だが、やはり無理だった。
「基本的に、パートかバイトしか募集していません」
そうだよね! がっかりしたけど、こうなったら、今の書店に掛け合おう。
「店長さん、正社員になりたいのです。前に難しいとは聞きましたが、チャレンジさせて下さい」
水嶋店長は、いつもはおっとりとした結花の真剣な顔に驚く。
「前に話した時は、あっさりと聞いていたけど、何か事情が変わったのかい?」
実はと、婚約したけど、海外青年協力隊に三年行ってしまうと打ち明けた。
「ふうん、それは大変だね。こちらも、急に閉店するのは気の毒だと思っていたんだ。正社員になれるかは、面接次第だけど、本店に話しては見ておくよ」
一応は、本店に言ってくれるんや。結花が前向きに考えているのに、水を差すのは山田だ。
「ちょこっと聞いたけど、正社員の面接なんて、難しいよ。それに、何処の書店に回されるか分からないのに良いの?」
そのくらいわかっとるわい! と怒鳴りたくなったけど、我慢する。職場の人間関係もたいせつだからね。
面接まで、結花は大学時代の就活本を読み直したり、ネットで好印象を与える受け答えなどを調べて過ごす。
「結花ちゃん、今度、お家に行って挨拶したいんやけど」
携帯を持つ手が震える。
「それって……」
よくある『お嬢さんを頂きたい』って奴なの?
「研修が始まる前に、行きたいんやけど」
「えっ、研修? 聞いてないよ」
結花はパニック状態だ。結婚、海外青年協力隊、研修、面接!
「私、どうしたら良いんやろう。今度、正社員の面接を受けさせて下さいと頼んだんやけど、全然自信ないわ。言わな良かったかも……南部さんは、目標に向かって進んでるのに、私は足踏みどころか、二歩後退や」
ぐずぐずの結花を南部が宥める。
「自分から正社員の面接を頼むなんて、結花ちゃんしっかりしてるわ。それに、面接をするって事は、見込みがあるんちゃうか?」
山田に嫌味を言われてから、結花のメンタルはダダ下がりだったけど、少し浮上した。
「ありがとう! やるだけ、頑張ってみるわ」
携帯を切られた南部は、結婚の申し込みをしに行く話はどうなったのかと頭を抱えた。
面接は、結花なりに頑張った。結果は、メールで来るそうだ。
「お祈りメールは御免やで!」
就活中、何通ものお祈りメールを受け取ったのを思い出す。
「結花、あんた暇なら、お萩作るの手伝うて!」
いつの間にか、秋のお彼岸のシーズンになっていた。
「お萩と牡丹餅、ちがいは無いんとちゃう」
母親が、鬼の首を取ったように「春やから牡丹、秋やから萩なんやで!」と言う。
「そないな事は知ってるよ。どちらも一緒やなぁと言ってるんや」
今日の結花は、センシティブな気分。お祈りメールと彼岸がクロスしたのだ。
「これ、南部さんに持って行ったら?」
付き合っているのを察して、母親は時々こうしたカマを掛ける。
「あんな、今度、挨拶に来たいと言ってたわ」
母親の手からお萩が落ちた。まぁ、皿の上やから、大丈夫やったけど。
しもた! なんで言ったんやろう。
その後、母親から根掘り葉掘り質問されて結花は、ぐったりだ。
お萩で手が汚れていたから見なかったメールを開く。
「えええ、これって合格なんやよね!」
水嶋店長も難しいって言っていたから、半分諦めていた。
その日、南部は挨拶にやってきて、不機嫌な父親と上機嫌な母親から結婚の許可を得た。
「三年待たせることになるけど、勘弁してや」
「ええねん、今日は正社員になれて、浮き浮きやから、何でも許せる気分やねん。それに、婚約したんやもん!」
南部は、婚約より前に正社員かぁと呆れたけど、何とか三年間は待ってくれそうなのでホッとした。
三年後、結婚式の準備で大喧嘩になり「別れる!」と騒いだ挙句「やっぱ好きや!」と婚姻届だけ出して結婚することになる。
これに両親が激怒して、後から結婚式を挙げるのだった。
割れ鍋に綴じ蓋の二人だけど、いつまでもお幸せに!
おしまい
このお話を読んで下さり、ありがとうございました。




