09 夢が広がるよ、ほんと
この世界には魔法というものは存在しない。
代わりに生まれた時に与えられるのが固有スキル。
固有スキルは人それぞれ異なる。
植物を育てるスキル、美味しい料理を作るスキル、火を自在に扱うスキル、水を自在に扱うスキル、風を自在に扱うスキル、土を自在に扱うスキル等々、様々な固有スキルがある。
そして、わたしと姉の持つ固有スキルが[錬金]であり、[錬金]を持つ者だけが錬金術師になれるのである。
[錬金]とは何か?
用意した材料からイメージしたものを作り出すスキルだ。
ただ、動作や何らかの機能を発揮するにはそのコアとして魔石が必要になる。
魔石は鉱山やダンジョンから発見されることもあるが、大半は討伐した魔物や魔獣から回収される。魔石はスライムから回収されるようなクズ同然の魔石から、ドラゴンから回収されるような強力な魔力を持つ希少な魔石までピンキリ。価格もピンキリである。
わたしに与えられた転生ボーナスは以下の2つの固有スキル。
対象の場所まで特定可能な[探索Z]
お目当ての物を取り出す[エクストラクション]
これに元々アリシア(わたしではない)の固有スキルである[錬金]が加わるとどうなるか?
魔道具を作る材料としての鉱物が何処にあるか[探索Z]で探し出し、山の中から採掘することなく[エクストラクション]で手に入れ、生きた魔物や魔獣から討伐することなく[エクストラクション]で魔石を抜き取る。
つまり、魔道具を作るための材料費は実質タダ。
しかも魔石を抜き取られた魔物や魔獣はその場で即死。被害を受けていた人々からも感謝され、冒険者ギルドからも報酬が出る。
多重においしい訳。
元々のアリシア(わたしではない)は誰にも邪魔されずに魔道具開発ができるから、こんな辺境の故郷に帰って来たみたいだが、今のわたしにとっては希少な鉱石が埋蔵された山々が近くにあり、魔物や魔獣が跋扈するこの辺境の地は魔道具材料の宝庫だと言える。
王都で鉱物や魔石を買う資金調達のために錬金工房でバイトしていた学院時代が嘘のようである。
あの時は本当に時間も金も無かった。
あくまで記憶上の話であり、わたしが直に体験したものじゃないけどね。
さて、せっかく転生したんだ。
色々、作ってみたいものがあるんだよね。
例えば、FPSで使っていた銃とか。リーゼロッテとして帯剣していた自在に刃が伸縮する剣とか。最終的には巡航戦艦とかビーム砲もかな?
夢が広がるよ、ほんと。
まあ、それらはおいおいとして。
まずは生活環境の整備からだよね。
ミラ姉は村の人が生活するために必要な魔道具製作はするが、自分の生活を便利にするつもりはないようだ。質素倹約がモットーなんだよね。
元々のアリシア(わたしではない)は更に酷かった。実生活のことはほとんど頓着していなかったらしい。
部屋は『整理整頓? 何? それ、おいしいの?』ってくらい散らかりっ放しだったし、お洒落にも無頓着だった。学院時代の記憶を手繰ると、いつも制服しか着ていなかったようだ。いつもスッピンだったしね。
『せっかくかわいく生まれてきたんだから少しくらい素材を生かせよ』って当時のわたしに言ってやりたいよ。目付き悪いけど。
でも、今のわたしは違うよ。
何匹ものお猫様と友誼を結んだ鈴白舞花、王女リーゼロッテという前世もある。
だから、思い切ってイメチェンしてみた。
癖のついた赤毛をストレートアイロン(もちろん、魔道具)で真っ直ぐにし、白いブラウスと青いロングスカート、その上から濃紺のローブを纏う。肌の手入れも完璧。
若き美少女錬金術師の爆誕である。目付き悪いけど。
「アリシア、彼氏でもできたの?」
ミラ姉に代わって店のカウンター奥に腰掛けるわたし。
ミラ姉が奥に引っ込む途中でそんなことを尋ねてきた。
これは最低限の身だしなみというものなんですよ。
なんでもかんでも愛だの恋だのに結び付けないで欲しい。
これだから、アラサーは――――
「あら? アリシア? 何か失礼な事を考えてない?」
顔は笑っているが、なんか圧が凄いんですけど?
「いえいえ、お姉様。考え過ぎですよ」
頬が引き攣りそうになるのを必死で抑えながら笑顔を作る。
「そう? ならいいんだけど」
ミラ姉が奥に引っ込んだ。
ヤッベー!
エスパーかよ!?
ミラ姉は普段は穏やかだが、怒らせると本当に怖い。
料理で報復してくるんだよ。
滅茶苦茶辛かったり、滅茶苦茶苦かったり、滅茶苦茶酸っぱかったり。
それも想像を絶するくらいにだ。
しかも、わたしの分だけ。
許して貰えるまでこれが続くんだよね。
じゃあ緊急避難、って訳で村の食堂で外食なんかしたら、もう口もきいてくれなくなる。
マジ、面倒くさい女だよ。
だから、見目麗しいのにアラサーになるまで相手が見つからないんだよ。
おおっと。
ミラ姉がほんとのエスパーだったらシャレにならん。
思考停止、思考停止っと。
などと考えていたら、
カランカラン
店の戸が開く。
「いらっしゃいませ」
わたしは来店した客に営業用スマイルを向けるのだった。




