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面倒くさいから全部チェンジで  作者: 衣之谷こうみ


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1/9

01 王国の興廃この一戦に在り

「姫様、まもなく作戦宙域に到着します」


観測手の声に、ちらりと左手に握った懐中時計に視線を向ける。


午前5時58分ね。

そろそろ出てくるかな。


「回廊の奥に敵主力を確認! 先頭、まもなく出口に達します!」


正面の大画面モニターにマグダネル回廊出口が映し出されている。

回廊の奥に光点が見える。


灯火管制も認識阻害も無しかい!

舐められたものね。


「先頭、回廊を出ます! データ照合! 旗艦・SS級戦艦インペリアル・ペリーツカヤ!」


不沈戦艦来たかあ。

あれ、サーシャ・ミハイルコフ提督が座上してる艦よね。

あの女とは一度パーティーの席で会ったことがあるけど、ほ~んと、上から目線だったもんなあ。

人のこと、ちんちくりん呼ばわりしやがって。

ヒールで爪先踏みつけてやろうかと思ったよ。



「二番艦、回廊を出ます! S級戦艦ロスネフチ!」


再び懐中時計を見る。

午前6時ジャスト。

よし!


連合艦隊総旗艦・巡航戦艦シュトムフフェルンの提督席に身を任せるわたしはモニターに映る敵艦を見ながら命令を下す。


「通達。敵正面12000km地点で第一艦隊は3時方向に90度回頭。第二艦隊は9時方向に90度回頭」


横に立つ艦隊参謀長のブラウニング中将が確認するようにわたしを見た。


「姫様?」

「なあに?」


髭面の中将の顔が引き()っている。


「間もなく敵射程圏内に入ってしまいますが?」

「構わないわ」


そして、中将にニッコリ笑い掛ける。


「これは勝つために必要なことなのよ」

「であるなら、小官は何も申しません」


分かっているならそれでいいのよ。


「各艦、先頭集団に照準を合わることを忘れないように」


追加の命令を発する。

かく言うわたし自身、額にジワリと汗が浮くのが分かった。


さあ、敵前大回頭の開始。

傘縦深陣(さんじゅうしんじん)を作るわよ。


――――――――――――――――――――――――――――――


バラン恒星群。

数十の恒星が微妙なバランスを取りながら位置し、それぞれの恒星の周りを人類の生存に適した惑星がいくつも回る。

バラン恒星群自体は、ブラックホール群に取り囲まれ、その外側からは観測できない閉じた宇宙を構成している。


外宇宙からバラン恒星群内部にアクセスするルートは3つ。

それ以外からアクセスしようとすれば、隣接し合うブラックホールに引き込まれて消滅してしまうだろう。

3つのアクセスルートにはそれぞれ近接する恒星名から、マグダネル回廊、メルキア回廊、ダグ・エル・ガルーア回廊と名付けられている。


宇宙歴551年まで人類はバラン恒星群の存在を知らなかった。

その年、宇宙磁気嵐により定期航路を大きく逸脱した商船団によってこの恒星群は発見されたが、人類の多くが居住する星系群からあまりにも離れ過ぎていたため、(かえり)みられることはなかった。


