10 錬金術師を生かすも殺すも素材次第
「ゼストさん、これで終わりですよね?」
ハイオークの最後の一体を剣の錆にしたわたしは、後ろで同様にハイオークを倒した男の人に確認する。
「おう。これでおしまいだ」
茶髪をスポーツ刈りにしたガタイのいいおじさん。
村の冒険者ゼストさん、38歳。
B級冒険者である。
「嬢ちゃんの腕もなんだが、初めて見るその剣、すげえな」
「ああ、これですか? 仕込み杖っていうんですよ」
神官が持つようなワンドをひっくり返して、逆さに持った持ち手をチャキッとスライドさせて刃を見せる。
「剣を収納している限り、ただの小さなワンドですよ」
「刃が伸縮するのか?」
「そうですね。短剣にも長剣にもなるのはさっき見せたとおりです」
転生を果たしたわたしは、まず初めに、ミスリルとアダマンタイトと鉄を組み合わせた合金鋼で剣を作った。リーゼロッテ時代に帯剣していた自在に刃が伸縮する剣である。それを短いワンドの柄を鞘代わりにした仕込み杖にしてみた。錬金術師が、騎士や剣士みたいに剣を帯剣しているのも変だからね。いわゆる世間体というやつである。
持っているワンドをゼストさんに渡すと、仕込み部分が珍しいのか、抜いたり収めたりしている。しばらくは戻って来ないな。
その間に、魔石でも集めとくか。
「エクストラクション」
倒れている何体ものハイオークから手を汚すことなく魔石を抜き取る。
抜き取った魔石がわたしの手を介さずマジックバッグにどんどん収納される。
よ~し。これでいいかな。
魔石は、後でゼストさんと山分けだ。
お。来た来た。
村の男衆が荷車を牽いて大勢やって来た。
ハイオークの死体の回収である。運ばれた死体は村の広場で解体される。
オーク系の魔物は、肉と内蔵は食用に、皮は防具に、骨は細かく砕いて肥料に、という風に余すところが無い。
これがゴブリンとなると、魔石と持っている武器くらいしか得られるものがない。魔石も安値だし、武器もこん棒くらいだし、死体は焼却処理しなきゃならないしで、手間の割に得られるものが少ないんだよね。
まさに、『骨折り損のくたびれ儲け』ってやつだ。
「この伸縮自在ってとこがいいな。一本で短剣と長剣を兼ねる。これと同じ剣を誂えてくれないか?」
「毎度あり~!」
初顧客ゲットだぜ!
「ああ、そうそう。仕込みにはしないでいいから」
「ええええ!? 仕込みにしましょうよ」
「普通の剣でいいから」
「冒険者なんだからぁ、冒険しましょうぜ、旦那」
「いやいや、そんな冒険いらないから」
ちぇ~。
遊び心が足りないよね、ゼストさん。
冒険者なのに冒険心も足りないし。
そんなだから、未だに独身なんだよ。
でもまあ、魔物討伐の現場で使って見せることで、伸縮自在の剣の商品アピールはできた。
早速、注文貰ったし。
転生憑依したわたしの錬金術師としての滑り出しは上々のようだ。
ヨマイ村は王国の東の外れも外れの超ド田舎の辺境。
村の北から東に立ち塞がるのは、標高9000mを越えるテンシャン山脈。
その向こうは、専制国家ミュルシュタット帝国である。
この大陸は、テンシャン山脈を挟んで西側国家群と東側国家群に分かれている。
西側は王国を始めとする比較的穏やかな治世をモットーとする国家がいくつも存在し、文化的、経済的交流も盛んである。
一方の東側は戦乱が絶えず、現在のところは帝国が周辺国を武力で圧倒している状況。
『なぜ、西側と東側でそんなに違うのか』って?
テンシャン山脈が東西を分断しているからだよ。
いくら帝国でも標高9000mを越える険しい山脈を越えて西側に軍を送ることはできない。しかも帝国は陸軍国であり、海軍はへなちょこだ。海軍力が比較優位な王国相手に、海路、侵略はほぼ無理。しかも、空からの侵略は不可能。なにせ、空を飛べるものは、昨年アメリア(わたしではない)が発明した《飛行プレート》だけだもんね。その《飛行プレート》だって、せいぜい100mくらいの高さまでしか飛べないし。
という訳で、王国は東に軍を配置する必要がない。
しかも、テンシャン山脈には強い魔獣や魔物が一杯居る。
結果、テンシャン山脈の麓を開拓しようとは思わない訳で…………
しかも更に東に町があるのならともかく、ここは東のどん詰まり。
ヨマイ村が寂れた辺境って意味、分かるよね?
