35.行方
......白雪が学校に来てない。
登校中、いつも見かける姿が無かったってだけだから確定では無い。
俺は昨日の放課後を思い出す。気温の低い中、外で絵を描いていた白雪。
(あいつ、あの日......いつまで描いてたんだ?)
やっぱり、風邪でも引いちまったのかな。帰り際、もっとちゃんと言っておくべきだったか。
もやもやとしたモノが俺の中で渦巻く。
(思えば、あいつは昔からそうだった)
今でこそ女の子らしくなってはいるが、本質は変わってない。気が強くて無鉄砲、わりと楽観的で意外と適当な性格。
昔は俺より喧嘩っぱやくて男らしかったんだよな。
でも、だからこそ、それを知っているのに。......ちゃんと注意しておけば良かった。
って、まだ風邪ひいたとは限らないんだが。メールでもしてみるか。
『学校来てねえの?もしかして風邪?』
送信、と。――ブブブ。
はやっ!?一瞬で返ってきたぞ!?
『すみません。風邪です。マフラーの返却は後日でお願いします』
いや、マフラーて。そんな場合じゃないでしょうが。変なところマジメなんだよな、白雪は。
しかしどうするか。あいつ一人暮らしだろ。
......看病、は逆に迷惑か。けど、何か買っていってあげたほうが良くないか?なにか欲しいものあるんじゃね?まあ、それ届けるくらいなら良いだろ。
『大丈夫か?なにか欲しいものある?買っていくけど』
送信、と。――ブブブ。
いや、返事早すぎるだろ!!
『すみません、この借りは必ず。スポーツドリンクと出来合いのお粥があればお願いします』
『わかった。待ってろ』
さて、コンビニ行くか。つーか、返信速度おかしいだろあいつ文字打つスピードどうなってんだよ。
「よーよー!ハルー!」
「うおっ」
どん!と背中に体当たりしてくる奴が一人。
「日夏か......びっくしさせんなよ」
「あははは、ごめんごめん!して何を悩んでるのかな、少年?」
「いや、別に悩んでなんか......」
悩んでなんかない、と言いかけたその時。日夏が料理スキルを所有していることに気がつく。
お粥......って、さあ。手作りのが美味しいんじゃね?
いや、でもまてよ。どうだろうか。風引いてる女子にお粥作ってやるとかキモくないかな。個人的な見解だけど、なんか隙を狙っているように見えてちょっとあれな気も......でも、白雪は幼なじみだしそんな風には思わないか?
いつの間にかじーっと日夏の顔を眺めること約一分。日夏の顔が赤く染まっていた。
「な、なに、ハル......そんな熱い眼差しで」
「いや。てか、日夏ってお粥って作れる?」
「え、へえ!?お粥は作れるけど......どゆこと?ハル食べたいん?」
「いや、俺じゃないけど。悪いんだけど、作り方教えてくれねえ?」
「?、良いよ。アタシのいつも見てるYooTuberさんが動画あげてたからそのURL送るね」
「おお、ありがと。助かるわ」
「にへへ〜」
最初不思議そうに小首を傾げていた日夏だったが、無事にお粥のレシピ動画を手に入れられた。いや、つーか自分でネットでレシピ探せって話だよね。ごめん、なんか日夏をすぐ頼っちゃう癖がついちゃってる。
にこにこしてる日夏さん。心が奪われそうになりますねえ、この子の微笑は。
まあ、それはそーと、まえまえから気になってることをひとつ聞いておくか。
「あのさ、ちょっと聞いて良い?」
「ん?なに?」
「その......寒くないの、それ」
「え?」
ポカンとした表情の日夏。何を言われたのかわからずにキョトンとしている。
「いや、その......この寒さで、素脚」
「え、あー!これか!」
違うんだよ?別にちらちらと見ていたとかじゃなくて、ほら白雪が風引いちゃったからさ、心配になったんだよね。
決して変な誤解はしないで欲しい。
「大丈夫大丈夫!アタシこれで風邪ひいたことないし!心配してくれたん?ありがとね!えへへ」
「あ、うん......それなら良いんだけど」
の割には顔赤くねーか日夏。いや俺も多分顔赤いけど。むしろ俺のが赤いまである。
「あー、そうだ。ハルさあ、今度のレイド進捗どうなの?順調?」
「え?......あー、まあ」
まあ、悪いよ?とは言えねえ。日夏に心配かけたくねえ。
先輩としての威厳が損なわれそうで怖い。
「そかそか、なら良かった」
まあ、悪いんすけどね?
