03 面倒くさい敵国は全部チェンジで
宇宙歴1905年6月26日。
『マグダネル会戦』の1ヶ月後、唐突に戦争は終わった。
ロスバルト帝国に革命が起きたのだ。
後に『六月革命』と呼ばれたこの革命によりロスバルト帝国は崩壊した。
ダグ・エル・ガルーア公国も現公王が退位し、我が国に友好的な第二公子が公王に即位した。
我が国にとって面倒くさい敵国は全部チェンジだ。
ざまあ。
ちなみに、『六月革命』の結果、皇帝、皇太子はおろか親戚縁者含め皇族は一人残らず処刑された。貴族の多くも断頭台に送られ、残りは命辛々他国へ逃れたそうだ。
でも『皇族は一人残らず』には語弊があるか。
サーシャ・ミハイルコフは生きている。
イストリア王宮内に軟禁されている。
手厚い看護を受けながら。
なにせ、彼女は皇籍離脱して初代ミハイルコフ女大公家の当主になった帝国の第七皇女なのだ。
まあ、帰る国も無くなっちゃったみたいだし、このまま我が国に亡命ってことになるんだろうな。
■
宇宙歴1905年7月4日。
革命政府は我が国に講和を申し出てきた。
ロスバルト社会主義共和国連邦だってさ。
勝手に手を出してきておいて、旗色が悪くなったから講和だとう?
しかも、講和条件として我が国で保護しているサーシャの身柄を要求してきやがった。
強大な宇宙艦隊を失って版図星系の治安維持にも四苦八苦している身で何を言っているのかなあ?
頭に来たので、サテライトキャノンをロ連(ロスバルト社会主義共和国連邦のわたし的略称)の母星に引っ張って言って、母星に隣接した惑星軌道を回っている無人惑星を2つ、3つ消し飛ばしてやった。
『要求できる立場か』って。
『わたしの友人を処刑するつもりか』って。
『面倒くさいから政治体制を全部チェンジするぞ』って脅してやったら、要求を取り下げて、賠償金まで払ってくれた。
ラッキー!
まあ、実際のところ、サーシャは友人なんかじゃない。
将来友人になるかもしれないこともないこともないんだけどね。
今は…………友人じゃないよ。
でも、勿体ないじゃない。
腰下まで伸びる燃えるような赤髪と琥珀色の瞳。
整った高身長美人を断頭台に送ることなんてわたしにはできそうもないんだよね。
まあ、性格に難ありだけど。
わたしのことをちんちくりんと言ったこと、忘れていないんだからね。
そもそも、わたしはまだ15。
サーシャの歳になるまであと6年もあるんだよ。
6年もあれば背くらい伸びる。
待っていろ、サーシャ。
6年後にはあんたのことを見下ろしてやるんだからね。
■
宇宙歴1905年8月10日。
我が国とロ連との講和条約が締結された。
これで本当の意味で戦争は終わったのだ。
わたしも戦時特例の宇宙軍上級大将を辞し、イストリア王国宇宙軍連合艦隊司令長官の職も返上して唯の第一王女に戻った。
これからは王宮内でゴロゴロしながら怠けてやるんだ。
お父様の補佐は王位継承権第一位の王太子であるお兄様がすればいいんだし。
ああ、ゲームやりたい。
でも、ゲーム機無いんだよねえ、この世界。
航宙艦とか宇宙進出するくらい文明が進んでるのにね。
本は…………王宮書庫の本、禁書も含めてみんな読んじゃったし。
あ、そうだ。旅をするのもいいかもしれない。
そんなことを夢見ていた日々もありました。
戦後、わたしにはあちこちから引き合いがあった。
今回の戦争で、わたしは要塞都市攻略戦の後半から作戦を立て、軍を指揮して結果を出した。
本星防衛用の大口径ビーム曲射砲20門を王都星から大至急取り寄せて使って見せたことで戦局は一変したし、回廊での傘縦深陣による一斉射撃とサテライトキャノンでの単縦陣一掃により敵艦隊も殲滅した。
まあ、ついでにロ連で無人惑星を2,3個吹き飛ばしたことも含まれる?
それにより、わたしの軍略家としての名声がストップ高になり、戦術論の執筆依頼やインタビュー、果ては講演依頼まで来た。
結果、わたしは王国内で最も多忙な人になった。
というか、なってしまった。
しかも、有力貴族からのパーティー出席依頼や見合いの申し込みまで舞い込む始末。
わたし、まだ、15だよ?
世が世なら中学3年生なんだよ?
え?
この世界では14歳で成人?
どこの侍やねん!
元服ちゃうねんぞ!?
え?
でも、王国の法にも?
あ、書かれてるんですか。そうですか。
ちなみに、驚異的な回復力を見せたサーシャは正式に王国に亡命することになり、王国で叙爵されミハイルコフ女伯爵になった。
女大公から三階級降格。
左遷だね、左遷。
そして、今、サーシャはわたしの秘書をしている。
私の下で働いている。
口煩く、わたしを馬車馬のようにこき使うブラック秘書として。
■
多忙な毎日を送っているうちに夏になり秋になった。
日々は過ぎれど…………わたしの背は1mmたりとて伸びなかった。
これ、絶対睡眠不足が原因だよね。
成長期は日付が変わる前に寝るといいそうだが、わたしは毎日午前様。
背なんか伸びるわきゃあねえわな、おい!
そんな境遇に打ちひしがれるわたしに向かって、ワーカホリックなブラック秘書が見えない鞭を振り下ろして来る。
「ロッテ、次の講演なんだけど――――」
「わたし、もう働きたくないでござる~」
「ござる? 何それ?」
ああ、サーシャには分らないか。
時代劇、知らないもんね。
「『働きたくない』の懇願形」
「そんな言葉の活用形は無いわよ」
ぴしゃりと言われてしまった。
「お茶をお淹れしました」
誰だっけ?
最近入ったメイドさんかな?
「まあ、今の仕事が終わったら、旅行付き合ってあげるから」
サーシャがカップを持ち上げてカップから立ち上る香りを楽しむ。
「ありがとう、サーシャお姉さまぁ~」
「『お姉さまぁ~』は止めい!」
サーシャが久しぶりに甘いことを言ってくれたので嬉しくてついデレてしまったのだ。
拒絶するサーシャの耳が真っ赤だった。
こいつう。
わたしに惚れたな?
愛いやつめ。
「あ、あら、変わった香りね。でも、いい香りだわ」
誤魔化すようにサーシャがカップの紅茶をコクリと喉を通した。
「美味しいの? どれどれ」
わたしは喉が渇いているのもあってか、カップの紅茶を一気に呷った。
「行儀悪いわよ」
サーシャが窘めるがわたしはわたしに突然訪れた変化にそれどころではなかった。
「あれ?」
目が回ってる?
視界が歪み、体幹を維持できなくなる。
わたしは頽れるようにテーブルに突っ伏したのだった。
「え? ちょっとどうしたの? ロッテ?………ぐっ!」
わたしの異変に気付いたサーシャもまたテーブルに突っ伏した。
次第に失われてゆく意識の中で、独り言を呟くように語り掛けてくる声が聴こえた。
「どうして転生先にあなたがいるのかなあ? そんなのもう殺すしかないじゃないの」
呟くメイドさんの顔が思い出せない。
言ってる意味もわからない。
それがリーゼロッテ・イストリアとしての最期の記憶。




