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面倒くさいから全部チェンジで  作者: 衣之谷こうみ
アリシア編

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14/18

14 追い込まれるわたし


「ん! んんんんん!!」


ガバッと顔を離し、青年と距離を取る。


「な、なにすんのよ!!」


バシッ!


青年の顔を平手で打った。

グーでないのは、綺麗な顔に青痣(あおあざ)を造らないようにという武士の情けだ。


「これは驚きだ。婚約者に顔を殴られるとはね」


『婚約者』だと?


シンシアさんとミラ姉を振り返ると微笑ましそうに見ていやがるよ。


「シンシアさん! 何、悠然と見てるのよ! 乙女の唇が野郎に奪われたのよ!?」

「どこに野郎が居るのよ?」


ミラ姉がシレッと言いやがったよ。


「ここだよ! ここ! ここに居るだろうが! ミラ姉の目は節穴か!?」


なんなんだ!

妹が野郎に狼藉を働かれたんだぞ!

そこは怒るところだろうが!


「あんたもだ! いきなり初対面の女の唇を奪うか、ふつう!?」

「初対面じゃないよ、アリシア嬢」

「そうよ、アリシア。あなたとその方は以前に会っているわよ」


激高するわたしに、青年もミラ姉も意外顔だ。


どういうこと?


わたしはアリシア(わたしではない)の記憶を精査する。

昔過ぎて曖昧な部分が多く、情景もボケてはっきりしない。

でも構わないわ。

今に繋がる過去を手繰り寄せるのよ。



――――――――――――――――――――――――――


「アリシア。こっちにおいで」


パーティー会場のテーブルに置かれているショートケーキに手を伸ばしているわたしを呼ぶお父様の声。


呼ばれるまま、お父様の下に向かうと、同い年くらいの男の子がそこに居た。


「アリシア、挨拶なさい」


お母様がポンと幼いわたしの背中を押した。


「お初にお目に掛かりますわ。アリシア・※▼〇×☆※◇ですわ」


優雅にカーテシーを決める。


「はじめまして、アリシア嬢」


男の子は、わたしより少しだけ大きいみたい。


「ボクの名はコンスタンス・クロスハウゼンと申します」


右手を胸に宛てて会釈をする男の子。


「綺麗な瞳ね」


わたしは彼のヘテロクロミアの瞳に魅了された。

エメラルドグリーンの右目とルビーレッドの左目。


「決めたわ。あなた、わたくしの夫におなりなさい」


わたしはその場でその男の子に命令した。


「アリシア………それは………」


お父様が困惑気味に言葉を濁す。


「いきなり求婚なんてはしたないですよ」


お母様までがわたしを止めようとする。


「構うことはありませんわ。わたくしが決めたのですから、これは決定事項よ」

「しかし――――」


お父様が尚も食い下がろうとするが、わたしはもう引き下がらなかった。


「コンスタンス・クロスハウゼン。返事を聞かせなさい」

「アリシア嬢の仰せのままに」


膝を折って臣下の礼をとるコンスタンス。

わたしはそれが気に入らなかった。


「あなたはこのわたくしの伴侶になるのだから、そのような臣下の真似事はおやめなさい」


コンスタンスを立ち上がらせて、その真正面に進み出る。


そして、わたしより頭一つ分背の高いコンスタンスの頬に手をやると、


「これは約束の(あかし)よ」


その唇を奪ったのだった。


そう。

それがわたしとコンスタンスとの()()めだった。


――――――――――――――――――――――――――



わたしになる前のアリシア…………とんでもないマセガキだよ!

5歳にしてファーストキス、しかも、アリシアの方から強引に相手の唇を奪ってるじゃないか!


しかも何なんだ?



『決めたわ。あなた、わたくしの夫におなりなさい』



尊大な命令口調。

有無を言わせない態度。

どこの暴君だよ!?



過去のわたしの所業に頭が痛くなってきたぞ。

前世、リーゼロッテの時にだって、こんな尊大な態度はとったことがない。

折り目正しく礼節を重んじる淑女だったぞ。

少なくとも対外的にはな。


この調子で記憶を辿ると、とんでもない悪行が露見するかもしれない。


そもそも、過去のアリシアと今のアリシアが一致しない。

今のアリシアは、わたしに入れ替わられる前から普通の女の子だったぞ。


凄腕冒険者も兼ねる特級錬金術師が普通の女の子?


そうだよ、私の中ではそういう認識なんだよ。

文句あるか?