「当日はさ、アタシも応援行くから!頑張ってよね!」
「え、チケット当たったの?」
「チケット?」
「あれ観戦チケット必要だぞ」
「......え?」
二年に一度行われる全世界大会。そのうちの一つである8人レイドは観客の数も凄まじく、第4回大会でサーバーが落ちたレベルである。
なのでその大会期間だけはログイン制限があり、さらにゲーム内の大会会場で観戦したい場合は、有料の大会観戦チケットを購入するしかない。
いうまでもないが、チケットの入手できる確率はリアル世界の人気アーティストのLiveチケットを入手するよりも遥かに低い。
(まあ、世界大会だから当たり前といえば当たり前なんだが......)
「ま、まじかぁ......」
しゅんとする日夏。そんなに観戦したかったのか。
「いや、まあYooTubeとかネコネコ動画でライブ配信されるからさ」
「あー......ね」
めちゃくちゃがっくりしている!?......うーむ。
「そんなに観戦したいの?」
「......したい。ハルの頑張ってるところ、近くで見てたい」
「.......そっか」
仕方ねえ。いつも日夏には世話になってるからな。アレ使うか。
「日夏......もしかしたらだけど、何とかなるかもしれんぞ」
「!?、ま、まじで!?」
「まじまじ。あ、いや、確実にではないけどな?」
「やったぁ!ありがとー!!」
「うおあっ!?」
がばっ、と抱きついてくる日夏。いい匂いだなぁ......じゃねえ!!人目につくところで抱きつくんじゃなーい!
「まてまてまて!はい、離れてくださーい!!」
「んなーんで?寒いしいいじゃん!」
「よくねーんだよ!なんだその謎理論!」
「にへへ」
離れねえ......かといって無理矢理引き剥がすこともできん。きょろきょろと周囲を確認する。
「あの、日夏さん」
「あい」
「ちょっと歩きましょうか......」
「あーい」
左腕に日夏を装備したまま俺は歩き出す。誰にも見つかりませんよーに、と祈りを込めながら。人目につかないルートを考え道をゆく。
「どーしたら離してくれるんだ」
「ん?離してほしいの?」
「そりゃそーだろ。こんなの学校の連中にみつかったら......」
「え、あ、ヤバいかな?」
「ヤバいだろ。友達のいない俺はともかく、お前がな」
「えー、何がヤバいの?アタシは別に困らないけどなあ」
「はあ?困るわ!こんな陰キャと......つ、付き合ってるなんてもし誤解されてみろ。陽キャグループでの肩身が狭くなるぞ」
「え?」
ぽかーん、とした顔でこちらを見つめる日夏。?、俺なんか変なこと言ったか?そんな事を考えていると、彼女は眉間にみょっとシワを寄せた。
「んん?それって......どゆこと?」
「いや、どゆことってそういう事なんだが。......お前の学校生活に波を立てたくない」
というのは半分本当で、半分は嘘だ。俺のためである部分が大きい。彼女には多くの男性ファンがついている。
だから、俺と日夏が付き合っているだなんて噂がたとうものなら、ここまで築き上げた平穏はあっという間に壊れていくだろう。
(......それは嫌だ。これまでにネトゲに捧げた全ては......そんなことで失いたくない)
「それ、本当?」
「え」
「嘘、つかないよね?ハル」
「あ、ああ......まあ。って、何が?」
「友達のいない俺はともかく、って部分......あとはアタシの問題ってことだよね?」
「......え」
――......この空気は、ヤバい。本能で感じるなにか。
日夏がしきりに髪を気にして、手で撫でといている。
「......あのさ、ハル」
何かが変わってしまう。そんな恐怖が込み上げてきた。
「もし、良かったらなんだけど、さ......アタシと」
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