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第29話 ふふふ……やっぱり激甘党!

 休日だからか、キャンパスは人がまばらだった。


 広い校門から、まっすぐ続くプラタナスの並木。

 お洒落な大学生たちのカラフルな傘が合間あいまめている。


 なんか、楽しい。

 

 大学生になった気分。


 大学の学食なんて、はじめてだ。


 橘くんは慣れた様子で、ガラス張りの建物の大きな外階段を上がる。


 そこで、二人で一つ傘の下タイムは終わりだった。


「橘くん、こんな場所よく知ってるね。はじめてだったら、絶対一人で入れないよ」


「ああ。一番上の姉が、ここの大学だから」


 橘くんは傘をたたみながら言った。


 えっ、一番上の姉……?


「アヤノさんの他にもおねえちゃんがいるの?」


「うん、姉二人の三人姉弟(きょうだい)


 橘くん、末っ子なんだ。

 おねえちゃんが二人……?


 二人のおねえちゃんに可愛がられてきたのかな、橘くん。

 なんか、想像つかないよ。


 どうやったらこんな感じの男の子に仕上がるんだろう……。


「奥の窓際の席行くか。あっちがオススメ」


 橘くんに連れられて、ガラス張りの窓際のカウンター席に座る。


 市立大学の学食は、とにかくひろーーーーーいカフェ、という感じだった。


 奥に食べ物飲み物を頼むカウンターとレジがあって、トレーを取って並ぶようになっている。


 片側はカフェだけど、反対側はミーティングとか勉強をするスペースの雰囲気で、カフェとミーティングスペースがゆるく繋がっている感じだ。


「取りあえず、何か飲み物取ってくる?」


 勉強道具の入ったカバンを置いて、二人でカウンターへ向かう。


 橘くんはアイスコーヒー。わたしはアイスティーを頼む。


 なんかほんとに、デートみたい。


 橘くんはシロップを五個取った。


 シロップ五個……!?


 ふふふ……やっぱり激甘党!なのになんでコーヒーなの……。

 可愛い。

 強面なのにシロップ五個……。


「いま、笑ったっしょ」


「え……っ、笑ってない、笑ってない、全然笑ってないよ!!」


 わたしは慌てて誤魔化す。


「俺の勝ち」

 橘くんは嬉しそうに言った。


「え……っ?何その勝ち負け……!」


「いや、西嶋さん笑わすのが俺の使命だから。……さすがに五個は入れないって。ヤバいっしょシロップ五個入ったアイスコーヒーって……」

 笑いながら橘くんは言う。


「ええ……っ?」


「入れて三個かな」


「いやいや三個でも多いでしょ……!」


 わたしは完全に吹き出していた。


 ありがとう、橘くん。

 橘くんが居てくれたらわたし、笑えるよ。


 笑いたい時に、笑えてるよ。


「それより今日は勉強でしょ勉強!」


「だな」


 言いながら、しっかりシロップ三個入れてる橘くんが可愛かった。


「橘くんは、何の教科が得意なの?」


「俺は完全に理系だからなー。正解がはっきりしてない系の教科は苦手」


「……っぽい!料理って科学って言うもんねー。橘くんのお菓子って、緻密ちみつな計算にもとづいてそう……!」


「うん、だからさー、正直夏祭りのパートドフリュイが気になってしょうがなくて。ほんとはもうちょっといろいろ試したいんだよね。ペクチンの量とかクエン酸入れるタイミングとか。あとブドウの品種もなー。もうちょっと向いてる品種あるんじゃないかと思うんだけど。こないだのはじゃっかん皮のエグみが……」


 は、始まってしまった……。

 橘くんたぶん、頭の中スイーツのことしかないのよね。

 薄々気付いていたけど。

 スイーツについて話し始めると止まらないみたい。

 強面なのに、スイーツについて延々《えんえん》と語り続ける橘くん……。


「でも桜田がさー、俺に任しとくと部費がいくらあっても足りないとか、その値段じゃ売り物になんないとか色々言うから……」


 勉強……。

 今日は、勉強をしに来たんじゃなかったかしら……。


 まあ、いっか……。

 スイーツのこと語る橘くん、キラキラ輝いてるから。


 見てるだけでこっちも元気出るよ。




 ***




「そろそろ、お昼食べる?」


「おーたしかに。もうこんな時間か」


 二時間ほどちゃんと勉強して、気付いたらお昼だった。


 お昼は学食かな?と思っていたのに、橘くんはカバンから風呂敷に包まれた何かを取り出した。


 風呂敷……!?

 いかついストリート系ファッションの橘くんと、抹茶色の和柄の風呂敷……。

 なんか妙に似合っていて逆にお洒落かも。


 風呂敷を開けると、アルミホイルで包まれた三角形の……これは……もしや、おにぎり??


「しゃけと、梅と、たらこ……苦手なものある?」


 橘くんは当たり前のようにわたしの前にアルミホイルで包まれたおにぎりを並べていく。


「ち……ちょっと待って」


 わたしは思わず橘くんをさえぎっていた。


「橘くんが、作ってきてくれたの?」


「うん。これ、保冷できる風呂敷なんだよね、便利でしょ」


 ……じゃ、なくて。

 この強面こわもてで、朝からおにぎり握ってたの……?

 二人で食べよう……って?

 そしてそれをアルミホイルで包んで……?


 どんな人よ……。


 わたしは再びえが限界にきて、思わず机にした。


「なに、おにぎり苦手だった?」

 橘くんは少し不安そうな声。


「苦手じゃない……すごい嬉しい」

 わたしは突っ伏したまま言った。


「おにぎり、ラップじゃなくてアルミホイル派なんだね」


「うん。アルミホイルの方が握ったままの感じたもてる気がして」


 橘くんのおにぎりは、やっぱり美味しかった。

 この大きくて綺麗な手が握ってくれたのかなって思ったら、よけいに美味しかった。


 固くなくて、むとほどける柔らかい握り方に、橘くんの優しさを感じる。


「橘くん、スイーツだけじゃなくて、料理もするの?」


「いや、料理はあんまり。つーか、おにぎりは料理じゃないでしょ」


「でもこのしゃけ、ちゃんと家で焼いたやつでしょ。こうばしくて美味しい」


「うん、まあ。グリルで焼くだけだし」


 朝から、焼いてくれたんだな。

 しゃけ、焼いて、ほぐして、おにぎりに入れてくれたんだな。


「ありがとう。美味しい。これ食べたら、勉強頑張れるよ……!」




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