閑話とある少女の述懐
最初から自らの命を犠牲にすることを考えていたわけではなかった。
始まりはどんな状況にも即応できる態勢を整えようとしていただけなのだ。誰もがログアウトできず、仮想の箱庭に幽閉されてしまった異常事態。そんな一寸先は闇の状況で、必要とされるものは先ずは力だった。異常状況下では、正論だけが人々の賛同を受けるわけではない。安全、それと安全を保証出来るだけの力こそが、多くの人々に求められるものなのだ。
だから作り上げた。自分の要求を満たしうるだけの対応力のある集団を。
自分たちを仮想世界に閉じ込めたと思わしき連中の言葉を鵜呑みにしたくはないが、世界からの生還方法は、自身以外の全人間の抹殺だと言う。あまりにも悪趣味な催しだけに、逆にその生存条件は説得力を持っていた。
少女はプレイヤー鏖殺という蛮行を実行出来るだけの力と、精神を兼ね備えた稀有な存在だった。もしもなんの制約もなければ、躊躇いながらもプレイヤーの抹殺という難行をやってのけただろう。
そう、掣肘はあった。
無くしたくない星が、天秤には含まれていた。
切り捨てるという選択肢は初めから存在しない。少女が他者を食い物にしてまで、貪欲に己の勢力を強くし続けるのは、ただ守りたいもの守るに足る力を備えようとしていただけなのだから。
守りたいものを切り捨てて。それで守る力を維持するというのは、手段と目的を履き違えた愚行に過ぎない。
命には価値の大小がある。
自分にとってどうでもいい花ならば、自衛のために摘み取ることも厭わない。それが人間の性だ。反対に大切にしたい星の為ならば、自らの命さえ捨ててしまえる。それも人間の性なのだ。
エゴと笑いたくば笑うがいい。少なくとも少女にとっては、地上の有象無象の花々を摘み取る事と、天に煌く星を撃ち落とす事は、文字通り天地の差があった。
だから少女は選択を迫られる。
この世界で比類なき力を手にしたのはいい。その過程で花々を踏みしだいたのも些細なこと。問題はその先にある。地上に墜落した星を、どうやって空へと還せば良いのか。少女の得た力は、壊すことには長けていたが、天空へ飛び立つ翼を生み出すような脳力には欠けていた。
奇しくも星自身の口から、天へ還る二つの方法は聞かされた。
自分の情報収集力の無さを嘆くべきなのか。それとも星の輝きに畏怖すべきなのか。
どちらにせよ道は示された。
少女は、選ばなければならない。
全ての花を枯らして、枯らして。最後に残った星を天へと戻すのが選ぶべき道なのか。
それとも、己の命を代償に。神に奇跡を乞い願い、天に媚を売り、星を拾い上げてもらえば良いのか。
容易く決着の付かない選択だった。少女はその選択を先延ばしにすることにした。
星の運命は星が決める。
考えてみれば、当たり前の話だった。人の身で星の心配をすることなど烏滸がましい。少女がなによりも優先して、守りたいと信ずる星ならば、きっとその輝きで先行きの見えない暗い道を照らしだしてくれるはずだから。
――星の輝きは少女の身体を灼き尽くし、そして天へと帰っていった。
少女は知る由もない。彼女の決断は、星に呪いのように消しがたい傷跡を刻み込んだことを。呪われた星は、天の世界でも爪弾き者になってしまうことを。




