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第十六話:恐怖の六月とあの人は誰か

 結局、遙と見たあの桜は、先日の雨で皆散ってしまった。

 なんだか名残惜しいような気もするが、また来年、何事もなかったように、桜は笑うのだろう。

 そうして、桜の代わりに紫陽花が色付く。

 そんな、六月の始まり。


*


 …なにが六月の始まりだ。

 始まるな六月。

 六月は学生にとって恐ろしい月である。

 思えば伏線はあちこちにはりめぐららされていたのだ。

 すっかり忘れてた僕も悪いけどさ。『ここ中間の範囲だぞ』

『テストに出ますよーしっかり覚えてねー』

 テストなんてまだ先だろう…。

 五月が終わる。

 え?六月?


 『中間テスト』


「いや――――!?」

 坂下の絶叫。ありがとう坂下。お前がやらなきゃ、僕が叫んでた。

 思えば、前回のテストで30位以内なら秋庭さんに告白、とか言ってたんだよな。もうこんなにたったのか…。

 坂下が絶望的な顔で口の端を歪ませる。

「もうこれは多少の不正行為に頼るしか」

「そちも悪よのう」

「いえいえお代官様ほどでは」

 なにやってんだ、僕ら。

「なにやってんの?」

 大河内が少しひきぎみに突っ込みを入れた。

「あーあー、キミキミ、優等生は去りなさい」

「何言うかこの」

 軽く喧嘩を始めようとしたところで、

「男子ってほんとバカよねえ」

という、遙の声が聞こえた。

 目線がこっちを向いているように思うのは、気のせいか。

「悪かったな」

 とりあえず言い返すと、

「誰もあんたらの事とは言ってないでしょ。反論するってことはどっかやましい部分があるからなのよ」

 うあ。正論で攻めて来やがった。


「あ、あの」


 秋庭さんだった。大分緊張気味だ。

「えっと…勉強会、しませんか」

 勉強会?

 大河内が不思議そうな顔をした。確かに珍しいけど、そこまで不思議か?

「面白そう!あたしも入れて!」

 遙が食い付いて来た。

「場所は?」

「あ、私の家でどうですか?」

 うわーー!秋庭さんの家!?

「行きます!」

「俺も」

「んじゃ僕も」

「僕も行っていいかな?」

 ん?一人多くないか?

「うわっ一崎!」

「なんだようわって。失礼な」

 いつの間にか一崎が後ろに立っていた。

「いやいや、最近出番少ないし、皆忘れてないかなーと」

「なんの話だ?」

「こっちの話だよ」

 世の中にはトップシークレットがあるのです。

「佐々さんは?」

「ん?ああ、うちは用事あるから」

 佐々さんの用事。皆薄々感付きつつあるけれど、誰もあえてそれを口にしない。

 転勤族…か。

 秋庭さんが少し、寂しそうな顔をした。

「日にちは?」

 一瞬静まった空気を、大河内が破る。

「あ、いつでも大丈夫なのですが…」

「そうだねえ。土日は自分で勉強した方が良いだろうし、今日か明日かな?」

 さすがに大河内、勉強は得意なのだ。

「そうですね、大丈夫です。学校帰りまっすぐでも良いですし」

 一崎が手を上げた。

「あ、俺今日はちょっと」

「あたしは明日無理…」

 遙も続ける。

 秋庭さんは数瞬考え、

「それじゃあ今日と明日、二日やりましょう」

 という結論となった。


*


 待ちに待った放課後。ついに秋庭さんの家に…!

 大河内達は掃除があるので、地図を渡して、先に秋庭さんと二人で行くことになった。

 ちょっとちょっと。一生分の運使いきったかも。

 出発前、佐々さんに呼び止められた。


「桜に気を付けろ」


 桜?一体なんの事だ?

 しかしこの後、僕は身を持って桜の悪夢と対峙するのだった…。


 他愛のない話をしながら道を歩く。

「秋庭さんって兄弟いるの?」

「ハイ、兄が一人います」

 意外。秋庭さんって妹だったのか。

「へえ、僕は妹がいるよ」

 秋庭さんはくすっと微かに微笑んだ。

「ちょうど逆ですね」

 あー!うちの妹も秋庭さんみたいだったらいいのにー!

 あいつは全く可愛いさの欠片もない奴だ。世の妹萌えとかいうのを本気で疑う。

 まあ、秋庭さんなら別だろうけど。


 一瞬、最初に見た秋庭さんの笑顔を思い出した。

 もう六月か…こんなにたったんだな。

 あの時秋庭さんは誰かと一緒に歩いていて…

 …ん?『誰か』?


 秋庭さんは誰と歩いていたんだ?


 …確か男だった気がする。


 彼氏はいないって言っていたけれど―――


 心臓が早鐘のように脈うつ。

「ここです」

 そうしている間に、秋庭さんの家に着いた。

 しかし頭の中は記憶を掘り起こす事で精一杯だ。

 秋庭さんがチャイムを鳴らす。

 ドタドタと音がし、数秒後、ドアが開いた。


「よお。おかえり」


 瞬間、僕の記憶は全て繋がった。


 秋庭さんと歩いていた人


 この人だ―――。

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