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第十七話:桜の悪夢と僕らの夢

 この人だ――この人は、一体…

「あ?誰だてめえ」

 初対面で険悪な目つきで睨まれた。

「ちょっと、お兄ちゃん、いきなり…」

 ああ、秋庭さんのお兄さんか…。

 安堵で力が抜けた。

「すみません、兄です」

 相変わらず睨まれたままである。かなり恐い。

「秋庭桜。仲良くしましょうや」

 桜さんは、うってかわって、笑顔で握手に片手を差し出してきた。

「痛ッ!?」

 素直にとった手を、信じられない握力で握り返して来る。

 ちょっと、痛いんですけど。というか、ゴリゴリと骨が軋む音が聴こえてるんですが。

 しかし、桜さんは笑顔を崩さない。心なしか、さっきよりこう…なんというかニヤリとしているような。

 それより、そろそろ手が折れます。絵筆が持てなくなってしまいます。

 つか、ホント痛てえ!!

 佐々さんの言ってた意味がやっとわかった…『桜に気をつけろ』ってこのことかーー!!

 もう少し、具体的に教えてほしかったなあ……。

「…何してるんですか?」

 秋庭さんがいつまでも握手をし続ける僕らに、不信な目を向けたのは言うまでもない。



 中に入るなり、桜さんはダッシュで上に上がった。

「あっ!?」

 後から上がった秋庭さんの驚愕の声が聞こえる。

「私の部屋が滅茶苦茶に…」

 桜さんだ。

「残念だったな、紅葉。勉強は居間でやるといい。俺がしっかり見張っててやる」

 …しかし手段が姑息だなあ…。

 秋庭さんが居間のテーブルを準備している間、こっそりと桜さんに呼ばれた。

 秋庭さんの手伝いをした方が良いのだろうが、拉致に近い勢いで桜さんに引っ張られる。

「おい、お前なんで紅葉が勉強会なんてやろうとしたかわかってるか」

「え?」

 はー…、と桜さんは深くため息をついた。

「あのなあ。紅葉が友達を家に連れて来ること自体物凄く珍しいんだよ」

「……」

「ましてや、勉強会。勉強ってのは大勢でやるほど効率が悪くなるものだし」

 そうなのか。ようやく大河内が不思議そうな顔をした事に納得がいった。

「あいつは多分、今の状況を一時の夢か何かだと思ってる。だから、テストが終わる頃には今の環境が無くなってしまう気がして、テストの終わるまで待てなかったんだな」

 …僕はそんな秋庭さんの気持ちに、ひとつも気づけなかった。

「お前、紅葉のことどう思ってる?」

「どうって…」

 それは、

「嫌いとか言ったらぶっ飛ばす」

「嫌いなわけないじゃないですか」

「好きとか言ったらこの世から消す」

「……」

 好きなのですが。

「じゃあ何て言ったらいいんですか」

「しがないただのクラスメイト・友人Aと言え」


 ちょうどその時、玄関のチャイムが鳴った。

 桜さんが飛んでいってドアを開ける。

「こんにちはー」

 まずは笑顔で遙を迎え入れた。

 そして、坂下と大河内に向かって眼光を飛ばす。

「お前らは?」

 坂下が答えた。

「しがないただのクラスメイト・友人AとBです」

「よし!お前のことは気に入った!まあ、入ってくれ」

 桜さんは僕のほうに戻ってくると、小声で、

「つーか、四人来るって言ったうちの三人が男ってどういうこと?人の妹にきやすく近寄るなよ」

 桜さんは尚も問い詰めた。

「お前、紅葉に告白したんだって?」

「!?」

 何で知ってんの!?

「俺の情報網を侮るんじゃねえぞ。で?返事は?」

 返事…秋庭さんからの、返事。

「まだ…です」

「ふーん。振られたんじゃね?」

 うわ。何て事を。

 僕にとどめを刺すと、桜さんは居間へ戻っていった。


 返事か…。

 結局、僕は怖かったのかもしれない。

 秋庭さんが果たしてなんというのか。

 答えを聞いた瞬間に、ふくらんだ風船に針を刺したときのように、この環境が消えてしまう様な気がして。

 『あいつはこの状況を一時の夢か何かだと思ってる――』

 桜さんの言葉が脳裏に蘇る。

 きっとそれは、僕も同じ。


 今のこの世界は、夢という領域を離れて、現実となる日が来るのだろうか?


 ねえ秋庭さん、君は――

 僕のことを、どう思っているんだい?

 





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