それから1000年以上経過した宇宙歴1600年。

政治的混乱から逃れてきた移民船団がバラン恒星群の惑星に降り立った。


それから更に100年が経過し、その間、移民たちの手によってバラン恒星群の惑星が開拓された。


次の100年で各惑星に国家が成立した。


その67年後の宇宙歴1867年。

バラン恒星群の諸惑星国家は、そのうちの一国、イストリアにより統一され、イストリア王国となった。


もちろん、全ての惑星国家がイストリアに統合された訳ではない。

イストリアの勢力圏に取り込まれるのを嫌ったいくつかの小国は、外宇宙に支援を求めた。


外宇宙には数多の星間国家が存在する。

そのいくつかは強大な軍事力や経済力を有する大国だ。

そんな国々を総じて列強と呼ぶ。


列強とは元々経済的な結びつきもあったので、支援を求める事自体は問題では無かった。

列強には自由主義を標榜する国や経済大国もある。

多くの小国はそれらの国に開発支援や経済支援を求めた。


ダグ・エル・ガルーア公国も外宇宙に支援を求めた国の一つだ。

だが、支援を求めた相手が悪かった。


ロスバルト帝国。

外宇宙に広大な版図を広げている200年続く軍事国家。

今もなお、その版図を広げつつある大国。


かの国の支配領域は恒星が小さいため寒冷化が激しく土地も()せていた。

抱える人口に対して食料生産量はカツカツ。

そのため、常に肥沃な大地を求めて侵略を繰り返していた。


一方の我が国は星系統一を果たしてから50年も経っていない新興国家だが、温暖で肥沃な大地に恵まれ農作物の生産量も多い。


常に食糧難にあえぐロスバルトにとって、バラン恒星群、特にイストリア王国の支配領域は喉から手が出るほど魅力的だ。


ダグ・エル・ガルーア公国からの支援要請を好機と見たロスバルトは、イストリアに手を伸ばすべく、ダグ・エル・ガルーア公国に駐留軍を置き、実効支配を進めた。

ここを橋頭保に我がイストリアの領域を虎視眈々(こしたんたん)と狙っているのは間違いなかった。

他の列強は『イストリアとロスバルトの間で戦端が開かれるのは時間の問題だ』と考えるようになっていた。



宇宙歴1904年2月10日。

我がイストリアとロスバルトはダグ・エル・ガルーア回廊周辺の未開惑星を巡って戦争状態に突入した。


ここで彼我(ひが)の戦力を比較してみよう。


【イストリア】

 [宇宙軍]

   総員   :2000万人

   主力艦隊 :第一艦隊、第二艦隊の2個艦隊

   補助艦隊 :駆逐艦隊、警備艦隊、輸送艦隊の3個艦隊

   主力艦  :巡航戦艦   800隻

         重巡航艦  1200隻

         軽巡航艦  2000隻

         航宙母艦  3000隻

   補助艦  :駆逐艦   6000隻

         フリゲート 8000隻

         輸送艦   2000隻

         強襲揚陸艦 2000隻

         その他   3000隻

 [陸軍]

   総員   :120個師団170万人


【ロスバルト】

 [宇宙軍]

   総員   :5500万人

   主力艦隊 :第一艦隊~第十一艦隊の11個艦隊

   補助艦隊 :駆逐艦隊、警備艦隊、輸送艦隊の6個艦隊

   主力艦  :SS級戦艦   100隻

         S級戦艦   4500隻  

         高速戦艦    200隻

         重巡航艦  13500隻

         軽巡航艦  15000隻

         航宙母艦    200隻

   補助艦  :駆逐艦   16000隻

         フリゲート 17500隻

         輸送艦    8000隻

         強襲揚陸艦  1500隻

         その他    7500隻

 [陸軍]

   総員   :385個師団500万人


ロスバルト帝国が総力を挙げて統合艦隊を組織した場合、統合艦隊は11個艦隊70000隻。

ダグ・エル・ガルーア公国に駐留する第十一遠征艦隊は14000隻。

対するイストリア王国宇宙軍連合艦隊は全部かき集めても28000隻。


戦力で劣るイストリアとしては、ロスバルト帝国統合艦隊が外宇宙の向こう側からやってくる前に、ダグ・エル・ガルーア公国に駐留するロスバルト帝国陸軍10個師団と第十一遠征艦隊を殲滅する作戦しかない。


ロスバルト帝国統合艦隊がマグダネル回廊、もしくはメルキア回廊から来襲してきた場合、これらの回廊とは反対側に位置するダグ・エル・ガルーア公国に駐留する敵第十一遠征艦隊は後顧の憂いになる。

場合によっては、前後から挟み撃ちに会い、数において劣勢のイストリア軍が二正面作戦を強いられることになるのだ。


そうならないためにも、ダグ・エル・ガルーア公国に駐留するロスバルト帝国軍の殲滅は急務であった。


そこでイストリア軍が取った戦術が件の作戦である。

まあ、それ以外に取り得る作戦など無いんだけどね。


だが、敵もさるもの引っ搔くもの。

敵第十一遠征艦隊はダグ・エル・ガルーア公国の軍港に引き籠もってなかなか宙域に姿を現さなかった。

彼等も考えることは同じ。

統合艦隊が到着するのを待って出撃し、我が艦隊を挟み撃ちにして撃滅する作戦に出たのだった。


もちろん、彼等も引き籠もってばかりいた訳ではない。

我が軍の監視の目を潜り抜けて、イストリア王国籍の輸送船をヒットエンラン攻法で襲撃し、我が国の物流網を混乱させた。

足の速い少数の軽巡航艦や駆逐艦で襲撃。

我が軍の警備艦隊が駆け付けると、全力で母港に逃げ込む。

まさに鼬ごっこ。


そこで我が軍は、アステロイドベルトから大型輸送艦で引っ張ってきた小惑星や岩塊、果ては退役した旧式巡航艦や解体予定の商船を敵第十一遠征艦隊の母港上空の衛星軌道に配置することで敵の出撃を阻止する港湾封鎖作戦を開始した。

