18 一方的に蹂躙された
コルベット《かすが》の艦長室。
ベッドに腰掛けたわたしの横にサーシャも座る。
サーシャじゃない。
今はコンスタンスだった。
「サーシャ、いや、今はコンスタンスでいいわよね?」
「もちろんだとも、アリシア」
わたしの肩を抱くコンスタンス。
「あれからどうなったの?」
わたしは自分とサーシャが毒殺された後のことを訊いてみた。
まあ、わたしよりより先に死んだ彼女に訊いても無駄だとはわかっているんだけどね。
だが、コンスタンスの反応は違った。
「ボクが飲んだ毒の量は致死量には程遠かったんだ。だから、生死の境を彷徨ったがなんとか一命は取り留めたよ」
「わたしは…………」
「キミは毒入りの紅茶を一気に呷っただろう? 助からなかったよ」
「そう…………」
やっぱりかあ。
喉渇いてたもんなあ。
致死量を一気に体に取り込んで絶命ってことね。
コンスタンスは語る。
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あの日、わたしに毒を盛ったメイド。
王国の王女であり救国の英雄でもあるわたしを暗殺した逆賊である。
当然の如く国家規模で追手が掛かった。
だが、メイドは国外逃亡しなかった。
いや、王都から脱出すらしていなかった。
彼女は王都の中央正教会の〖聖女の間〗に居た。
巧妙にメイドに変装していたその女は中央正教会の聖女だったのだ。
大司教の了承を取り付けた王国近衛師団が中央正教会を包囲する。
大司教すら与り知らぬ暴挙に及んだ聖女は堂々と王国近衛師団を迎えた。
聖女ヴェロニカ・オーヴェルニュ。
彼女は、王国近衛師団を引き連れたサーシャに堂々と宣言した。
『我を惑わす異端なる半身を自らの手で漸く刈り取ることができました! 今こそ我と共に浄化の炎に焼かれ、我と魂を一つとする時です!』
次の瞬間、聖女が人体発火。
炎は中央正教会の建物に広がり灰塵と化すまで焼き尽くしたのだった。
焼け跡に聖女の遺体は見つからなかった。
サーシャはわたしの仇を取ることも叶わず、眼前で起こっていることを唯々見守ることしかできなかった。
――――――――――――――――――――――――――
「あれは、何と言うか、妄執みたいなものだと思う」
コンスタンスが最後にポツリと感想を漏らした。
リーゼロッテだったわたしは聖女と面識が無かった。
それなのに、死の間際、彼女はわたしのことをこう評してみせた。
『我を惑わす異端なる半身』
どういうことなんだろう?
わたしには聖女の恨みを買う心当たりは無いし、恨みだったらあんな言い方はしない。
だが、わたしは前世もその前も不意を突かれて殺された。
これは偶然の一致?
いや。
今考えてどうなることでもない。
帝国の件が片付いた時に改めて考えることにしよう。
「それで、あんたは何で『ボク』なの? 性転換でもしたの?」
「ふふふ」
スパダリが意味深に笑いやがった。
そうかい、そうかい。
そういう態度を取るっていうのならこっちにも考えがあるよ。
その上から目線な表情、恥じらう乙女にしてやろうじゃないか。
わたしは不意を突くように、彼女の胸を思い切り鷲掴みしてやった。
「きゃん!」
ん?
こいつ、大きいぞ?
Fくらいあるんじゃないか?
わたしはAAだっていうのに!
「こんなもの隠し持ちやがって! あんたなんかこうしてやる!」
押し倒して胸を揉みしだく。
「ちょっ! やめっ!」
コンスタンスが顔を赤らめて身悶えする。
「そんなことされたら――――」
「えっ?」
形勢逆転。
今度はわたしが組み敷かれた。
コンスタンスの顔が迫り、唇が押し当てられ、舌がわたしの中に入ってきた。
ボンヤリとしか考えられなくなった。
■
長きに渡って一方的に蹂躙されたわたしは虚脱状態に陥っていた。
「こんなことされるなんて…………新たな世界に目覚めちゃったわよ! どうしてくれるのよ!?」
「責任は取るよ」
毒づくわたしにコンスタンスが頬にキスをくれた。
「あ~あ。全部脱がせてくれちゃって。正装がめちゃくちゃよ。これ着るの、大変なのよ」
コンスタンスに背を向けてノロノロと着衣を正す。
下着は…………新しいのを出そう。
そんなわたしにコンスタンスがおんぶお化けよろしく凭れ掛かってきた。
「ごめんよ、ロッテ。いや、アリシア。想いが溢れてしまったんだ」
わたしを失い、聖女に復讐すらできなかったサーシャは失意の日々を過ごしたらしい。
「結婚はしなかったの? 数多の王国貴族から求婚されてたでしょう? ミハイルコフ女伯爵閣下?」
コンスタンスは瞼を閉じて首を横に振る。
「いや。生涯独身を通したよ」
サーシャはわたしを失ってから70年の時を独り身で過ごし、天寿を全うした。
親友のわたしへの想いは長い年月を経て、やがて愛情に昇華されたのだった。
「もうこれでお終いだと思った時、ボクは再び機会を与えられたんだ」
それ、たぶん神様だよね?
でも、『再び』って何だ?
彼女はクロスハウゼン大公の長女コンスタンスに転生した。
彼女はわたしに入れ替わる前のアリシアに出会った時に確証を得たらしい。
アリシアこそリーゼロッテの生まれ変わりであると。
だから、同性であるアリシアの求婚を受け入れた。
姿形もぜんぜん違うリーゼロッテとアリシア。
しかもアリシアの中身がわたしになる前だ。
その確証はどこからきた?
「ある方との約束で秘密なんだ」
人差指を口の前で立てるコンスタンス。
どうやら種明かしはしてくれないらしい。
「わたしに皇女として立たせたのは?」
「それはね」
ニヤリと笑みを浮かべるコンスタンス。
何だかイヤな予感しかしないんだが?
「ボクが女帝になったキミの正式な皇配になるためだよ」
コンスタンスがシレッと言ってのけた。
そうだった。
前世も自分の立てた計画を無理やりわたしに押し付けてきたよね?
ブラック秘書サーシャ。
あんたは転生してもブレないんだね?
あんたの姿勢にわたしはドン引きだよ。




