第12話 『推し』の幸せは、祝福すべきものだ……うん。
橘くんのエプロン姿(+白シャツ腕まくり)カッコ良かったな~。
橘くんは、見た目はイカついのに、一つひとつの動作がとても丁寧だ。
粉を篩にかけたり、泡立て器で材料を混ぜたり。焼いたどら焼きの皮で一つひとつあんこを包んでいく姿も。
丁寧で綺麗な動作を、ついつい目で追ってしまう。
そして、やっぱり笑った顔は可愛かった。
笑った顔、もっと見たいな。
いままでのわたしの恋と言えば、
彼氏いる人うらやましいな、
わたしも彼氏欲しいな、
彼氏になってくれそうな人いないかな、
お、吉木くんとかどうかな、
なんか、そんな軽い感じだった。
橘くんに対する思いはそういうのとは違う。
身近に『推し』を見付けた感じだ。
橘くんの動き、発する言葉のひとつひとつに、キュンってなる。
彼氏にしたいとかそういうのとは違って(もちろん橘くんがわたしのこと好きになってくれてわたしのためだけにお菓子作ってくれてわたしのためだけに笑ってくれたらすごく嬉しいけど)
なんと言うか、陰からこっそり推し続けたい……!
そんな感じ。
家庭科研究部に入部しようかな。
そしたら毎日橘くんのお菓子が食べられるし。
堂々と橘くんの姿を愛でられるし。
「あれー?帰宅部のひさめがこんな時間に学校にいるの珍しいね。誰か待ってるの?」
同じ学年の友人数名に話し掛けられる。テニス部の子達だ。
「え、えっと……ひみつ!」
え、なんなの秘密って~と言いながら、去っていく友人たちにほっとする。
なんせわたしは今、校門手前で橘くんを出待ちしていた。
どら焼きを食べさせてもらった後、片付けとかもあるから先に帰ってていいよと言われて、たしかにアウェイな家庭科研究部に居続けるのも気まずかったので、その場は退出してきたのだ。
そしてあわよくば偶然を装って(?)一緒に帰れないものかと、こっそりここで待っていることにしたのだ。
頭の中で、本日の橘くんを振り返りながら。
だけど、この、わたしの(正直自分でもちょっと気持ち悪い)一連の行動が、激しく裏目に出ることになる。
そう言えば橘くんって、どうやって通学してるんだろう。
自転車?歩き?それとも電車かな……。
まあ、なんでもいいや。
一緒に帰れなくても、橘くんにもう一度会えるなら。
あ、人来た。橘くんかな……。
と思ったら、現れたのは黒髪ゆるふわパーマの美人さん。
スタイルいいな。
あの人って、たしか家庭科室に居た『アヤノさん』だ。
隣には……え……橘くん……?
橘くん……笑ってる。
クラスでは見せたことがないぐらい、自然に。
幸せそうに、笑っている。
橘くん、あんな笑い方するんだ。
わたしは慌てて校門を離れた。
綺麗な人だな。
アヤノさん。
橘くんと並ぶと美男美女。
そっか……橘くんイケメンだもんね……。
彼女とかいて当たり前。
橘くんは、『推し』だから。
『推し』の幸せは、祝福すべきものだ……うん。