だが、敵側も黙って見ていることは無かった。

母港周辺に配置されたミサイルポッドから発射された地対艦ミサイルの飽和攻撃で応じたのだった。

岩塊や旧式巡航艦や商船の多くが撃破され、港湾封鎖作戦はとん挫した。



宇宙歴1904年10月15日。

サーシャ・ミハイルコフ提督の指揮の下、ロスバルト帝国宇宙軍統合艦隊70000隻が母港スラバヤを出港した。


こうなったら、陸軍による地上戦と第十一遠征艦隊の艦艇の破壊しかない。

我が軍の陸軍部隊が防備の手薄な惑星裏側に降下、母港の要塞都市まで進撃した。

途中、2度の会戦。


そして、宇宙歴1904年12月19日。

要塞都市攻略戦が開始された。

要塞都市攻略は難攻を極め、開戦後1年を経た宇宙歴1357年6月10日時点で陸軍の7割が溶けた。

だが、本星防衛用の大口径ビーム曲射砲20門を大至急取り寄せたことで戦局は一変した。

20門の大口径ビーム曲射砲から放たれる大出力ビームにより要塞防壁は破壊され、要塞都市も廃墟と化した。


宇宙歴1905年5月9日。

要塞都市は陥落。

要塞都市内まで前進した大口径ビーム曲射砲から3日間に渡って放たれ続けた大出力ビーム攻撃により第十一遠征艦隊の艦艇のほとんどが灰塵と帰した。


命辛々母港から脱出した艦艇も衛星外縁軌道上に待機していた我が軍の駆逐艦隊に撃破、又は鹵獲された。


宇宙歴1905年5月12日。

ロスバルト帝国駐留軍は降伏し、第十一遠征艦隊は全滅した。

これで二正面作戦は回避できたのだった。



だが、ロスバルト帝国統合艦隊は回廊入口14光年の位置まで迫っていた。

ワープを駆使すれば1週間で3本いずれかの回廊入口まで到達できる距離。


回廊内は狭い。

しかも回頭すらできない狭さである。

そのため大艦隊と謂えども回廊内では単縦陣しか取れないのだ。


数で劣る我が軍は回廊の出口に布陣し、出て来る敵艦を一艦一艦沈めればいい。



だが問題は敵艦隊がどの回廊から侵入してくるかということ。



そこで3本の回廊入口のそれぞれに通報艦を配置し監視体制を取ることにした。


我が軍に全ての回廊に振り向けるだけの戦力は無い。

だから、どれか1本に絞る。

まかり間違えば、他の回廊出口から出てきた艦隊に後背を取られ包囲殲滅されてしまうかもしれない。

だから、我が艦隊は3本の回廊から等距離に位置する宙域に布陣した。

敵が侵入してきた回廊の出口に急行し敵が横展開を図る前に撃滅するために。



――――――――――――――――――――――――――――――


そして、遂にロスバルト帝国主力艦隊が来た。


宇宙歴1905年5月27日午前3時42分。

星間回廊の向こう側で哨戒中の通報艦ちくまがロスバルト帝国統合艦隊の先頭集団を発見したのだ。


「通報艦ちくまより入電。敵艦隊、マグダネル回廊に突入するを確認せり」


通信兵が通信文を読み上げる。



「姫様」


横に立つ艦隊参謀長のブラウニング中将がわたしを見た。


「総司令部に打電。『敵艦隊発見の報に基づき連合艦隊は直ちに出撃、これを擊滅せんとす。本日宙域晴朗なれども回廊内の重力波強し』」

「復唱『敵艦隊発見の報に基づき連合艦隊は直ちに出撃、これを擊滅せんとす。本日宙域晴朗なれども回廊内の重力波強し』」


『宙域晴朗』というのは、視界が開けて照準が合わせやすいことを意味している。

その一方で『回廊内の重力波強し』ということは、回廊を取り巻くブラックホールの重力波が強いから回廊内からの敵艦隊のビーム砲攻撃の射線は屈折して我々の艦にほとんど命中しない状況にある。つまり気を付けなければならないのは、回廊出口から出てきた敵艦のみということだ。


わたしは片手を上げて了解の意を示し、連合艦隊総旗艦・巡航戦艦シュトムフフェルンの提督席から立ち上がる。


「王国の興廃この一戦に在り。各員一層奮励努力せよ」


わたしの号令一下、総旗艦・巡航戦艦シュトムフフェルンのマストにZ旗が上がる。

強制排気の風が揚がったZ旗をなびかせる。

モニターに映し出されたZ旗がはためくのを確認したブラウニング中将が命令を下す。


「第一艦隊、第二艦隊、マグダネル回廊出口まで全速前進!」

「マグダネル回廊出口まで全速前進! ヨーソロー!」

『マグダネル回廊出口まで全速前進! ヨーソロー!』


第一艦隊司令、第二艦隊司令が復唱する。


「姫様の作戦案に従い、100層単縦陣で前進せよ!」


ブラウニング中将の命令の下、第一艦隊と第二艦隊がそれぞれ並走しながら100層の単縦陣に艦隊陣形を組み替えていく。





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