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最強魔法使いは異世界から帰りたい(リライト版)  作者: やまだ ごんた


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38.

 魔力差により子供ができないことを焦ったカインの母は、噂を頼りに魔力を増幅する魔法を探し出した。

 それは、アベル王子が妻に魔力を分け与えるためのものだったと聞いていたが、実際は彼女の命を魔力へと変換するものだった。

 そして、その呪いはカインにも影響を与え、カインの命を削って黒い魔力を生み出すようになった。

「そして、それを仕掛けたのが、ミケロ・バロッティ――アンジェロとどういう関係があるのかは知らないが、バロッティ一族の者であることは間違いない」

 シゲルは、カインがなぜあんなにもバロッティへの憎悪を抱くのか、やっと理解することができた。


 なんで、カインさんがこんなに苦しまなきゃいけないんだろう――

 シゲルは話を聞きながら胸が苦しくなった。

 こんなに綺麗で、優しくて強い人なのに、誰よりも苦しんでいる。

 頼りだった奥さんを亡くして、彼女の遺した魔道具を頼りに生きるのは、どれだけ心細いだろう。

 なんとかしてあげたい――シゲルは強く思った。

「すまない。暗い話をしてしまった」

「いえ、僕こそ、踏み込んだ話をさせてしまって」

 シゲルが言うと、カインはにこりと笑ってみせた。

「聞いて欲しかったのは私だ。この年になるとね、誰にも話せないことも多くなる。親友だった者達も10年前に亡くなり、父も3年前に母の元に旅立った。昔の私を知るものはもう誰もいないんだ――だから、つい君に話してしまったんだ。許してくれ」

 その笑顔は爽やかだったが、やはり寂しそうだとシゲルは感じた。

 長く生きることが、私の罰だったのかもしれない――と、カインは小さく呟いたが、シゲルは聞こえないふりをした。

 聞いてはいけない言葉だと思ったからだ。


 沈黙の中でシゲルは、さっきの話にヒントがあったのではないかと考えた。

 カインの妻の魔力吸収、母の呪い、アベルの魔法陣、袋の魔法陣――

「そうだ、魔法陣だ」

 シゲルが呟くと、カインが驚いてシゲルを見たが、シゲルは考え込んでいる。

「魔法陣は魔力を使うんだ。それは別に使用者の魔力でなくてもいい――魔力を流して放出したら……」

 ぶつぶつと呟きながら、地面にカインの読めない文字――古代語でもない、見た事もない文字――を書いている。

 しばらくすると、目の前の地面いっぱいに魔法陣のような、違うような図式が出来上がった。

「できた――多分これでうまくいきます」

 シゲルはそう言うと、カインに笑いかけた。

 カインは、全く理解ができなかったが、とりあえず笑い返した。


「いいですか?僕の体をアースにして、カインさんの魔力を空気中の魔力に還元します」

 シゲルの言うことはよく分からなかったが、カインはうなずいた。

「つまり、君が魔力を吸収するってことでいいのか?」

「――そんなところです」

 シゲルも説明を諦めた。

 吸収することに変わりはないのだ。ただ、それをシゲルが保持するか、大気に流すかの違いなのだから、こだわる必要はない。

「じゃあ、いきますね」

 カインの背中に手を当てて、作ったばかりの魔法陣を展開すると、狙い通りカインの魔力が流れ込んでくるのがわかる。

 黒い魔力――黒い魔力だけを吸収するんだ。

 シゲルはカインの中の魔力から、黒い魔力を探し当てると、慎重に引き抜いた。

 こいつを全部引っこ抜けば、カインさんは解放されるのかな。

 慎重に手繰り寄せながら、シゲルはあることに気が付いた。

 魔力と共に、カインの心が流れて来ているように感じられた。

 悲しさ、悔しさ、懐かしさ――そういった感情が魔力と共にシゲルの体を通り抜けていく。

 ああ、魔力が魂と対になるってこういうことなのかも知れない。

 シゲルは、つい感傷に揺られたが、黒い魔力を吸収することに集中した。

 だが、その魔力は、カインの魂に根深く絡みついていて、最後まで引き抜けない。

 だめか――

 それでも、可能な限りの魔力を吸収し終えると、カインの顔色は目に見えて明るくなった。

「大丈夫ですか?かなり吸収しちゃいましたけど」

「いや、大丈夫どころかとても軽くなった――君には驚かされてばかりだ。さすがはアベル王子の現身と言ったところか」

 カインが言うと、シゲルは首を振った。

「やめてください。僕は僕ですよ。アベル王子なんて知らないし、会ったこともないんですから」

「そうか。すまない」

 カインは微笑むと、シゲルの肩に軽く手を置いた。

「人に魔力を吸収されるのは久しぶりの感覚だったから驚いたんだ。妻と違って、一気に持っていかれたしね」

「奥さんはもっとゆっくり?」

「ああ。半刻もかからなかったが、ゆっくりと魔力を吸い取ってくれていた」

 カインの言葉にシゲルは少し考えてから、嬉しそうに言った。

「だったら、きっと奥さんはカインさんの心を感じていたのかもしれませんね」

 シゲルの言葉に、カインは「あ……」と、小さく漏らした。

 そして、見る間にその目に涙をためると、声を振るわせた。

「妻もよく言っていた。子供の頃から私の心を感じていた……と」

 シゲルは、カインが顔を背けてしまうのを、優しい目で見つめていた。

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