08 17歳からのスタート
「ん?」
意識が覚醒していく。
「アリシア!」
気が付くと、わたしを覗き込む顔が見える。
「よかった!」
アラサーの女性がわたしをギュッと抱き締めた。
「わたしは…………」
「アリシア! あなた、木から落ちて意識不明だったのよ!」
ああ、だんだん思い出してきた。
わたしは、探索用小型飛行魔道具が楡の大木の枝に引っ掛かって、それを回収しようと木に登り――――
落ちた。
そういえば、後頭部がジンジン痛む。
頭を打ったのか?
「1週間も目を覚まさないから、もう――――」
涙を流しながらわたしを抱き締めているのは姉。
確か…………ミランダ・イアハート。
この村で〖イアハート魔道具店〗を経営する錬金術師だ。
わたしの頭の中に記憶がどんどん流れ込んでくる。
心配する姉を横目にベッドから起きたわたしは、部屋の隅に置かれた姿見の前に立つ。
姿見に映っていたのは少女。
癖の付いた赤毛が肩まで伸びる10代半ばくらいの顔は整っているが眼つきの悪い少女。
その少女がわたしを睨んでいる。
おいおいおいおい、ちょっと待て!
これがわたしか!? わたしなのか!?
しかも、確か………17歳。
いきなり17歳の少女に転生した(?)状況に軽く混乱をきたす。
今迄はちゃんと生まれたところからのスタートだった。
最初に生を受けた鈴白舞花の時はもちろん、リーゼロッテ・イストリアの時もそうだった。
ところが、今回はいきなり17歳からのスタート。
どういうこと?
もしかして、神様のヤツ、手ぇ抜きやがったな。
『その娘は木から落ちた時の打ち所が悪かったせいで魂が抜けてしまった。ちょうどいい器だったから、キミ用に誂えることにしたんだ。とりあえず、壊れてしまった頭の中は修復しておいた。修復ついでに、その娘の記憶もそのまま引き継げるようにしてある。今後の生活にも支障は無いはずだ。ついでに転生ギフトも付与してあげたから、役立ててくれ。という訳で希望通り錬金術師の身体を用意してあげたから、まあ、がんばってくれたまえ。』
頭の中に神様が一方的な念話を流し込んできた。
「おい! ちょっと待て!」
『…………』
「もっと説明を――――」
『…………』
わたしからの問い掛けに神様が答えることはなかった。
言う事だけ言って『はい、さようなら』だったらしい。
「アリシア? 大丈夫?」
虚空に問い掛けるわたしを不安に思ったのか、姉が心配そうだ。
「ん~ん。もう、大丈夫だから。心配かけたわね、ミラ姉」
わたしは姉の不安を解すように微笑んだのだった。
■
状況を整理しよう。
わたしに名は、アリシア・イアハート。17歳。
この村、ヨマイ村で〖イアハート魔道具店〗を営む錬金術師ミランダ・イアハートの妹。
10年前、父と母が流行り病で死んで以降、わたしは10歳年上の姉に親に代わって育てられた。
アリシア(わたしではない)も錬金術師。
13歳の時に王都の錬金術師養成学院に入学し、飛び級に次ぐ飛び級を重ね、8年間の養成課程を3年で終え、16歳の時に最優秀の成績で学院を卒業。
アリシア(わたしではない)は学院の卒業制作として《飛行プレート》を開発した。
板状のプレートの上に乗って飛ぶ飛行用魔道具である。
プレートから生えるハンドルに捕まり、身体を前後左右に傾けることで進行方向を変え、ハンドルの右側のグリップの捻りを調整することで加減速、左側のグリップの捻りを調整することで飛行高度の調整をする。
いわゆる、セ※ウェイの飛行版みたいなものだ。
これにより、人は魔道具を使ってではあるが空を飛べるようになった。
この世界の人類史始まって以来の快挙である。
この快挙により、アリシア(わたしではない)は王国最高の勲章《王国鳳珠褒章》を授与され、錬金術師の最高峰である特級錬金術師の資格を得た。
王室お抱えの王宮錬金術師の打診もあったし、王都のいくつもの著名な錬金工房からの勧誘もあったが、全て丁重にお断りして故郷の村に帰ったのだった。
それが1年前。
アリシア(わたしではない)が断った理由は――――
『誰にも干渉されずに自分の作りたいものを作る』
ああ、分かるなあ。
わたしも同じ思いだよ。
だって。
わたしの時間はわたしだけのものなのだから。




