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15.ゆき





――中学2年生の冬。


ある日、親友がその姿を変貌させた。


突如現れたその美女は、絹のように滑らかな長い黒髪と、施された化粧。


薄く引かれた紅に、おそらく男であれば......いや、女性ですらも例外なく惹かれるのでは無いかという程の魅了が宿る。



――そう、まるで蛹が蝶へ変貌するように。





「......あ、え」


「春一くん......」





彼女の名前は黒乃白雪。俺の幼なじみで親友とも呼べるほど仲が良かった人。


そう、仲が良かった、だ。


中学1年が終わり冬休みへと入ったタイミング。俺はネトゲの話を彼女へとした。


それ以前から俺たちの間には不穏な気配がしていて、白雪になぜか避けられているようなそんな気がしていた。だからこそだった......彼女を失いたくなくて、どうにかしたくて。


何かで繋ぎ止めたくて、俺がハマっていたネトゲの話をした。


「とても面白いゲームなんだよ」とか「景色が綺麗」だとか、「オススメのダンジョンは〜」等たくさんそのゲームの魅了を話した。なぜなら俺はそのネットゲームを、DFを彼女と一緒にプレイしたかったからだ。


『また、二人でたくさん遊びたい』


あの世界を、相棒のような白雪と共に冒険できれば、あの美しい景色はより美しく、波乱万丈で壮大な冒険はより心躍るストーリーになるんじゃないか......そして、また一緒にいられると、そう思っていた。


しかし俺のその行為は逆効果になった。そこから更に俺を避けるようになり、会話もままならなくなって......そして久しぶりに顔を合わせてみれば。





「......」


「......」




白い雪の舞うこの場に舞い降りた、お姫様のように。


その表情には戸惑いと不穏に彩られていた。




「あの......私は......」


「......」




住む世界が違うような錯覚と、そして鳴る鼓動......俺は確かにあの時。



「......お、おう。 ......じゃあな」



もう元には戻れない事を理解した。お互いに。







◆◇◆◇◆◇





......ネトゲが決別の決定打じゃなかったのか?


俺の勘違いだったのか?だとしたら他に何が原因に......ダメだ、混乱してる頭じゃ思い出すことも整理することもままならない。


とにかく、今は目の前の白雪だ。



「いいけど、俺のやってるのはネトゲだぞ......興味あるのか?」


「はい。 春一くんのしているゲームがどういう物なのか少し知りたいです......ダメ、ですか?」


視線を下へと反らしながら、消え入りそうな声で彼女はそう俺に問いかけた。


(もしかして、今になって......ネトゲに興味が出てきたのか? なぜ......彼氏の影響か? いや居るか知らんけど......もしくは友達か)


いや、そんな事はどうでもいいだろ。何考えてるんだ。とにかく興味があるのなら見せてやればいい話だ。俺は白雪の幼なじみ、それ以上でもそれ以下でもない。


「良いよ。 けど時間も遅いから、少しだけ」


「......ありがとうございます」



手のひらを合わせ微笑む白雪。不思議だな......この違和感はなんだろう。

しかし好きなゲームであるFDをみたいなんて、それだけでも結構嬉しかったりする。


(どこ見せようか......戦闘か、景色か、ストーリーか。 迷うな)


そんな事を考えながら、いつもゲームをしているPCのある寝室の扉に手をかけた......しかしその瞬間、数時間前の光景がフラッシュバックした。



『寝室へポーイ』



(......あ)




扉に手をかけたままピクリともしなくなった俺に白雪がきく。




「......? どうかしましたか?」


「え、いや......」




えっと......流石に白雪にこのめちゃくちゃな部屋はみせられないな。これを目のあたりにした彼女に辛辣な目で見られてしまう事態に陥るのは想像に難くない。


(......けど)


かと言って片付ける時間も、散乱したものを隠す時間もない......しかたない、今日のところは帰っていただきますか。



「?」



眉間にシワをよせ、怪訝な視線を向けてくる白雪。




「白雪さん、ゲームはまた今度にしませんか?」


「いいですけど......なぜ敬語なんです?」




「今日はもう遅いので、今度時間がある時にでもゆっくりと」


「......わかりました、ではまた今度と言うことで。 帰りますね」


「ああ、すまん」


「ふ、ふふっ」




「どうしたんだ? 何かおかしかったか?」


「......昔から変わりませんね、そのすぐ謝る癖」


「......すまん」


「また、ふっ、ふふ」




彼女がそうして、何気ないことで笑みを見せる。それだけで俺は今日一日の嫌な出来事も、体と心の疲れも、テストでの憂鬱な気持ちすらも、全て消え去ってしまったかのように感じた。




「行くぞ。 風邪ひかないようにあったかくしてけよ」


「お、お母さん! お母さんみたいな、あはは」




いや、普通じゃね!?ダメだこいつ、多分笑いのツボが浅くなってて何言っても笑うぞ、これ。




「お前ね、心配してるんだけど。 白雪も一人暮らしなんだから、体調崩したら大変だろーが」


「ごめんなさい、面白くて......心配してくれてるのに、すみません。 ありがとうございます」




笑いすぎて涙がでた白雪は、指先でそれを拭っていた。




「ほら、マフラー」


「あ、はい。 ありがとうございます」




マンションから外へでると、この気温の低さに納得の天候を目の当たりにする。


白いものが空からフワリフワリと舞い落ちていたのだ。




「雪、ですね」


「寒いわけだな」




そろそろだとは思っていたが、今日ふるとは。路面凍ってたら怖いな。滑るトコはマジで信じられないくらい滑る......それこそ、「ここ凍っていて明らかに滑るな」と気をつけても滑るレベルなのだ。




......滑って骨折とか、去年の担任のようにはなりたくねえ。いま時期だったもんな、あれは。


痛いのは当然嫌だが、それよりも下手に腕や手、指を折ってネトゲが出来ない体になってしまうのが嫌だ。発狂しちゃう、アタシ。




――しかし




噂をすればなんとやら、それは唐突におこった。白雪のマンションの前、ついて気が緩んだのかそれは見事にツルンと滑り、重心が傾く。




しかも最悪なのはそれが俺ではなく、白雪の身におこったことということだ。




「――きゃ!?」




「あぶねえッ!!」




とっさの事で考えている暇もなく。俺は白雪を抱き寄せるように背中から落ちた。




「......ッ! いってぇ......!」


「あ、春一くん!? だ、大丈夫ですか......!?」


「だ、大丈夫。 白雪は大丈夫、か......」




気がつけば至近距離にある彼女の顔。




(ち、近っ)




頬が紅く染まった彼女はとても綺麗で、言葉が雪のように消えゆく。




「大丈夫、です......あ、ありがとうございます」


「あ、ああ......き、気をつけろよ」


「......うん」



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