「あなた、もしかして、コンスタンス?」


元々綺麗だったが、今では見違えるくらいカッコよくなったコンスタンス。

いわゆるスパダリである。

間違いないとは思うが一応確認してみる。


「思い出してくれたのかい?」

「ええ…………ええ、幼い頃に会ったコンスタンスよね?」

「そうだよ! コンスタンスだよ! 思い出してくれて嬉しいよ、アリシア!」

「ん!」


わたしの問いに万遍の笑みを浮かべたコンスタンスに抱き締められて再び唇を奪われる。

もう3回目だからね。

驚かないよ。


だが、それはわたしではないアリシアにとってだ。

今のわたしにとってはどれもこれも初めてなのだ。

だからね、抵抗を試みるよ。


「ちょっ! ちょっと待ちなさい!」

「照れているのかい?」


キスと抱擁から逃れたわたしに迫るコンスタンス。


「照れてない! 照れてないから落ち着け!」


両手を突っ張って、コンスタンスを押し留める。

そして、後ろでニヤついている二人に救援を求める。


「もう、シンシアさんもミラ姉も見てないでこの男を止めて!」


だが、二人は尚も他人事のようだ。


「どこに男が居るのよ?」

「ここに居るでしょ!? 私の唇を二度も奪った鬼畜野郎が!」

「…………」

「黙ってないで何とか言ってよ!」

「なんとか」


ふざけてんのか、この行き遅れのアラサーめ!


あ、ミラ姉がヒクついていらっしゃる。

そのヒクつく頬を押さえながらミラ姉がとんでもないことを言いやがった。


「コンスタンス様は男じゃないわよ」

「はっ?」


わたしの耳はおかしくなったのか?


「だから、コンスタンス・クロスハウゼン大公殿下は立派な女性よ」


女性?

どういうこと?


「あんた、女なの?」

「もちろんだとも!」


わたしの問いに澱みなく答えるスパダリ女。

眩しい微笑みを向けるな!

溶けてしまうではないか!


でも、わたしの婚約者って言ってたよね?


そっか。

わたし、実は男だったんだ。

アリシア・イアハートは実は男。

そうか、そうか。

なら、納得だね。



な訳あるか――――っ!!


「何でわたしの婚約者が女なのよ!?」

「君のお父上は止めようとしたはずだよ。でも、押し切ったのはキミだ」


うん。そんなことがあったね。

さっき思い出したよ。

しかも、強引に唇まで奪ったのだ。

言い訳のしようもないね。



「まあ、自業自得よね」

「あれで、法律変わっちゃったんだから、アリシアも罪な女よね」

「まあいいんじゃない? あれで救われた人達も大勢居たし」

「しっかり責任取りなさいよ」


後ろのアラサー外野どもが何か言っている。



そうか、ここは女同士が結婚する惑星なんだ。

わたしはわたしの常識が通用しない世界に転生したんだ。


「安心して、アリシア。普通は女同士が結婚することは無いから」


わたしの心の声を正確に読み取ったミラ姉がわたしの退路を断った。


大体、跡継ぎはどうすんだよ?


「ああ、そこらへんはどうとでもなるから」


シンシアさんが手をヒラヒラさせながら言う。

わたし、口に出てた?


「そんなことを気にしてたのかい? 安心したまえ。夜のお務めでもキミを満足させてあげられる自信はあるよ」


訊いてねえよ!




「シンシア・クロフォード。彼女に何も話していないのかね?」


コンスタンスが責めるようにシンシアさんに尋ねた。


「申し訳ございません、殿下」


シンシアさんが胸に手を当てて臣下の礼を摂った。

一拍遅れてミラ姉までが臣下の礼を摂る。



わたしは悟ってしまった。

コンスタンス・クロスハウゼン。

この女性はミュルシュタット帝国の貴族。

しかも、帝室の次に権威を持つ大公だ。

その貴族が単身、王国に亡命してきた。

そんな雲上人が何故わたしの婚約者なんだ?

そもそも、当時、大公の子息だったこの女性に尊大な態度を取れたわたしは一体何者なんだろう?


「とりあえず、皆の者を集めよ」

「既にこの建物の前に集合しております」


ん~。

わからないことだらけだ。


「では、アリシア嬢、いえ、姫。参りましょう」


コンスタンスがわたしの手を取って、貴賓室を出て階段を下りる。

さすがは貴族様だ。

エスコートも完璧。



いやいや、そうじゃない。

わたしが『姫』?


この女はわたしを『姫』と言った。

確かに、前世、わたしは姫だった。

星間国家イストリア王国の第一王女リーゼロッテ・イストリア。

剣姫で名将。


この女はそれを以てわたしを姫と呼んだのか?

だが、わたしの転生は神様しか知らないはずだ。

だから、この場でわたしを姫と呼ぶのはおかしな話なのだ。




冒険者ギルドを出ると村人が集まっていた。

誰も彼もが片膝を突いて臣下の礼を摂っている。



彼等を見渡したコンスタンスが声を発した。


「アリシア・ミュルシュタット第一皇女殿下を守りし者達よ、大儀である!」



はっ!?

アリシア・ミュルシュタット第一皇女殿下!?

誰それ?


「さあ、姫。臣下に勅命を!」


ちょっと待ってよ!

わたしが第一皇女!?

ミュルシュタット帝国の!?

冗談でしょ!?


ねえ!?

誰か!?


誰か冗談だって言ってよ!

お願いだから~~~!

これ以上、わたしを追い込まないで!


わたしは置かれた状況に理解が及ばず、というか、理解を拒否して只々混乱に身を任せるのだった。


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