でだ。
村にはゼストさんを始め、3人しか冒険者が居ない。
テンシャン山脈に近いせいか、村の近郊にもちょくちょく魔物が出現するのに、冒険者はたったの3人。圧倒的な人手不足。
そんな訳で、錬金術師であるにも関わらず腕が立つので、冒険者ギルドから魔物討伐の依頼を持ち込まれるのがわたしなのである。
まあ、実際、わたしも危険な場所への鉱物採取の護衛にゼストさん達を指名しているし、いらん魔石も買い取ってくれるし、魔道具販売の斡旋もしてくれるので、冒険者ギルドとは持ちつ持たれつの関係なんだけどね。
わたし自身も、冒険者登録している。
別に冒険者になりたかった訳じゃない。
冒険者登録しないと、魔石を買い取ってくれないからだ。
調子に乗って、魔石が欲しいという理由だけで単独での魔物討伐([エクストラクション]で魔石を抜き取って即死させる)をサクサク進めたせいで、F級からあっという間にC級までランクアップしてしまった。なにせ、討伐した魔物には災害級も含まれているからねえ。
今ではもうB級どころかA級になってもおかしくないくらいの実績を挙げている。
このまま実績を上げ続けるとS級はありえないけど、少なくともAAA級にはなってしまいそうだ。そうなると、色々面倒なことになる。
上級冒険者は数が少なく引く手数多だ。
そんな希少な上級冒険者を国も冒険者ギルドも放っておいてくれるはずがない。
辺境の村から領都や王都に召喚されてしまう。
そんなのは真っ平御免だ。
冒険者ギルドからランクアップの催促を何度も受けているが、もうこれ以上ランクアップするつもりはないよ。
そもそも、わたしの本業は錬金術師なのだから。
ちなみに錬金術師が魔道具を作る場合、製品企画、構想設計、製品設計、素材収集、開発試作、実験検証、製品試作、耐久試験、いじわる試験、製品製作、商品化というルートを辿る。
その中でも、素材収集が一番手間暇が掛かり予算も食う。
素材が集まらなければ製作が止まる。
錬金術師を生かすも殺すも素材次第という訳だ。
だから、わたしは後で困らないように定期的に素材をストックすべく、こうして鉱床探しを行うのである。
とりあえず、ハイオーク討伐を終えたわたしは、ゼストさん達と別れて、素材収集すべく森の奥に流れるロワール川に向かった。
今日はこの川の探索だ。
テンシャン山脈を源流とする川は数十本もある。
それらの川の上流から希少な鉱物の破片が流れてくることがある。
金とか、水晶とか、ミスリルとか。
破片があれば上流の方に鉱床があるということを意味する。
鉱床を見つけるためにはまずは破片の採取からだ。
マジックバッグから出した桶に川底の砂を水ごと掬い、やはりマジックバッグから出したザルに桶の砂を入れて流水で濾していく。
上手くすればザルの中に希少な鉱物の欠片が残る。
希少な鉱物の欠片が採取できれば、今度は上流に遡り、分岐点の前後で同じことをする。
分岐点の下流側で欠片の採取ができなければこれより下流側(中間地点くらい)に戻り同じことを繰り返し、分岐点の下流側で欠片の採取ができて上流側には無いなら分岐点周辺、上流側で採取できた時は採取できた側を更に遡り同じことを繰り返す。
そうやって、鉱床のありそうな範囲を狭めていく。
後は[探索Z]で場所を特定する訳である。
[探索Z]は対象の場所まで特定可能な便利なスキルではあるが、探索できる範囲が狭いのが玉に瑕だ。
だから、地道な作業が必要になるんだよ。
できれば、自宅に居ながらにして探索できて、結果が地図上に表示されるくらい楽ができるスキルだったらよかったんだけどね。
まあ、文句を言っても仕方が無い。
地道に作業しよう。
どうせ、時間はありあまるくらいあるのだから。
ロワール川の探索は今日が初めて。
今回はミスリルの破片が見つかった。
上流にミスリル鉱床があるのは確実だ。
頑張って見つけよう。
上流に向かって作業を進めていく。
いくつもの分岐を過ぎて、森が深くなり始めた。
ここら辺は、もう人跡未踏に近い。
王国騎士団が調査のために踏み入れたくらいだろう。
強い魔物も多くなるから、普通の村人も冒険者も近寄らない。
でも、わたしは踏み入れるよ。
希少な魔道具の材料がロハで手に入るんだからね。
強い魔物も不意打ちさえなければ[エクストラクション]で即死にできる。
それに伸縮自在な仕込み杖もあるしね。
などと他愛もないことを考えながら川を遡っていたら、河原に人が倒れているのが見えた。
まさか死体?
恐る恐る近寄って見ると、そこには――――
高価そうな白いブラウスと銀色のラインの入った青いスラックス、焦茶色の編み上げ靴姿の金髪の青年がうつ伏せで倒れていたのだった。




