12 面倒くさい考えは全部チェンジよ
翌朝早く、わたしはボートを回収すると、そのままロワール川の上流に向かった。
どうしても気になることがあったからだ。
金髪の青年を見つけた河原を通過し、更に上流を目指す。
わたしの勘が告げている。
あの青年は山の向こう側からやってきたんじゃないか、と。
標高9000mを超えるテンシャン山脈。
普通に考えれば不可能な話だ。
3000mを超えれば空気が薄くなるから何の装備も無く山越えをすることはできない。
高山病に罹ってしまうからだ。
だが、わたしが見つけた青年は軽装備だった。
なら、考えられることはひとつ。
山越えをしなくても、帝国側からこちら側に通じる隠しルートがあるのではないか?
時々現れる魔獣を瞬殺しながら森の更に奥まで進む。
魔石ザクザク。
入れ食いだよ。
やがて、森の最奥に木々に隠れるように洞窟の入り口が見えた。
ここまでは村人は絶対に来ない。
ゼストさん達B級冒険者でも手に余る魔物オークキングやオーガが跋扈しているからね。
だが、わたしはC級冒険者だが実質はAAA級に手が届く実力の自負はある。
だから、ここまで足を延ばせた訳だ。
洞窟の中、5mくらいのところに金属製の扉が設置されていた。
何だ、これ?
人工物じゃん。
扉を開けて先に進んでみる。
驚いたことに洞窟の中は綺麗に整備されていた。
床は石畳が敷かれており、壁も天井も見事な石材が組まれていてまるでトンネルのようだ。
石造りのトンネルはずっと奥まで続いている。
壁には照明の魔道具も一定間隔で設置されており仄かに明るい。
コンパスで方位を確認。
トンネルはテンシャン山脈の真下に伸びていると思われる。
もしかして、これ、帝国まで繋がってる?
この先を探索したい衝動に駆られるが、今日はそこまでの装備は持ってきていない。
日を改めるか?
わたしは断腸の思いで引き返す選択をする。
考えなきゃならないこともあるしね。
わたしは洞窟を出るとロワール川を下り、天然のダム湖まで戻った。
わたしはマジックバッグから釣り道具一式を取り出して、湖に釣り糸を垂らした。
もちろん、針に餌は付けていない。
魚を釣ることが目的じゃないよ。
思索に耽るのが目的だからね。
あの青年はトンネルを通って帝国からこっち側に来たのだろう。
何らかの理由で逃げてきたと思われる。
身に付けていた服装から類推すると帝国貴族?
政争に敗れて亡命してきたのだろうか?
青年のことも気になるが、トンネルはもっと気になる。
もし、あんなもので帝国とこっち側が繋がっているとすれば、それを帝国が利用しない訳がない。
王国側に攻め入るルートになり得るからだ。
だが、これまでそんな兆候はなかった。
なら、帝国はあのトンネルの存在をまだ知らないのかもしれない。
だが、もし、帝国があの青年に追手を差し向けているとすれば、いずれはあのトンネルの存在が露見するだろう。
そして、帝国軍があのトンネルを通ってこちら側に侵攻して来るのだ。
冒険者ギルドに通報するか?
そうすれば、王国中枢に連絡が届くはずだ。
だが、王国軍が体制を整えてここまで来るには時間を要する。
その前に帝国の侵攻があったら…………
この平和なヨマイ村が戦場になってしまう。
帝国軍に蹂躙されてしまう。
いっそ、潰すか、トンネル?
だが、それをわたしの独断でしていいものかどうか迷う。
とりあえず、できることだけしておくか。
わたしは、もう一度トンネルまで戻ると、2kmくらい奥まで進み、そこに人感センサを設置し、遠隔操作の爆薬を仕掛けた。
更にそこから出口まで50m間隔で爆薬を設置する。
人感センサに人が反応すると私のハンディ受信機に警報が入る。
そうしたら、爆薬を作動させればいい。
全部作動させれば、出口から2km区間は完全に崩落させることができる。
何なら、自律式飛行魔道具、所謂ドローンで2kmから先の山肌を上空から空爆すれば、完全にぶっ潰すことも可能だろう。
一通り打てる手を打ったわたしは、再びダム湖まで戻って来た。
もう一度釣り糸を垂らして思索に耽る。
結局、夕方まで考えは纏まらず、家に帰る時間になった。
晩飯を食べて、湯船に浸かっても結論は出なかった。
そのままベッドにダイブ。
わたしは眠りに逃避することにしたのだった。
面倒くさい考えは夢の世界に全部チェンジよ。
来週から当分の間、本作は『異世界に勇者として召喚されたのですが、不本意なので女神から逃亡して自由気ままなスローライフを送ってやろうと思います。』と同時更新になります。
月火木金に更新ですね。
2作同時更新は大変ですけど頑張ります。




